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テロ、スパイ、外国による侵略、大量破壊兵器、反社会的組織、凶悪犯罪、情報戦など、国内外の重大な脅威からみなさまの生命と財産を防衛する一助になりたい。 Twitter @defense_jp_bot

スパイ活動の手口について

【どうやって潜入するか】

スパイが外国で任務に就く場合、海や空から人目を避けて侵入したのち「背乗り」と言って現地人の戸籍を乗っ取ってなりすましたり、

 

(国交もなく、経済制裁の一つとして日本との人的往来が制限されている北朝鮮がよく用いる手法である。現在はホームレスから戸籍を買い取るなども行っているという。 日本のパスポートで入国できない国はほぼないため、日本人になりすますメリットは大きい。対韓工作をする場合にも、韓国人を装うと同じハングルを使う同じ民族であるため、言葉遣いの違いなどささいなことで怪しまれてしまうが、日本人を装って入国すれば怪しまれることは少ない。)

 

ジャーナリストや商社マンなど社交的な場に顔を出しやすい職業に扮したりすることもあるが、大使館職員という身分で送り込まれることが多い。

その理由は、合法的に入国して長期間滞在できるのはもちろんだが、1961年に締結されたウイーン条約によって大使館職員、外交官などには抑留・拘禁の禁止などの外交特権が与えられているからだ。そのため、現地の防諜機関にスパイ行為を行っていたことがばれてしまっても逮捕されずにすむのだ。その場合、ペルソナ・ノングラータ(好ましからざる人物)として国外退去命令を受けるだろうがまた新たなスパイが大使館員という身分を与えられて後釜として派遣されるわけである。

 

つい昨日、マレーシア政府は自国内で金正男氏を暗殺した事件への対応をめぐり、駐在北朝鮮大使を「ペルソナ・ノングラータ(好ましからざる人物)」として国外追放すると発表したが・・・

 

 

本ブログで述べた、元陸上自衛隊幹部が内部情報を渡したGRU(ロシア軍参謀本部情報総局)とみられるロシア人も当時ロシア大使館職員であったし、大島真生著『公安は誰をマークしているか』(2011)新潮社 p139~140では以下のように述べている。

 

「在日ロシア大使館員は、三分の二がSVRやGRUのスパイとされ、三分の一が本来のロシア外務省の外交官とみられている。」

 

外国と日本の文化などを比較、紹介などするテレビ番組で、外国の大使館を楽しげに訪問しているタレントを目にしたが、本当に大丈夫なのかと思ってしまう筆者ははたして心配しすぎだろうか。テレビ局をはじめ大手マスコミの関係者というのは社会に対するとてつもなく大きな影響力を持つ者の一人だろう。新聞記事、ニュース記事一つで総理大臣の首をはね、選挙結果を大きく左右することさえ可能だ(「椿事件」について調べていただければお分かりいただけるだろう)。外国が自国にとって都合の良い世論を日本で作ろうとする場合、最も効率的な方法がマスコミ関係者への工作ではないだろうか。

 

【リクルート】 

意外に思われるかも知れないが、スパイは外国に潜入しても、自らの手を汚して機密情報を盗むことは少ない。自分たちの存在が表に出ないようにしながら現地人を「エージェント(協力者)」として味方に引き入れ、訓練しスパイ行為を行わせる。我々は外国人にだけ注意を払っていればよいわけではない。いつも親しくしていた日本人の友人が、実は外国のエージェントで、ふとした気のゆるみから弱みを握られるなどして協力させられた、などの事態にも十分警戒すべきなのだ。

 

 【役割分担】

「ケースオフィサー」

大使館員などの身分で送り込まれ、エージェントをリクルートし指示を与えるスパイを「ケースオフィサー」、または「ハンドラー」と呼ぶ。ケースオフィサーとエージェントの間に仲介役を置き、彼らの関係性を現地の防諜機関に分かりにくくすることも多い。彼らは「カットアウト」(遮断装置の意)と呼ばれる。そのほか、エージェントがスパイ活動を行う際使用するハイテク機器の使用法を教え込むなど、技術面で支援を行う「クーリエ」という職種もある。そして、これらのスパイ網を監督する総元締め的役割が、スパイマスター(親スパイ)である。情報機関のトップや幹部が務めることが多いが、一部の国は大使館の駐在武官として現地で活動させているという。

 

「エージェント」 

実際にスパイ活動を行うエージェントにも様々なタイプがいる。ケースオフィサーにリクルートされた現地人もいれば、情報機関に応募し訓練を受けた者もいるだろう。特に標的にハニートラップを仕掛ける女性(標的によっては男性)エージェントは、生半可な覚悟ではできず、また標的を虜にするテクニックを身につける必要もあるので、後者が多いと考えられる。

 

・モール(もぐら)は、長期間にわたり相手国に潜入、つまり潜(もぐ)り情報を提供し続けているエージェント。ちなみに高橋のぼる氏の漫画「土竜(モグラ)の唄」のタイトルも暴力組織に潜入した主人公の捜査官に関係しているのだろう。

 

・スリーパーは「眠っている」エージェントで、普段は現地の社会に溶け込んで普通の暮らしを送り、指令があったときにのみ活動を開始する。その性質上指令がなければ一生スパイ活動をしないこともあり、防諜機関からすればスパイと認知することが大変困難である。

 

・アクセスエージェントは、標的となる者への働きかけを担うエージェントである。標的に接近し、会話の中から情報を探ったりする者、ハニートラップを仕掛けて標的を脅す者などが該当する。

 

・インフルエンス・エージェントは、その国の政府の意思決定や世論に大きな影響力を持つ者がなったエージェント。以前述べた、世論に影響力を持つ者が外国の意に沿った発言をさせられているケース。世論への何かしらの影響力を持ち、また為政者に働きかけてその国の政策を変えさせることもできる存在である。

 

 

また、現地在住の自国民や自民族に協力をさせることも多い。

大東亜戦争(太平洋戦争)当時、アメリカ政府が日系アメリカ人を収容所送りにしたのも、日本政府が日系人のネットワークを利用してスパイ活動を行うことを恐れたためである。

 

また、北朝鮮の工作員は日本に潜入した後、現地の同胞を協力者として利用することが多く、これを「土台人」と呼んでいる。工作員は日本に潜入した後彼らに接触し信用させ、住まいを提供させる。橘茂雄発行『新 警備用語辞典』(2009)立花書房p297には「土台人」について以下のように記されている。

 

「土台人(どだいじん)としてねらわれるのは、北朝鮮に肉親がいるほか、日本である程度成功して経済的にも余裕のある同胞であり、パチンコ店経営、喫茶店・飲食店経営、中小企業工場主等が多い。

中略

 

しばらく信用を得る生活を続けた後、工作員は「私の仕事を手伝わなければ北朝鮮にいるあなたの肉親がどうなるか責任が持てない」と土台人を脅かし協力させるという。」

 

 

危険な国の国民でも、いい人はたくさんいるはずである。そのような国の国民だからと言って危険視するのは良くないことだろう。しかし、本人が誰からも尊敬され愛される人物であったとしても、本国の当局や工作員から「スパイ活動に協力しろ、さもなくば家族に危害を加える」と脅されたとき、逆らえる人はわずかだろうし、第一逆らえば最悪抹殺されるだろう。

 

そのようなリスクのある人物を、国家機密にアクセスできたり、社会に大きな影響を及ぼせるポストにつけるのに慎重になるのは防諜の観点から考えると間違ったことではなく、差別的偏見に基づくものでもないのだ。一番非難されるべきは自国民にそのようなことを強要し人生を台無しにする国の首脳なのは言うまでもないが。

 

 

【リスクヘッジ】

一人のケースオフィサーは複数のエージェントを同時に抱えスパイ網をつくりあげているわけだが、必要がない限り彼ら同士を会わせることはせず、エージェントたちはお互いのことを知らない。存在自体知らない場合も多いだろう。これはエージェントが防諜機関に逮捕され、拷問などによって自白させられた場合の備えである。一人のエージェントがスパイ網について何から何まで知っていると、知っていることを全て自白させられた場合、他のエージェントまで芋づる式に逮捕されるリスクがある。しかし、いくら拷問されても本当に知らないことまで自白することはできないので、他のエージェントは捜査の目をかいくぐれる可能性が高まるのだ。

 


文献リスト

・青山智樹、鞍掛伍郎、浮島さとし 『組織と手口を明らかにする!世界の諜報機関』(2013)別冊宝島

・ニュースなるほど塾 『諜報機関あなたの知らない凄い世界』 (2012) 河出書房新社

・大島真生 『公安は誰をマークしているか』(2011)新潮社

・国際情報研究倶楽部編『世界の諜報機関FILE』(2014)Gakken

・バリー・デイヴィス 『実戦 スパイ技術ハンドブック』(2007)原書房

・橘茂雄発行『新 警備用語辞典』(2009)立花書房


 

筆者は専門家ではない。一サラリーマンが、書籍や新聞記事、官公庁HPなどを参考にしながら自分の見解も交えつつ執筆している。そのため、間違いなどがあるかもしれない。その場合は論拠となる情報源とともに指摘していただければ幸いである。必要があると判断した場合、機会を見つけおわびして訂正させていただく所存である。なお、この内容は筆者が所属するいかなる組織、団体の見解も代表するものではない。