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テロ、スパイ、外国による侵略、大量破壊兵器、反社会的組織、凶悪犯罪、情報戦など、国内外の重大な脅威からみなさまの生命と財産を防衛する一助になりたい。 Twitter @defense_jp_bot

【MICE】 

ケースオフィサーは、ほしい情報を知る立場にあるなど利用価値のある現地人をあの手この手でエージェントとして味方に引き入れスパイ行為を行わせるわけだが、その際人がエージェントとなってスパイ行為に加担する4つの動機を巧みに利用する。その動機は頭文字からMICE(ネズミ)と呼ばれている。

 

M(Money)カネ。金に釣られやすい者、借金を背負うなど金に困っている者などは、金銭的報酬を与えて買収することができる。また、金を受け取っている様子を密かに撮影し、協力し続けることを拒んだ場合、所属組織にその写真を送り付ける、などと脅すこともある。金銭でなくとも、相手が欲しがってる物を報酬として与える場合も当然あるだろう。

 

特定秘密保護法では、特定秘密を扱う者の経済的状況を調べる規定があるが、これも多額の借金を背負っている人物が金欲しさから外国のエージェントとなって特定秘密を渡す危険をさけるためのものと考えられる。

 

I(Ideology)イデオロギー。つまり主義や思想。例えば資本主義社会への幻滅や共産主義へのシンパシーなどからソ連、北朝鮮など共産主義国のエージェントとなる、など。

 

C(Compromise)コンプロマイズ。「妥協」の意。ケースオフィサーなどに弱みを握られたがために、やむなくエージェントとして協力する。女性エージェントを使った色仕掛け(ハニートラップ)を仕掛けるなどもコンプロマイズを利用した手口の一つだ。

 

E(Ego)エゴ。組織内で思うような評価をされていないなどの不満をもつ者は、その組織を裏切って情報を流したりしやすくなる。他にも、組織をクビにされ恨みを持っている者が復讐心からエージェントとなって内部情報を流す、好意を持っている者の気を引こうとして協力する、プライドをくすぐられ自ら情報を得意げに話す、などもエゴが動機である。

 

 

このMICEを知れば、エージェントとして狙われやすい人物像が浮かび上がってくるだろう。

バリー・デイヴィス『実戦スパイ技術ハンドブック』(原書房)p.26~27では、エージェント候補になりうる人物の特徴リストを以下のように記している。

 

・隙のある人物、あるいは不満をもつ人物。

・祖国を捨てた亡命者。

・減刑を求めている政治犯もしくは囚人。

・捕獲され「寝返った」他国のエージェント。彼らは「二重スパイ(ダブルエージェント)」と呼ばれる。

・ゆすりや脅しが効く人物。

・金銭的報酬につられやすい人物。

 

 

スキがなく、ゆすりも脅しも通じない相手には罠を仕掛けてコンプロマイズさせることが難しい。

祖国を捨てた亡命者は、理由はどうあれ不満を持ったからこそ祖国を捨てたのであり、祖国を裏切ってスパイ活動をすることに対する抵抗感が薄いと考えられる。家族を独裁者に殺されるなど恨みを抱いているならなおさらだ。

 

減刑を求めている政治犯や囚人には、減刑や恩赦と引き換えに味方に引き入れることができるためだろう。金銭以外の報酬を利用するものだ。

 

外国のエージェントとなった自国民が防諜機関に逮捕された場合、当局は罪を減免する代わりに自分たちのエージェントとして密かにリクルートし、相手国に偽の情報をつかませるなどして攪乱しようとする場合がある。スパイ防止法に基づき重罪が課されるなどと言われれば、コンプロマイズ(妥協)せざるを得ないだろう。

 

つまり、何かしらの利用価値があってMICEで操れる人物こそエージェントに狙われると言えるだろう。

 

【接触】

標的を選んだあとは、アクセスエージェントやケースオフィサー自らが接触する。場合によっては捨てた家庭ごみの中身を調べたり、監視、盗聴まで用いて標的に関する情報を経歴から趣味嗜好、性癖までも調べたのち、偽経歴を語るなどして接近し知り合いとなり、その後、金や報酬で釣る、親身に接して固い信頼関係や恋愛関係に持ち込み、人情的に断れない状態を作ってから個人的なお願いという形でスパイ活動を依頼する、情報を探る過程で見つけた犯罪行為などの弱みをネタに脅す、うっかりしゃべるよう会話を誘導する、などする。

標的になにも弱みやスキャンダルがなければ、事件をでっち上げ濡れ衣を着せる。このとき他のエージェントに、標的が有罪になるような証言をさせる。

これはあくまで筆者の個人的な意見だが、官僚がしばしば痴漢で逮捕される事件がニュースで報じられるが、そのなかに、外国の情報機関がその官僚をリクルートする、自国にとって都合の悪い政策を進めようとする官僚を失脚させるために痴漢をでっち上げたケースが何件かあるのではないだろうか。もちろん、官僚が痴漢をしたからこそニュースになっているのだろうが、多すぎる件数である。官僚は本当に、性的にだらしない人たちなのだろうか。痴漢をしないことは当然だが、痴漢事件をでっち上げられないよう自衛に努めていただきたいと思う。

 

だが、なかでも有効なのが先ほども述べた女性(標的によっては男性)エージェントを利用した色仕掛け、ハニートラップである。男性は美しい女性に弱いという、大昔から変わらない万国共通の事実を利用する。

 

ハニートラップは旧ソ連のKGB(国家保安委員会)やイスラエルのモサド(イスラエル諜報特務庁)が得意とした。

ニュースなるほど塾編『諜報機関あなたの知らない凄い世界』(2012)のp.175~176では以下のように述べている。

 

 

「KGBが得意としたのは、美人の女性エージェントを妻子ある男性に近づけさせ、浮気をさせるという手法である。事に及んだところ、KGBがやってくる。そして「浮気を妻やマスコミにバラされたくなければ、KGBに協力しろ」と脅迫するのだ。 

 

中略

 

ハニートラップを成功させるため、KGBは見込んだ女性に厳しい訓練を施していた。 

中略

 

もちろんセックステクニックも仕込まれる。その様子はビデオに記録され、研修生はそのビデオを見ながら、教官からダメを出された。そんな訓練を繰り返し、どんな男性も虜にするテクニックを身につけるのだ。

KGBでは男性によるハニートラップも行っていて、その場合、男性は女性を絶頂に導くためのテクニックを学んだという。

 もう一つ、ハニートラップに長けているとみられる諜報組織が、イスラエルのモサドである。モサドはスパイを公募しているが、応募してくる半分は女性だという。そして、モサドは応募条件のなかに、任務のためには結婚の誓いを破らねばならないという条件を入れている。つまり、色仕掛けをいとわないことが、女性スパイ採用の条件となっているとみられるのだ。」

 

 

不倫をするよう仕向けてそれをネタに脅す、性のテクニックで虜にする以外にも、アブノーマルなプレイをし、そのとき撮影した映像をばらまくと言って脅すなど手口も様々だ。ハニートラップ対策として、若い自衛隊員に外国人が接待するクラブなどへの出入りを控えるよう指導が行われるという。

 

 

これらの手口により、標的をエージェントとして取り込んだ後はどうするか。

スパイ活動の訓練をし、手駒として利用するのである。防諜機関に発覚しないような接触方法や情報の受け渡し方法、尾行のまき方、隠しカメラや録音機などの使い方などを教えたのち、報酬も与えながら国家機密や企業秘密にアクセスできる者には情報を盗ませたり、また別の標的となる人物に接近させて罠にはめるなどをさせる。

 

エージェントが連絡を絶ったり仕事を拒否することは決して許さず、警察などに通報しようとした場合は抹殺も辞さない。

 

 

 

【情報の受け渡し】

スパイは情報の受け渡しにも細心の注意を払っている。多くの国が大使館職員という身分で他国にスパイを送り込んでいる以上、現地の防諜機関は当然、大使館職員をマークし、時に尾行も行うはずだ。エージェントやその仲介役であるカットアウトと直接接触して情報の受け渡しをすれば、すぐ防諜機関に怪しまれてしまう。

 

その対処法として、すれ違いざまに情報の受け渡しをする、人気のない場所に隠させて後で回収するなどの方法がとられてきた。

大島真生著『公安は誰をマークしているか』(2011)p131~132では以下のように述べている。

 

 

「かつてスパイは情報を仲間に伝える際、「フラッシュ・コンタクト(すれ違い連絡報)」や「ブラッシング(すれ違い)」などの名で呼ばれる手口を多用していた。特殊な方法でしか現像できないマイクロフィルムに情報を収め、渡す側と受け取る側が歩きながらすれ違う一瞬に受け渡しを完了する。

 

中略

 

イリーガル捜査員が好んで使っていたのが「デッド・ドロップ・コンタクト」と呼ばれる別の手口だった。日本国内では、寺社仏閣や墓地、道端の地蔵など人気がない上に工事などで環境が変わる可能性が低い場所を選んで情報を隠し、その後仲間が回収する方法である。」

 

イリーガル捜査員(スパイ)とは、大使館員、ジャーナリスト、商社マンという身分で「合法的」に入国してくる者とは違い、海や空から不法に侵入し、背乗りによって日本人に成り済ますなど非合法的に潜伏し活動するスパイのこと。彼らは一瞬でも仲間と接触すること自体がリスキーなため、「デッド・ドロップ・コンタクト」という方法を用いて仲間との関係性を隠している。

 

 

寺社仏閣など、人気はないが外国人観光客が出入りしてもおかしくなく、かつ工事などで環境が変わる可能性が低い場所のどこかに、決められた方法で情報を隠し(指定された飲料メーカーの空き缶の中など一般の人々にはそれと気づかれないもの。これは死んだ郵便箱Dead Letter Box略してDLBと呼ばれる。)、その後、仲間が回収するというものだ。こうすることで、接触せずに情報の受け渡しが行える。

 

 

この時、それと分からない方法で、「メッセージを入れる準備ができた」、「メッセージを受け取る準備ができた」などの合図を残しておく。例えばチューインガムを近くの場所にくっつける、チョークで印をつける、など。

また、連絡手段として、店員に扮したケースオフィサーやカットアウト、他のエージェントに、手品グッズを売る店などで売られている中が空洞のコインにメッセージを入れて渡す方法もある。

 

 

もちろんこれはあくまで一例である。ロシアスパイは、身内のイリーガルスパイとは細心の注意を払ってデッドドロップコンタクトで情報の受け渡しをする一方で、日本人エージェントとは飲食店で情報のやり取りをするという大胆な手法を使うようで、国や組織によって手口もさまざまだ。

 

 

 

 

…今まで、スパイが他国に潜入してから現地人を引き入れスパイ活動を行わせる流れを紹介したが、実はこれはヒューミント(human intelligence の略)と言って人から情報を集めるスパイ活動の手口の一つである。

 

ヒューミントは、人材育成に手間がかかるし、敵地に潜入する以上人的なリスクも高い。また、リクルートしたはずのエージェントが裏切って(二重スパイ)偽の情報を流したり、エージェントと見破られて偽情報をつかまされていたりするなど、リスクを伴うものなのだ。しかし、政府の中枢にいるものが腹の中で何を考えているか、極秘に何かの計画を進めていないか探るにはヒューミントが不可欠で、偵察衛星からはわからない。

 

以下はこれまで説明してきたヒューミントの内容をまとめたものである。

 

【ヒューミント】

ヒューマン・インテリジェンス(Human Intelligence)の略。人から情報を得る最も古典的かつ基本的なスパイ活動。

スパイが大使館職員などを装って外国に潜入し、現地人をエージェント(協力者)として味方に引き入れ、訓練し、手駒として利用する。政治家など公務員だけではなく、企業秘密を知る者、世論に影響力をもつ者も標的になりうる。

国家機密や企業秘密にアクセスできる者からはそれを盗ませる一方、世論に対して何らかの影響力をもつ者には自国の意に沿った発言をさせる。

標的となる人物の経歴、趣味嗜好、時には性癖までも調べたのちに偽経歴を語るなどして接近し、金品で買収したり、主義思想や所属する組織への不満など相手の感情を巧みに利用したり、強い信頼関係や恋愛関係に持ち込んだり、犯罪行為などの弱みを握って脅したりして味方に引き入れる。

中でも有効なのは女性(標的によっては男性)エージェントを使ったハニートラップ、つまり色仕掛けである。不倫をするよう仕向けてそれをばらすと脅したり、セックスのテクニックで虜にしたり、アブノーマルな行為をし、それを撮影した映像をばらまくと脅すなど手口もさまざまだ。

 

ヒューミント以外にも、情報を得る手段はたくさんある。次回からはそれらをご紹介しよう。

 
文献リスト

・三才ムックvol.808 『警察組織の謎』(2015)三才ブックス

・ニュースなるほど塾 『諜報機関あなたの知らない凄い世界』 (2012) 河出書房新社

・バリー・デイヴィス『実戦 スパイ技術ハンドブック』(2007)原書房

・大島真生 『公安は誰をマークしているか』(2011)新潮社

・国際情報研究倶楽部編『世界の諜報機関FILE』(2014)Gakken

 

筆者は専門家ではない。一サラリーマンが、趣味で書籍や新聞記事、官公庁HPなどを参考にしながら自分の見解も交えつつ執筆している。そのため、間違いなどがあるかもしれない。その場合は論拠となる情報源とともに指摘していただければ幸いである。必要があると判断した場合、機会を見つけおわびして訂正させていただく所存である。なお、この内容は筆者が所属するいかなる組織、団体の見解も代表するものではない。