【シギント】
通信を傍受(通信相手以外の者が無線通信を受信すること)して解読、分析を行うスパイ活動をシギント(signal intelligence)という。
その通信は、電話、インターネット、FAX、軍事や外交の暗号通信など多岐に渡る。
中でも重要な任務となるのは軍事暗号の解読である。ひとたび戦争が起きると、暗号解読は戦争の勝敗を決する非常に大きな要素である。暗号を解読できれば、敵の作戦の全容、行われる日程、戦力、布陣を把握し、待ち伏せることも可能だ。
先の大戦でも日本軍は暗号を解読されミッドウェー海戦において壊滅的打撃を被り、主導権を失った。また、外交暗号は開戦前すでに解読され、アメリカ政府は日本の開戦意図を事前に知っていたという説もある。真珠湾攻撃の際、空母が出港中で仕留めそこない、のちにミッドウェー海戦でそれらの空母に日本の機動部隊は撃滅されたわけだが、真珠湾攻撃時空母が出港中だったのは果たして偶然だったのか…
とにかく、米国のシギントが戦争の勝敗を大きく動かしたことは間違いない。
暗号解読技術が進歩すれば、それを超える精度の高い暗号が開発され、またそれを解読すべく技術を進歩させるという技術競争が絶えず行われている。
また、運よく暗号を解読できたとしても、それを相手国に悟られないようにしなければならない。解読されていると疑われれば、相手国は暗号を変え、今までの解読作業が無に帰してしまうのだ。
【エシュロン】
シギントと言えば、忘れてはならないのが米国NSA(国家安全保障局)が運用する巨大通信傍受システム「エシュロン」である。世界中どこでもEメール、FAX,電話を見聞きすることができる。(ただし、光ファイバーを使った通信は2012年時点で傍受できないとされる。)アメリカ政府は存在を認めていなかったが、亡命したスノーデン氏の証言により存在が確定した。
ドイツのメルケル首相の携帯電話も、エシュロンによって傍受されていたのである。
しかし、通信そのものの量があまりに多すぎて3万人とも6万人ともいわれるNSA職員をもってしても監視、分析が追い付いていないとの見方もある。
実はこのエシュロン、日本も関わっている。
ニュースなるほど塾編『諜報機関あなたの知らない凄い世界』(2012)p.60~61では以下のように述べている。
「エシュロンには、日本も加盟している。エシュロンには第一次加盟国から第三次加盟国まであり、日本は第三次加盟国だ。第一次加盟国はアメリカとイギリスというアングロサクソンの2大国である。第二次加盟国は、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドという、もとは大英帝国の傘下にあった英語圏の諸国だ。第三次加盟国は、日本以外にはNATO加盟国、韓国、トルコとなる。 日本がエシュロンに協力しているのは、ロシア、中国、北朝鮮の動向を知るためであり、エシュロンの傍受施設用地として、青森県三沢基地の一部を提供している。」
2001年、日本に不正に入国しようとした故金正男氏を成田空港で拘束できたのも、エシュロンによる情報提供があったためである。
世界中いつ、どこでテロが起きるかわからない以上、エシュロンがテロリストのテロ計画を傍受して未然に防ぐというメリットは計り知れないものがあるし、対外情報機関もなく、情報機関の予算、規模ともに十分とは言えない日本にとって、エシュロンがもたらす中国、ロシア、北朝鮮に関する情報は、無くてはならないものだろう。
ただ、日本政府や日本企業もエシュロンによって監視されている対象であることを忘れてはいけないし、アメリカ政府がエシュロンを自国企業の利益のために利用する可能性も否定できない。
かといってアメリカがエシュロンを放棄することは到底考えられない以上、エシュロン加盟国から脱退しても監視を受けることには変わりなくエシュロンによって得られる情報から蚊帳の外にされるデメリットが残るだけだが。
・ニュースなるほど塾 『諜報機関あなたの知らない凄い世界』 (2012) 河出書房新社
・国際情報研究倶楽部編『世界の諜報機関FILE』(2014)Gakken
筆者は専門家ではない。一サラリーマンが、趣味で書籍や新聞記事、官公庁HPなどを参考にしながら自分の見解も交えつつ執筆している。そのため、間違いなどがあるかもしれない。その場合は論拠となる情報源とともに指摘していただければ幸いである。必要があると判断した場合、機会を見つけおわびして訂正させていただく所存である。なお、この内容は筆者が所属するいかなる組織、団体の見解も代表するものではない。