「巨神覚醒」シルヴァン・ヌーヴェル(佐田千織訳/創元SF文庫) | 水の中。

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あれから9年。
人類によってテーミスと名づけられたロボットは国連の地球防衛部門EDCの所属となり、
平和的な広報活動を行っていた。国家間の争いをくぐりぬけて得たはずの安息の日々に、終わりを告げる訪問者――
何の前触れもなくロンドンに現れたのは、男性型巨大ロボットだった。

 

 

 


おお! たしかに前回のハッピーエンドは、まあ言ってみればプロジェクト責任者である名無しの「インタビュアー」が
全世界にハッタリを効かせて収束させたような結末でして。しかし今回は世界戦争どころか異星文明から真の襲撃が!! そして人類は壊滅的な被害を受け、前作での主要キャラでさえあっさりとお亡くなりになってしまう怒涛の展開。
巻末の解説の方も言うとおり、読者の予想をひたすら裏切りつづける面白さですが、今回私が非常に感銘を受けたのは、えーともう少し細かな部分と言いますか。
前作でのヴィンセントが「自分はだいたいの人間より頭はいいけど世界最高の頭脳じゃない」と語ったときも、
私などにしてみれば天才としか思われないような知人が、これと全く同じようなことを言ったことがあったなーと思い出したりしたのですが、この作者さんの描く世界や人生のディテールには、すごく説得力がある。実際そうだよな、と思わせる。

人類滅亡のカウントダウン時に、自分は再生されたコピーであり偽者ではないかと思い悩むローズ・フランクリン博士。
自分にできるのは世界をより良い場所にすることではなく、時間稼ぎをすることなのだと語るインタビュアー。
道具であることを選んだ自分がエヴァに操縦させまいとするのは偽善だったと語るヴィンセント。そして自分ではできなかった選択により、十歳の娘に命を救ってもらったのだと。

いやー全くそのとおりだなと。
再生されたローズの悩みなどは、「いやいやアナタを構成する要素はちっとも変えていないから、4年前の状態で再生されただけでアナタはローズ・フランクリン本人ですよ、ハハッ、それとも自分だけが魂ある特別な存在だとでも?」と言ってのける再生者側に理があるなと思う反面、世界と4年のブランクがある本人が違和感を持つのは無理もない話だし、ある意味ではニセモノでコピーであるわけだわなーと思います。あの理屈はちょっと欺瞞があるよなー。そもそももっとマメにバックアップしといてくれりゃーいいんだよ! とか。
やっていることはトンデモ☆ロボット☆物語なのですが、読者には、少なくとも私という読者にとっては、絵空事と思わせないだけの説得力がありまして、今回すごくとてもそこが面白かったです。