「幻肢」島田荘司 | 水の中。

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病院で目覚めた糸永遥はすべての記憶を失っていた。

医学生であったという自分の名前も駆けつけてくれた友人のことも分からない。記憶にあるのは雅人、雅人はいったいどうなったのだろう――?

 

 

 

私はおそらく島田ファンなのですが、どこがどう良いかと思っているかというと説明が難しく、島田せんせーの物語を通しての啓蒙とでも言いますか、物語性以外のテーマ提示はとても面白いし素敵だなーと毎回思っています。物語の楽しみ方というのは、じつはいろいろありまして、おおまかにみっつに分けるとしたら、関係性の追体験、ストーリーに翻弄されること、あとは新たな知識との出会いだったりします。今回のメインは最後の、新たな知識との出会いというやつになるのでしょうか。それでも物語形式で体験すると、少々見え方が違ってくるので、有益であるなと思います。

 

私自身は鬱に対してあまりと言いますか、実はぜんぜん理解のある人間ではないと思うのですが、今回は物語という形で主人公である遥の恐怖を追体験することで「なるほどなー」「扁桃体がうまくいってないとこんななのか」「そりゃイヤだわ外でたくないわー」と素直に感じることができました。

しかしおそらくメインテーマであるはずの「失った大事な人のゴーストを見たい」というのはなー、ちょっとなんていうかダメだろとしか思わない。

だってさー、やはりその体験に依存してしまう気がするし、人によっては自分の心に折り合いがつけられなくなるんじゃないかと。実物ではないと分かっているその人に会うのはむしろつらいことではないのか。幻でも会いたいのだろうけれど、やはり幻を見るのはつらい。

 

それはさておき、本作は意外な展開が待っているのですが、私が意外と思ったのはむしろラストのところ(雅人の声がしたり)で、最後の最後まで、結末はホラー的なおっかないエンドであろうと思っていたのですよ。いや思うでしょ。

 

それが……!!

 

それがまさかこのような結末になろうとは、ホラーエンドより数万倍こわい。彼女のセリフとか死ぬほどこわい。実際のところ、私がホラー的な結末を求めていたのは、このハッピーエンドが心底こわくて納得がいかなかったからなのだろうと思うのですが。

いやーそれにしてもねーわ。私この人とやり直すのなんか絶対無理だわ。