「時限捜査」ジェイムズ・F・デイヴィッド(公手成幸訳/創元推理文庫) | 水の中。

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オレゴン州ポートランドで双子の姉妹が襲われ、一人が殺された。直前に彼女たちの前に現れた老人が残したという紙きれには「実際には起きなかった悲惨な殺人事件」が記事のように綴られていた。
その文面によると、姉妹は二人とも殺され、母親は自殺したというのだ。

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西海岸を震撼させる連続幼児殺人犯「クレイドル・ラバー」、その邪魔をする(?)青い肌の老人、事件を追うのは娘を事故で亡くした元敏腕刑事、というなかなかスゴイ設定の本作。


先まわりして現場に現れては殺人を阻止し、そして「こういう事件が起きるはずであった」という記事を残して去っていく謎の老人……そうです、お気づきかと思われますが、これは時間SFでございます。


出版社も翻訳家さんとしても「殺人事件捜査+SF風味のクロスジャンルもの」という認識であるようですが、個人的には「時間こえちゃったらもうSF以外は名乗れないんじゃね?」という気がいたします。
まあ、読み手としてはジャンルなどはどうでもいいわけですが。



元敏腕刑事である主人公はさておき、脇役たちがとても魅力的で(たいして物語にはからんでこない同僚マックとか、大食漢のシェリーとか~)、時間SFのムリヤリ感は多少あるものの、かなり読ませます。娘を交通事故で亡くし、過去を変えたいと願う主人公の葛藤にもうまく決着をつけています。ラストシーンも爽やかです。



でもさ。



だけどさー、と思うのです。
あのー、この主人公は時間旅行者と「ある重大な約束」をするのですよ。しかしですね、それについては作中では「残念なことに、彼らの物語の最終章は、この先まだ三十年ほどは書かれることはないだろう。」と終わってしまっているわけです。


待て。残念なことにって、残念なのはこっちだよ……。


作者さんは「この事件の本当の結末」については「作中では書かない」という選択をしたようですが、ええええーそんなんありか?
だいたい三十年後にこの刑事ちゃんと生きてるかどうかも分からないじゃん。
約束なんか果たせるの?
本当に果たせるの?



と、非常に心配になってしまい、ラストの主人公の幸せそーな様子にも「アンタちゃんと約束が果たせるように手配してるの? いざって時どうすんの?」とモヤモヤしてしまいました。
だって明日のことだって分からないのに、三十年後なんてもっと不確定ではありませんか。
うーん、読者としましては、この約束が(べつに主人公がダメでもその息子でもなんでもいいのですが)きっちり果たされるという、主人公の誠意あるところを読みたかった。
アレでは「ただの安請け合い」だよなあ……。


結果的にラスト間際の異変(未来を変えるせいで嵐が襲ってくるという屁理屈……)のリアリティの無さしか記憶に残らないという、ちょっと残念な物語でございました。