「駅神」図子慧(ハヤカワ文庫) | 水の中。

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章平は、駅前のうどん屋でアルバイトをしつつ一人暮らしをしている、平凡な大学生。
「ヨンバンセン」――金町駅にふらりと現われる幻の占い師に、藁にもすがる思いで家族の危機を相談したところ、意味の分からない結果を聞かされる。


――易学って、ナニ?


駅神 (ハヤカワ文庫 JA ス 2-2) (ハヤカワ文庫JA)/図子 慧
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ちいさな事件たちを、ナゾの占い師の易を通して語る一話完結型ストーリー。


と言っても占い師自身はいまだ登場せず、占いの結果を元に主人公が、新宿の「易学学院」の個性的な面々に
「これってどういう意味ですか?」
という相談をもちかけて、ああでもない、こうでもないと出された「卦」について語り合うわけですが――



四話が収録されていて、
●一話「尋ね人」
主人公の章平が、父の失踪を相談するオープニング。ここで「易学学院」のみんなと出会うわけですね。


●二話「遊魂」
相談者は、章平のアルバイト先のうどん屋に現われた女子高生。
「幽霊にとりつかれちゃったんです!」という可愛らしいゴースト・ストーリー。


●三話「八卦仙」
易の本を読みながら、うたたねをする章平。すると夢の中の自分は「震公子」となっていて……?
という、ファンタジーなお話。易の世界がなんとなーく分かったような気にさせられる(けど、やはり分からない)物語。


●四話「相性」
駅のホームから夫をつきおとされた未亡人ユミ。彼女の力になりたい章平は、またしても占い師へ相談を持ちかけるのだが……
という、この作品の本筋に戻った物語。
すごーく後味の悪い真相なのですが、章平くんの淡い恋のおかげか、切実に暗い感じにならないところがスゴイ。



という、変化をつけた四つの物語となっています。


こういう「ちょっといい話」系の物語というのは、実は上手な書き手でないと、まるで読めたものではない結果になってしまうのですが、これはよく出来ていますねえ……。
こんな毒にも薬にもならないような内容を、きっちり読ませるというのはスゴイ。
最後のお話などは、書きようによっては物凄く暗い物語になるはずなのですが、全体のトーンを守って爽やかに仕上げられるところなど、すばらしい職人芸です。



でもなあ、と思うのです。
こういうのが上手い書き手というのは、他にいくらでもいるのですよね。
そして雑誌の片隅にでもあれば読むかもしれませんが、あえて作品集として購入したくなるだろうかというと疑問です。



「物語」というのは日常生活にどうしても必要なわけではない、いわゆる嗜好品です。
ラーメンなどもそうですが、「よく出来た上品なもの」よりも、「いやーあのギトギトが忘れられない!」という、「この店ならでは」のクセのあるものがイイなーと思うのです。



以前、旧作である「ラザロ・ラザロ」のレビューで、
「エロ設定を排して、この作者さんの書くものに魅力はあるのだろうか。無いのではないか」
のようなことを書いた記憶があるのですが、非常によく出来た本作を読了した今であっても、やはりこの感想は変わらないような……。


ううーん。


「こういう仕事もきっちりこなせますよー」というのは、作者さんの物書きとしてのキャリア形成に必要なのかもしれませんが、読み手の私としてはですね、ツッコミどころ満載のあっちのほうが、断然面白いのですよ。
この作品は続編があるようですが……、私はおそらく読まないのではないかなーという気がします。