悪臭ただよう19世紀のロンドン。
安アパートの一室で、シビルは今日も目を覚ます。
街は蒸気ガーニーと馬車が行き交い、猥雑な広告が劇場の蒸気画像を宣伝する。
ここはバベッジの差分機関(ディファレンス・エンジン)が高度な発展を遂げた、もうひとつの世界――
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ギブスンとスターリングがアイデアを出し合い、互いの文章をチェックしつつ書き上げたという本作。
スチーム・パンクの草分けであり、おそらく正統な唯一の作品ではと思われる物語であるわけですが……。
えー、まずですね、「スチーム・パンク」 とは何ぞやというとー、
ぶっちゃけ(もうぶっちゃけるのか!)、 「サイバー・パンクをもっとレトロ趣味にしたもの」。
蒸気がシューシュー出たり、シリンダーがガチャガチャしてたりする、そーゆー「機械好きにはたまらんよね!」な世界を舞台にした、まあ更にぶっちゃければ、そーゆー世界を舞台にしただけの物語のことでございます。
いえ、そーゆー舞台装置を楽しむための物語、と言ったほうがよいかもしれません。
とか批判めいたことを言ってはおりますが。
あのー、バベッジが設計した差分機関(コンピューターのご先祖的な大型計算機)は、当時は資金と技術力の問題で完成しなかったわけですが、近年になって実際に製作されているのですよね。私はこのディファレンス・エンジンが動く映像を見たことがあるのですが……
正直言って、ものすっごいワクワクしました……。
(かっこいー! クランク回して操作するんですよ!!7次多項式まで出来るかしこさ!!)
コンピュータが真空管→トランジスタと発展していかなければ、こーゆーマシンもあったかもしれないんだな~。
というわけで、史実と虚構が入り乱れる「歴史改変小説」である本作。
現実との政治的な違い(舞台は主に英国ですが、日米仏あたりの事情はエピソードで仄めかされています)を深読みして「考えさせられるテーマだなあ」と、思う人は思うのかもしれませんが、
ううーん、私には特になんらかのテーマを提示しているようには読み取れなかったですね……。
三人称(というかモーダスの語りなのかアレ)の視点持ち回りで、下の三名が視点人物となっていて、
●シビル・ジョーンズの娼婦日記(全編通して登場するのは彼女くらいですが、主人公かというとそうでもない……しかもなんとディズレイリの小説の登場人物であるという、わけの分からなさ)
●エドワード・マロリーの冒険(メインのパートですが、なんだったんだろ、あの弟たちといい……。いつの間にか中国へ行っちゃってるし)
●ローレンス・オリファントの野望(野望なのか逃亡なのか、よく分からんうちに消えているオリファント。実在の人物です)
これら各パートにつながりがあるわけでも、しかしまったく無いわけでもなく、
あえて言うならバイロン一家の家庭の秘密が物語をつないでいるようないないような、という曖昧さ。
私としては「物語を読む」というよりも、「絶対にどこにも存在しないけれど、ありえたかもしれない世界」という、ほのぐらい幻燈を楽しむひとときであったように思います。
まあアレだ。
こういう物語は、読んでいる読者のほうよりも、
「エイダ出しちゃう?」「んじゃギャンブル好きエピ入れないと」「あっ! そーするとガーニーのレースの場面につながるよね!!」
とかワイワイとアイデアを出しつつ書いている側の方が楽しいに違いない、と思います。
これはもう、絶対に。
(もう一回読めと言われても、私は断わるな……)