「シンギュラリティ・スカイ」チャールズ・ストロス(金子浩訳・ハヤカワ文庫) | 水の中。

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文明を拒絶した封建社会である「新共和国」。
その殖民惑星ロヒャルツ・ワールドに、ある朝突然、空から携帯電話がふってきた――「もしもし、私たちを楽しませてくれますか?」
彼らは謎の存在・フェスティバル。
情報と引き換えに、なんでも望みを叶えてくれるというのだ。



チャールズ ストロス, Charles Stross, 金子 浩
シンギュラリティ・スカイ


かなりの長編である本作。


読者を楽しませようという語り口なども上手く、面白い物語ではあるのですが……

何と言ったらいいのか。そう、終わってみると、

「なんかすげえ長い導入部を読まされた」

というカンジが。



どういう物語かというとですね、

じぶんのところの惑星に現れた謎の存在「フェスティバル」を迎撃すべく、新共和国が艦隊を派遣するのですよね。その戦艦にそれぞれの目的を持って乗り込んだ、異なる組織のエージェントの男女が主人公なのですが……
この主役である二人が、ようやく艦隊を脱出してロヒャルツ・ワールドにたどりつく、という、普通であれば「物語はこれから」のはずの時点で、すでにフェスティバルが起こした事件は収束に向かっているのです。
そういうわけで、(やることもないので)二人仲良く鍛冶屋の夫婦をよそおって惑星に潜伏し、迎えが来てめでたしめでたし、みたいな。
えーと、なにしに来たんだっけ、みたいな。


まあ、それほど奇妙というわけでもないのですが、物語が動き出すまでがのんびりしすぎているので、さんざん読んだあげくに「あー、もう終わりなのね」という感想になってしまう。



これは構成のバランスが悪いのだろうなあ……。



ちなみにタイトルの「シンギュラリティ」とは「特異点」の意。
この作中では、「文明の変革ポイント」くらいに思っていただければよろしいかと。


文明を悪と見なし、それこそ電話も存在しないような世界に、携帯電話がふってくる――



フェスティバルによって無理やり引き起こされた、この「シンギュラリティ」は、いったいどのような変化をもたらすのか?
「謎の存在フェスティバル」の正体とは何なのか?



このふたつにきちんと答えが用意されていて、その種明かしが意外で、それでいて説得力があるところが面白いですね。

「新共和国」という中世のような社会が舞台となっているせいか、SFというよりは「SF設定をかりたおとぎ話」のような、なつかしい雰囲気のある本作。
続編があるそうですが、この物語はすでに決着しているので、おそらく同じ登場人物が活躍する、まったく違う雰囲気の物語になるのでしょうね。

邦訳されたら読んでみたいものです。



(しかし言っちゃ悪いけどコレ表紙が古くさい……名作の復刻版でこーゆーのあるしな……)