昴一は二年前に会社を辞め、在宅で仕事をしながら、忙しい妻の帰りを待つ日々。
ある日、妻の親友・由香里の出産に立ち会ったことから、三人の関係はもつれていく。
……とだけ書くと、不倫の話のようなのですが。
いえ、不倫の話なのですが。
前半部分は、「なるほど」と読みました。
私は通常、主人公として書かれている人物の気持になって読むのですが、今回はどうもそれが難しく……、
なぜかといえば、私は主人公・昴一の妻である絹子の気持が、とてもよく分かるのです。
それはなあ、夫にイライラもするだろうなあ。
退職の理由がそれじゃなあ、「あなた馬鹿じゃないの」と言いたくなるだろうなあ。
家事だって、自分がやらせているみたいで、居心地悪いだろうなあ。
休みをとって水泳の得意な夫をプールに誘ったりして、彼女なりに気を遣っていたんだろうになあ……と。
だから由香里が「昴一さん、がまんばっかりして可哀想」と言っても、
「……エッ、どのへんが?!」と思ってしまったり。
昴一は、しだいに由香里と関係を深めていき(このあたりの心理がどうも分からない……妻の態度により傷つけられたプライドのせいでもないような……妻に対して関心がなくなっていたせいで、タブーだと意識できなかっただけのような……)、そこでこの物語の賛否を分けるであろう、超常現象が起こり始めるのです。
超常現象、というより、由香里の不思議な力ですね。
彼女は「たいしたことはできない」と言うのですが、いやいやスゴイです!
宝くじは当てちゃうし、土砂を吹き飛ばして昴一を廃坑から救い出すし、しまいには、なんと鶴を……鶴を……(ぺがさすさん、これは……これは、ツッコミようがありません。ツッコミ番長としたことが、無念です!!)。
後半の大部分がサイキックな出来事で占められてしまっているので、そういうエピソードが嫌いではない私も「いや、もうこのへんで……」と引き止めたく(作者を)なってしまいました。
これらは、結構おそろしいエピソードのはずなのですが、内省的なムードで語られる一人称風な三人称(「昴一が」、という記述をすべて「僕が」に置き換えれば、じゅうぶん一人称として通用する文章だと思うのですが、どうしてそうしないのでしょうね)の、静かでゆったりした雰囲気のせいで、まったく恐くないところが、良いのか悪いのか。
後半からもっと大きな「生きるってなんだ」的なテーマへ移行してしまったせいで、「家にいる夫」である昴一の葛藤が、どこかへ行ってしまったのが、私には残念で。
そう、私はですね、この夫婦にやり直してもらいたかったのですよ……。
この物語は、主役格の三人の誰に感情移入するかで、感想が分かれるように思います。
作者は三人の登場人物がどういう感情によって動く人物であるのか、きちんと把握して書き分けているので(当たりまえのことのようですが、これが出来ていないことは多いです)、読者は自分の立場によって三人の誰かに肩入れして読むことが出来るのでしょうね。
意味もなくプライドを引き下げることは、相手のプライドもおろそかにすることである、という一文が印象的でした。
まったく、そのとおり。
(この小説、ぺがさすさんのところ
で紹介されていて、読みたくなったものです。TBさせていただきますね!)
