Start Me Up !! 後編 | ロンリー・オル・ナイト

ロンリー・オル・ナイト

80年代で時が止まったオサーン。タイトルは青春時代の好きな曲から…
そして今はインドネシアで怪魚釣りを夢見る男の海外奮闘記!

フローターの準備を終え、僕は水面に浮かんだ。
もう待ちに待った瞬間だ。また釣りが出来る嬉しさを噛みしめていると

僕は異様な光景を見ることになった…

先に入ったSさんとK君が岸から全く離れずに竿を伸ばしている。
いっさい投げず蘆の根元にポトンとワームを落として小刻みに揺らしている…
反応が無ければ30cm程横にずらしてまたポトン。これを何度も繰り返していた。
そのうちにSさんが鋭くあわせて小さなバスが上がってきた。
これがバス釣りか? 確かに釣れるのかもしれないが…

じゃあトップはどうなんだ?って思ってM君を見た。
似たようなもんだ…1m位岸から離れてポイって感じでポイントへ投げている。
ガラガラとダイレクトリールが回転し、ポトンとルアーが落ちる…
2、3回アクションを付けて何もなければ回収。またポイって投げるの繰り返し。
なんだこれは? これがトップウォーターか? あり得ない…

これで急にこれまでの不審な事が腑に落ちた。
K君の折れた竿でもってのが納得だ。そりゃそうだ、投げないんだから…
故障かと思った異様に近い距離のボートはあれはワームをやってたんだ。
フローターもそうだ。ほとんどの人が岸にべったりだった。
ピッチングといえば聞こえが良いが、あれはただワームを落としてるだけで…
 
 
コンナノガ、バスヅリナノカ? 
 
 
今なら…20年以上たった今なら理解が出来るし、理にかなっていると思う。
でも少なくとも関東のバス釣りには投げる楽しみはほとんどなかった。
 
競い合うように投げていた関西を思い出し、僕は僕の距離で釣ろうと思った。
自分の感覚だけ離れてみた。するとちょうど川の真ん中位の位置になった。
こんな距離は誰も他にはいない…
お気に入りのザラを結び、振りかぶって記念すべき第一投目を投げた。
良い所に落ちたように見えたザラは実は大して良いとこには入っておらず
当然バスは出なかった。また倒れた蘆をひらって動かなくなった。

それから後は…もう悪戦苦闘の連続だった。
良い所と思うのが実は蘆の手前にしか落ちておらず、たまに根元まで入ると
今度は100%倒れた蘆をひらってしまうか、勢いが良すぎて根元に刺さってしまう。
際に入れないといけないのは解っていた。でも不可能だったんだ。
すぐにトリプルフックのザラは止めた。トリプルフックは新利根では話にならない。
Wフックのテラーも似たような物だった。何度も何度もルアーを外しに行ったよ。
結局、釣りらしい釣りも出来ないままに一日が終わってしまった。
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嫌々ながらもM君のタックルの意味が解りだした。
あの冗談のように太いPEラインは強引に引っ張って回収できるようにした物だし
あの近い距離は正確にポトンと落とすための距離だったんだ。
マッディーだしフローターで音もしないから十分に成り立つんだ。
そのM君は僕が密かに馬鹿にしていた電球のようなエキスパートなるルアーで
46cmを釣り上げた。そう…やり方さえあってれば関東でも釣れるんだ。
 
こうして僕の記念すべき関東でのバス釣りはほろ苦いデビューとなった。
でも僕はとても幸福だった。またバス釣りが出来る!これ以上に良い事なんてないだろ?
しばらく干されてよく解ったんだ。もうバス釣りなしの人生なんて考えられないから。
そして暇さえあればこの4人で釣りに行くようになった。
 
そしていつしか僕も…えらく近い距離からポイっと投げるようになった。
そしてそれをちっとも変だと思わないようになった。良い事なのかどうかは解らない。
たまに会うとM君が「あの時とは随分違いますねぇ~」と笑う。僕は苦笑するしかない。
それでも…まだ少し僕の距離は遠いそうだ。
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他の3人はどう思っているか知らないが…
僕はこの4人での釣りにとても執着というか、思い入れがあるんだ。
転職が何とか上手く行ったのも間違いなく週末の釣りがあったからだと思っている。
とてもストレスがかかる仕事だったから気持ちが切り換えれる釣りは貴重だった。
趣味を同じくする仲間が傍にいるのは全然違うと思うんだけど…
でもM君が独立して親元を離れ、僕が引越しをしたりして続かなくかった。
そしてSさんが定年となった。少し元気のないSさんを見るととてもさみしい。
 
今でも僕は関東でバス釣りをしている。とても充実していて不満は無い。
でも、いつかまた例の4人で行ければいいな…
かなわぬ事ながらいつも思う。


【追伸】
この記事はもう6年以上前に書きました・・・そして、僕が関東で悪戦苦闘したのは20年前です。
でも本当のまさかまさかで僕は関西に戻ってくることが出来ました。
そして、僕の忘れられない人生の一片の出来事として、またこの関西の出来事も述べれるかも。
それまでは僕が何を考え、何を思ってバス釣りを続けてきたかの長い(文字ばかりの…)
お話にお付き合い頂ければと思います。。。