こんばんは。


ここ数回の記事は、主に治勲先生の心情などを類推してきたのですが、碁打ちとしてはそれもどうか、という思いもありまして。

せっかくですので、9月中旬時点のZenの打ち碁を鑑賞してみました。


会見の中で、治勲先生が「9月2日前後の棋譜を13局並べた」との発言がありました。

しかし、インターネット対局場「KGS」のZenのアカウントである「Zen19K2」で調べた限りではその日付のものがなかったので、9月12日~13日にかけての棋譜を数局、目を通しました。

(おそらく、治勲先生の日付勘違い??)


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棋譜を見る前に、治勲先生がZenを評した「普通に強い」の意味を紐解いてみましょう。

これ、私がフランス料理を食べて「普通にウマいな!」と言ったら「あー、この人は舌がバカなんだな」と思われるのがオチですが、棋士:趙治勲が碁を評したのであれば、これは語彙力や表現力の問題ではありません。


ある程度の棋力がある碁打ちであれば、例えば下手の方と指導碁を1局打てば、おおよその棋力、癖や得手不得手などをざっと掴むことが可能です。

それは、打たれた手の優劣だけでなく、対局中の時間の使い方、所作や表情といった囲碁以外の有機的な周辺情報も含めて分析ができます。

また、自分が一方の対局者であれば、同じ時間を共有している中でどれほど読めるか、ということが明確にわかるので、自分と比較して、相手がどのような思考を辿り、着手するに至ったか、ということもおおよそ想像できます。

自分の思考レベルと比較できるから、わかりやすい。


会見中、治勲先生が「棋譜は結果論でしかない」という表現をしました。

これを私の解釈で具体的に表現すれば「着手という無機的なデータのみであり、かつ、時間が制限されていない環境で分析するものだから、正確な評価はできない。」となります。


さて「普通に強い」についてですが・・・囲碁の棋力を総合的に判断するために、あえて要素を細分化するとすれば、時系列に沿うのがイメージしやすいですかね。

すなわち「序盤(大局観)」「中盤(読みの力)」「終盤(計算力)」です。


一般的なアマチュアの方であれば、それぞれの要素の熟練度にバラつきがあります。

政治家や経営者の方は「序盤」に明るく「中盤」はおおらか。

子どもなどは「序盤」はテキトーでも「中盤」に強い。

そんな傾向があったりしますね。


棋士やトップアマに近いレベルになってくると、これらの要素の差はほとんどなくなってきます。

かくいう私の力量は、棋士レベルの目で見た場合では、全ての要素で「ソコソコ基本はできてる」程度かな、と思っています。

そうしてみると、治勲先生が対局相手としてシビアな目で見た際の基準はかなり高いと想像できます。

その上で「普通に強い」と言うのであれば、これは一般的な基準で言えば「相当に高い水準でまとまっている」と読み替えて良いでしょう。


治勲先生は「序盤感覚に学ぶべきところがある」とも言っていたので、おそらく「序盤」が特長なのでしょう。

これはAlphaGoも同様であり、モンテカルロ法が持つ特長でもあるので、うなずけるところです。


(11/15 10:40追記)

Zen開発者の加藤英樹さんよりTwitterで以下のご指摘を頂きました。


『「これはAlphaGoも同様であり、モンテカルロ法が持つ特長でもあるので、うなずけるところです。」ですが,これは policy network の一致率(予測率)が高い囲碁ソフトの特徴です.』

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前置きが長くなりました。5局ほど選別して、局面のご紹介です。

1手15秒の早碁ということで、いかにZenと言えども正確さには難がありますが、それは対戦相手の人間のほうがより顕著でしょう。


■1局目 Zen:白番


図1

黒の方は「大高目」の使い手ですね。Zenのお手並み拝見、ということでしょう。


図2

善悪はわかりませんが、軽快なタッチです。玄人らしさを感じます。


図3

数手進み、この局面。右上の黒は断点がたくさんあるので、どのように手を付けていくか、というのが衆目の集まるところですが・・・。


図4

なんと、全てを放置して白1,3と体をかわしました。

打たれてみれば、黒がどのように打っても右上はまだ味の悪さが残り、まずは大場に先行し、その後の着手の選択肢を残すというのは味わい深いと言えそうです。


■2局目 Zen:黒番


図5

白が右上を一間トビをした局面。やはり、Zenを相手に手広く構えてみたくなるものなのでしょうね。


図6

Zenの選択はツケ!

なるほど、右上の白の勢力から極力遠ざかり、左上の白に圧力をかけながらサバこうという狙いですか。


図7

白1とハサミツケの強手を放ちましたが、黒は自然の流れで上辺を白地にさせ、先手を取って下辺の大場に回りました。

上辺の白地はたいして大きくないという判断は賛成できます。


■3局目 Zen:白番


図8

この形、実戦でも頻出の形です。


図9

当然右辺のワタリをさえぎるかと思いきや、あっさりとワタらせました!

さすがにこれは甘いのでは・・・?


図10

その後の進行も自然の成り行きで、白は泰然とした着手です。

白16と大場を占め、出来上がった図を見てみると、一概に形勢が悪いとも言いきれないかな、と思えてきます。

現在の人間の常識と思われるものと比較して、囲碁AIは一般的に「部分的な損を甘受しても、先手を取って大場に向かう」性質があるのです。


■4局目 Zen:白番


図11

白番のZenが黒模様を荒らしたところですが・・・


図12

黒1の強手で上辺の白が頓死してしまいました!

1手15秒という制約で、さしものZenも間違えたか・・・かわいいとこあるやないか、自分。

(ただし、この100手ほど後、黒が受け間違えて上辺の白が復活)


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この9月時点のZenが「Eloレーティング」で約3,000(プロ下位くらい)ということですね。

私よりちょっと強いかな~、っていう程度です。

治勲先生が会見で「イメージがついちゃうから、それほど深く碁を並べていない」と言っていたのは、先入観を持ちたくないということですね。

なめてかかると痛い目にあうから、いっそ知らない方がいい。

普通は、相手をよく知りたいと思っても不思議ではないですが、やはりそこは勝負師の感性でしょう。

これらの碁のZenとは、また大きく姿を変えてきていることは想像に難くありません。


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こんにちは。


治勲先生は、Zen、そして囲碁AIたちを「鉄腕アトムのような」と表現していました。

「鉄腕アトム」と言えば、いわゆる「良いロボット」の代名詞でしょうか。


一般的に、人工知能に関する議論にも、期待や効果といった側面の他に、脅威論(仕事がAIに奪われる!など)という論調もあります。


棋士の中にも意見はそれぞれですが、私の見聞きする範囲では好意的な人が多いですね。

(私が好意的に捉えているからなのでしょうけど)

治勲先生の「鉄腕アトム」という表現にもポジティブな感性を垣間見ることができますね。


また、治勲先生はZenとの対戦について「怖さよりも楽しみの方が大きい」と言っています。

囲碁を理解したなどとは毛頭思っていないでしょうけど、人の世では頂きに上り詰めたのが、

イ・セドル九段でもあり、治勲先生でもあるのです。


でも、もっと上があるということをAlphaGOに明確に示唆された。

それなら、その先の世界を見たいと思うのは、頂きを知る人間なら、ごく自然の、そして切実な

感情だと思いますね。


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(デザインセンスがなくてごめんね)







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こんばんは。


昨日の記事でもお伝えした通り、第2回囲碁電王戦の鑑賞会を開催致します。


日時:20161120日(日)、1123日(水・祝) 

12:45開場 13:00開始 18:00頃終了予定(両日とも)

場所:囲碁サロン渋谷


費用と企画は、明日最終調整しますので、少々お待ちください。

参加者のみなさまと距離が近く、ワイワイガヤガヤと楽しめる雰囲気にしたいなぁと思っておりますので、まずはぜひご予定のほどを。

弟子ならではの秘蔵トーク(?)も、ついに蔵出しするかも。(記憶を整理せねば・・・)


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Zenの情報について追記です。



実力の指標として「Eloレーティング」というものがあります。(チェスや将棋などでも使われる指標の1つ)


この「Eloレーティング」では、囲碁の人間トップクラスは約3,600だそうです。

AlphaGoは、昨年10月に中国のファンフェイ二段に5-0で勝った時がおおよそ3,000くらいだったようで、そこから約5ヶ月でイセドルに勝ったわけですから、「Eloレーティング」換算では600以上上乗せしてきた、という感じですね。

Zenは9月時点でおおよそ3,000ということを記者会見の中で言っていたので、11月中旬までの約2か月間でどれほど成長しているか、というところでしょう。

なお、治勲先生はレーティングサイト によると、11月8日時点で165位、3,238でした。


う~ん、どうでしょうね~。

Zenもかなりやりますからね、2か月と侮るなかれ。

男子三日会わざれば刮目して見よ、AIもまた・・・といったところでしょうか。