りさと俺は同時に扉を開いた。
ズッシリと扉が開く感覚が、手から腕や肩へと伝わってきた。
見ると、俺のほうは部屋だった。
すると、後ろから叫び声が段々小さくなっていくのを聞いて、俺は直ぐに振り返った。
扉の向こう側は青空が見えていた。
りさは、叫びながら下へ落ちていったのだった。
次の瞬間、どちらの扉もものすごい勢いで閉まった。
部屋の中央にはテーブルがあり、スポーツバッグらしきものが置いてあった。
更に奥のほうにはでっかいモニターがあり、その前にはモニターのほうを向いてイスがあり、そこには男らしき人が座っていた。
謎の男「おめでとう。君は一億円を無事に手にできたわけだ。」
男はボイスチェンジャーで変えているような声をしていた。
健太「ふざけるな!何が一億だ。3人が犠牲になったんだぞ!」
謎の男「だが君は、一億が欲しくてここに来たんだろ?一億は今までのリスクの引き換えだ。それくらいでも、安いと思ってるくらいだ。」
健太「てめぇ!3人の命は金には変えられねぇんだよ!何が一億だ!」
謎の男「人は欲なしじゃ生きられない。君たちも一億が欲しいという欲があったから来たんじゃないのかね。それに、多少の犠牲はつきものだ。違うかね。」
健太「違う!あんた、間違ってる。命を犠牲にしてもいいなんてのは、ないんだ!
俺は…、クイズ番組みたいに何かのゲームで勝ち上がって貰えると思ってたんだ。」
謎の男「だから、君たちでリアルにサバイバルゲームをしたじゃないか。」
健太「だからって、命を賭けるのはおかしいんだ!あんた、どうかしてるよ!何が、何が……
何が!一億だーーーー!!」
俺は、男が座っているイス目掛けてバッグを投げつけた。
イスにバッグが当たると同時に男の姿も消えていた。
謎の男「ハハハハハハッ、ハハハハハッ。」
健太「ふざけやがって!出てこい!」
俺は、モニターのすぐ横にエレベーターらしきものが見えたので、駆け寄ってみた。
エレベーターだと確認した俺は、バッグは置き去りにして1階まで下りた。
扉が開くと、もうそこは外だった………。
「…てください。…きてください。
起きてください。」
店長「お疲れ様でした。皆さん大丈夫ですか?」
健太「う~ん、……ハッ!
あっ、そうだった……。」
拓哉「あれ?
あっそうか、俺達……、午後の講義サボってここに来たんだっけ?」
りさ「すっかり寝惚けてたわ。」
明信「なんかよく分からなくなってしまってたわ。」
店長「皆さん、いかがでしたか、リアル・ブレインは。」
拓哉「いや、本当にリアルやったよ。夢か現実か分からなくなってしまってたしな。」
店長「他のお客さんもリアリティーを求めて来ますので、その夢を見せるのが我々の商売でして。」
明信「でもよ、ずっと健太目線ってのが気に食わなかったけどな。」
りさ「でも、私と健太は恋人なのに、夢では只の同じサークル仲間だって。」
健太「店長さん、何人まで夢を共有できるんですか?」
店長「5人までです。ですから、6人以上来られましても、定員オーバーになった人達はその夢をリアルには体験できません。
ところで、先ほど見た夢はDVDにコピーすることもできますが、いかがいたしますか?」
健太「みんな、どうする?」
拓哉「俺は、ほとんど出てこなかったし。ひどいやつじゃん。要らないよ。」
明信「俺も、健太の臭い芝居見たくないしな。ハハハッ」
りさ「私もひどい目に遭ってるし。それに何よ、あれ。人殺してるし、顔もボコボコだし。」
健太「じゃあ、要らないよな。」
店長「じゃあ、今すぐに消去しておいてよろしいですね?」
健太「はい、お願いします。」
健太「ところで店長さん。あちらのほうは何なんですか?」
店長「こちらは、21時以降にしか利用ができないアダルトコーナーになっております。
一人で来る人がほとんどですが、中にはカップルでこられる方もいらっしゃいますよ。」
健太「だってよ、りさ。」
りさ「ちょっと、何考えてるのよ。」
そう言ってりさは、健太の足を踏んづけた。
健太「イテテテ!冗談だよ、冗談。」
拓哉「でもさ、説明や睡眠に入る時間を含めて30分5000円は高くない?」
店長「いえいえ、これでもリーズナブルな値段となっております。」
健太「来ても年に数回だよな。」
店長「お客様の中には、週に1回は来られる方もいらっしゃいますよ。」
りさ「しゅ、週に1回!」
明信「俺達には無理だよな。」
健太「店長さん。他にはどんなジャンルがあるんですか?」
店長「たくさんありますよ。それこそ、日常もあったり、冒険やトレジャーハント、デートはアダルトコーナーででも出来ます。」
店長「電話を頂きました、開馬さま。会員証をお作りできますが、いかがいたしますか?」
健太「う~ん、どうしよう。」
明信「作っとけば。また来るかもしれないし。」
店長「ポイントが5ポイントずつ貯まっていくんですが、100ポイントで1回分無料になります。もちろん、何名で来られても皆さん無料です。」
健太「まあいいか、作っとくか。」
店長「ありがとうございます、それではですね、こちらにご記入をお願い致します。」
拓哉「それにしても、凄いよな。この機械。夢ってほんの数秒だろ?しかも、みんなで夢を共有なんてな。」
明信「まったくだ。」
健太「会員証も作ったし、帰るか。」
りさ「じゃあ、帰りにファミレスに寄るぞー!」
3人「………。」
りさ「な、なによ、いいじゃない。」
店長「またのご来店、お待ちしております。ありがとうございました。」
リアルな夢が見れる店、リアル・ブレイン。こんな店があったら、あなたはどうしますか?
完
※この物語は、フィクションです。登場人物は架空であり、出来事は実際とは関係ありません。