彼は、ゆっくりと話し始めた。
「俺は、幼稚園の頃、たまたまふと道着を背負って道場に入っていく、当時は師範代だった今の師範を見たんだ。その後ろ姿が、かっこよくてよ。それから、実際に見たらますます虜になって、この道場に入ったんだ。」
「どんどん、俺は腕を上げていったよ。しかし、高校の時に連れを助けに入った時に怪我しちまって、今でも右足はうまく使えない。それからだよ、俺が荒れだしたのは。」
その話を聞いた俺は、怒りのようなものがこみ上げてきた。
「お前、俺にこう言ったよな。やる気がないんやったら、道場来るなって。何だよ、お前こそ自分に負けてるじゃないか!」
かれは、
「お前に俺の気持ちが分かるのか?何が、分かるっていうんだ!」
と、言葉を返してきた。
俺は、
「確かに、分からないよ。でもな、そうやってずっと自分から逃げるのか。死ぬまでな、自分からなんで逃げられないんだよ!だったら、立ち向かえ!不良やって、憂さ晴らしなんてしてんじゃねえよ!」
と、さらに言葉をぶつけた。
彼に、目をやるといつの間にか、彼の頬にはひとつの筋が伝っていた。
彼「確かに、あんたの言う通りだよ。空手が好きで、ただ道場に通っているだけの”抜けがら”に、なってたかもな。ずっと、どうしようもなかった。けど、自分から逃げずにもう一度、立ち上がるよ。今まで、誰にも自分の気持ちなんてぶつけなかった。道場の人たちに、素直にぶつけられなかった。」
俺「それは、違うよ。君は、ぶつけようとしなかった。怖くてな。」
彼「そうかもな。でも、あんたにぶつけ、あんたの言葉で俺もやる気になったよ。なあ、辞めるなよ。」
俺「ああ、俺、君が気に入ったからな。」
俺「それと、仕事もバイトでもいいから、ちゃんとやれよ。仲間も、説得してな。」
彼は、少し照れながら返事をした。
2人の間に、色んなものが芽生え始めた。
-完-
※この物語は、フィクションです。登場人物は架空であり、出来事は実際とは関係ありません。