銀杏の葉を踏みしめながら大通りを北に向かって歩いている
信号機もない一本の小道を左に入ると間もなくして
普段なら見落としてしまいそうな小さな看板を見つける
暗い階段
人が一人通れるくらいの穴倉へ落ちていく
そこにはあの看板の店がある
店に入るなりそこには彼女が居ないことを瞬時に悟った
俺はビールを一杯だけ飲んで1000円札を1枚カウンターに置き
店を後にした
直後に着信
彼女に呼び出された
彼女の部屋は店から目と鼻の先ほどの小さなマンション
インターホンを押すとすぐに枯れた声が応答した
「入って」
鍵は開いていた
嫌な予感がしたが靴を脱ぎ後ろ手で施錠して玄関を上がった
間もなく空き缶から漂うすえた匂いがした
奥に進むと薄着の彼女がソファーにもたれながら煙草を吸っていた
俺はどうしたのかと聞いた
彼女はいいから飲もうと言った
彼女が洒落た音楽を流しながら酒を作った
彼女はJAZZが好きだと言っていた
俺は彼女が作った酒を煽りながら彼女を引き寄せた
彼女は嫌がるそぶりを見せるどころか俺にしなだれかかってきた
目が覚めたのは夜中
うっすら開けた目に彼女の寂しそうな寝顔が写る
それでも俺は幸せだと思った
翌日もそのまた翌日も
俺は彼女の家を訪ねた
そのうち着替えを持ってその家に居ついた
彼女は店を辞め一日中家にこもっていた
俺はいつしかこの家に「ただいま」というようになっていた
そんなある日
彼女は出て行ってくれといった
そしてもう会わないと言った
目には力が戻っていた
声には張りが戻っていた
ああ
俺は用済みなんだと思ったら無性に寂しくなってきた
彼女の唇を貪りたくなった
はっきりと拒絶された
その瞬間に終わったのだと確信した
いや始まってもいなかったと自覚した
一人暮らしのぼろ家で寝転がる
夢の中で彼女の唇を貪った
生臭い飯の匂いがして目が覚めた