夕刻の新大橋の上から隅田川を観る
水面(みなも)が朱に染まり綺麗なグラデーションが思いを深くする
「今日は夕日がきれいだな」
と感じることができて上出来だと感じた。
あの時のように橋の下に降りてみた
浜町公園の脇の遊歩道
普段はランナーや浮浪者が我が物顔で闊歩している場所だ
心の中で「外様が粋がるんじゃねぇよ」と毒づいてみた
知らぬ間に酔っていたのかもしれない
時刻はすでに夜7時
あたりが暗くなり、そういえば公園からは子供の声も聞こえなくなっている
どれだけそうしていたのかも分からない
月光に晒された水面に海月がぷかぷか。
いつ頃だったか
インターネットとケータイが爆発的に広がったころ
ボンジは六本木の駅から「Lexington Queen」を目指して歩いていた
週末になると何処からともなく外人が集まるクラブ
中にはサッカー選手 モデルなんかもいる
VIPルームもあったんだろうけど、そんな洒落たところで飲むよりもフロアーの方が楽しいことを皆知っている
一息つくためのソファーはモデルが占拠している
あいつらは一般人を見下しているからいくら声をかけても振り向いてくれない
奥の寿司カウンターを覗いた。
もちろん冷やかしで
女が一人カウンターに肘をついて寿司をつまんでいる
長い髪を後ろで束ね白のTsh姿で形のいいHipだった
鋭い眼光がこちらを一瞬だけ見た
目が合った気がした
心臓が高鳴るのをもろに感じた
今思うともうそこでボンジの負けが決まっていた気がする
マリコは変わった女だった
その瞳で見つめられると全てを見透かされた気がして
居心地の悪さを感じてしまう
そしてまた、ボンジだけが狂う
そんな悪酔いでもしたような感覚に完全に中毒になっていった
これが恋だとか愛だとか言うなら、それは世間で垂れ流しているドラマや映画が嘘ばっかりだということになる
マリコが言った
権力が好きだと
それは、権力を持った男が好きなのか
それとも自分自身が権力を持ちたいのか
そもそも権力ってなんのことなのか?
言葉は理解できても、真意が理解できない
でもその言葉は胸に突き刺さったまま何日もボンジを悩ませる
カエシが付いたように取れることはない
何日も何日もそこにいて、心を蝕む
やがて理解したような顔をする
マリコは怒る
「あんたはそうやって何時も人を馬鹿にしたような顔をするね」
バカにしてないし怒らせたいわけでもない
でも何も言い返せない
言葉を発すればそこに穴が開いてその穴からすべてが崩壊しそうな気がする
だからボンジはいつもむくれるしかないのだ
マリコは出かける
呼ばれればどこへでも行く
夜は接待が多い
大体は大きい会社のお偉いさん方達
裏も表も業界は問わない
外国人以外誰にでもついていく
外国人は行儀が悪いから嫌いなんだとか
一度聞いたことがある
だから俺にもついてきたのかと
意外にもマリコは悲しそうな眼をしたきり黙った
それきりボンジは愚問を投げるのはやめた
知り合って間もないころに一度
その接待に乗り込んだことがあった
扉を開けて根性を出したが笑われて終わった
数日間マリコと連絡が取れなくなっただけだった
マリコは浮いていた
月下の夜にぷかぷかと
昔言っていた
「わたしはねボンジ海月になりたいの。だって海月って海の月って書くの。知ってる?」
「へー」
「わたしねボンジ、海が好き。んで月も好きなの」
「へーそうなんだ」
「だからねボンジ、海月って神秘的じゃない?」
「あんなに何も考えないでさユラユラと毎日漂っていられたら素敵じゃない?」
最初観たときは暗い水面に月が写っているのだと思った
でもその月はなんか白すぎた
マリコが言うようにかっこいい月じゃなかったから
近くに行って見てみた
するとソレは月じゃなくて海月だった
大きな大きな海月
願いはかなったのかな?
・・・