2019年 10月公開
イギリス映画
監督:ケン・ローチ
町山智浩評
https://miyearnzzlabo.com/archives/60005
宇多丸評
https://www.tbsradio.jp/446791
私の中ではケン・ローチ二部作と思っていますが、実際、宇多丸評にもある通り、「私はダニエルブレイク」で引退だったはずが・・・
これだけはということで作られた
映画「家族を想うとき」原題「sorry we missed you」
ストーリー
現在のイギリスの格差社会問題
舞台はイギリスの郊外ニューカッスルというところ
マイホーム購入を目指す4人家族のお父さんが再就職先として選んだのが、宅配業者。
今流行のシステム(町山さんがギグ・エコノミーとして解説)個人事業主として宅配業者と契約して働くことにチャンスを見出した
主人公のリッキー
だったが、このシステムの暗部が徐々に明らかになっていき、やがて幸せな家族をも巻き込んで行くという物語
見どころ
やはり前作通りというか、これぞケンローチというべきか、圧倒的ドキュメンタリー手法で音楽も最後の方と・・・ほんのわずかに・・・みたいな使い方で、淡々とそして、これでもかというくらいに現実を「現実」として見せられる。
リッキーは最初「こんなチャンスが来るのを待っていた」って言います。
これが地獄の始まり。
でも、これって、本当に一見都合のいいシステムに見えるし、働けば働くだけお金が稼げるように見える。
URBERがよく解説に出てきますが、今フィリピンとかベトナム、タイなんかでも大流行の「GRAB」っていうのがあって、この[GRAB」っていいう会社は「URBER」の東南アジア事業をそのまま買い取り様々な事業展開している会社なのですが、配車とかタクシーの相乗りを助けるアプリから、どんどん広がって、今や東南アジアの旅行はこの「GRAB」というアプリさえ入って入れば、taxiを呼んで乗って、全て料金は距離で決まっている為チップもいらないし、ぼったくりにも逢わない。アプリ内でのカード決済になっているから現金も必要ない。
ホテルに居ながら、長蛇の列ができるほどのバインミーとかもかなり早く運んでくれる。
そういうシステムが世界的に大流行している。
ただ働く場合は・・・・
映画の中でも言ってます。
面接ではフランチャイズだから
タイムカードはない
ノルマもない
あるのは最低限のルールだけ
実際仕事に行くと
朝早くいかないと仕事が無い
とんでもなく量が多いから、配れないとペナルティーだから事実上のノルマ?
車もないから持ち込み
事故しても 病気しても労災もないし、保険もない
空のペットボトルを渡されて、トイレに行く暇もないぜという言葉
ブラックボックスを渡されて、配送のすべてと荷物の追跡を管理する機械で配達員の行動も管理する。
しかも無くしたり壊したら14万円くらい弁償
結果
フルタイムで働くなら
14時間/1日 週6日働いてやっと
これ日本でいうと、大体の試算を町山さんがしてますが
1個あたり単価150円の報酬だから
100個運んで 15000円×20日間で約30万
そこから保険、経費、車のローン、駐車場代を引くととても生活は出来ない
ひどすぎるシステムだっていうことが解る
奥さんのアビー
は介護の仕事をしていて、老人の面倒をシフトを組んで診ている。
リッキーの独立の為マイカーを失いそれでもバスとタクシーで老人介護をしている。
朝から夜まで、まさに寝かしつけまでやっている。
その傍ら、子供2人の面倒をみて、ひっきりなしに電話で留守電を吹き込んでいる。
穏やかな性格で暮らしているが・・・・・最後に
息子のセブ
は高校生だけど少しだけグレてしまって、スプレーアートをしている。
この息子と親父のやり取りこそ物語が動くところだと思う。
息子の行動にぞっとする。が、・・・・・
娘のライザ
睡眠障害を抱えてしまうが、明るくいい子
一緒に宅配する姿がほほえましいし、家族で車で出かけたシーンでも、ラップがかかってぐいぐい踊ってるところが可愛らしい。
最後にはあそこからカギが・・・のところが一番泣かせるシーン
雇い主マロニー
まぁまた威圧的。だけど地域で一番稼いでるから仕方がないのです。
人を駒のように扱う役どころですが、これも、上がいると考えると仕方がないことなのかなと思わせる。
映画としての面白さ
やはり前作と同じ真面目だからこそクスリと笑わせるところがある。
・家族でまぁ上手くいっているときに、ベッドでリッキーがアビーにキスをして盛り上がりそうになると、「疲れてるからごめん」となるのだけど、そこで終わるのではなく
「明日はリストの最優先にしとくわ」というところ。素敵!
なんだか希望のある言葉。
・息子が家出してとある物を持ち逃げされたと思ったリッキーが息子を探しに行くときに、娘の幼いころ使っていた自転車しかなくて、小さいちゃりをこぐシーン。これも滑稽なんだけど、裏返せばそれだけ必死。何回目かのペナルティーで、とにかく仕事に行かなきゃヤバいっていう焦りがヒシヒシと伝わってくる。
・アビーが電話を代わってまで、マロニーに浴びせたセリフ。
それを言った後、「あーーなんてことを。。。」が本当にアビーの人間性をうかがわせて、「おかしくなってる」という裏付けがされるシーン
最後に
全体として本当によくまとまった102分だった。
このドキュメンタリー調のおかげか、悪者役であるマロニーとか、がたがたいう客とかもなんだか、悪く見えない。
むしろ、こんな社会のなかだから仕方がないのだ。となる。
これを変な作りで音楽とかがかかってしまうと、いかにも「パワハラだ」とかなりかねない作りになると思うけど、これは、本当に社会で生きていくという厳しさからくるもので、ある意味リアルで仕方がないのだと思わせる。
それこそが監督が言いたかったことではないでしょうか?
ラストの終わり方もそのものだ。
彼らには、というより、我々にはまだまだ続きがあって、物語みたいに良かったねでチャンチャンで終わらないのだよ。
という意味だと思う。


