地下鉄御堂筋線の天王寺から歩いて、15分

小さいが、小奇麗な構えの「セラヴィ」というアパートを借りていた。

どことなく「女受けしそうな」部屋だという印象だ。

ジロウはここに1年住んでいるが、あまり生活感がなく、一人暮らしの男性にしては、綺麗にしていた。

そもそもジロウはあまり物を置かない主義で、大阪に引っ越す際も、漫画やDVDなどはほとんど捨てた。今はなんでもパソコンや漫画喫茶が何とかしてくれる時代だ。

 

土曜日のある日、いつも通り家にいてもやることがないので、漫画喫茶に行ってから、町に飲みに繰り出そうとお昼過ぎにジロウは家を出た。

何時も会社にむかうルートと同じ道を歩き、天王寺で地下鉄に乗る。

なんばで電車を降り、会社で使う定期をタッチパネルにかざす。

の漫画喫茶に入り、だらだらと過ごす。夕方になり、繁華街で一人酒を呑み、スナックで「独身」と偽り40代くらいの女の肩をだき歌を歌う。

いつも通の土日。

夜9時になると帰宅の電車に乗り込む。

ジロウは思う。「自由ってこんなもんか・・・」ふと寂しくなる。

 

電車を降りると、春特有の肌寒さを感じる。

家に向かってトボトボと歩く。

 

ふと前方に仕事帰りの女を見つける。

なんてことない女なのだが、目が留まる。思い出した。

その女は、朝ジロウが出勤するときに逆方面に向かって出勤する女だ。

また、ジロウが帰宅するときに、会社を出て帰宅の途につく女だ。

毎日すれ違う何人か同じ女性がいる。ジロウはすれ違いながら、「抱ける」「抱けない」と頭の中で餞別している。

その女は、たしか・・・思い出せなかった。

ジロウはすれ違いざまに、ふと向こうも気が付いた気がして振り返った。

コツコツといつもと同じヒールを鳴らす音がいつも通り遠ざかっていっただけだった。

 

ジロウはなぜかとても寂しい気持ちになって、その夜東京の妻を思い出して、自らを慰めた。