東京へ出てきた理由。
それは、ただただ「本当」がほしかった。感じたかった。
埼玉の秩父で育った私は、ただの田舎もので、狭い世間と狭く苦しい現実に縛られ、ここまで生きてきた。
そう「生きてきた」のだ。
故郷には思い出したくも無い過去が眠っている。

地元の近くを通ることがあって、近くを通ったらめまいがした。
私にとっては、なにかもの凄いパワーがとぐろを巻いて、見える。

だから、仕事なんて何でも良かったのだ。
自分に出来る事といえば、料理くらいしか思い浮かばなかった。
しかも、田舎から出てきた少年を住み込みで雇ってくれる所なんて。。。

中学3年の夏休み
皆が、中学最後と遊んでる頃。
皆が、受験勉強に励んでる頃。
私は一人密かに、上京の準備を進めていた。
東京である人物に出会い、上京を約束した。

親は当然、高校に進学する物と思い込んでいたが、そこは私も役者を頑張って演じた。
受験は成功した。
親は喜んだ。
入学の手続きを済ませた。
中学を卒業した。
次の日に私は家から消えた。

今でも忘れない、あの頃
悔しさと爽快感と悲しみが一気に襲ってきて、くしゃくしゃになった顔で、故郷にさよならをしたことを。
電車の車窓から見える景色がやたらとくすんで見えたことも。

故郷のくすんだ山々と渋滞のテールランプが重なった。
「ビーー」
という終わりのベルが、クラクションが私を現実に引き戻した。
ついつい、セフィーロのステアリングを握る手が汗ばんでいた。

首都高速渋谷の入り口が見えた。
横にいる、千春はぐっすりと寝ていた。