弦楽器による芸術の最高峰。凄いのではなく素晴らしい演奏に息を呑む。優しくしなやかにそして力強く。次世代に残すべきおおいなる遺産。
Nadja,Sergio and Odair Assad「GYPSY」
アーティスト: Nadja,Sergio and Odair Assad
タイトル: GYPSY
初めてこの演奏を耳にしたとき、ガットギターの奥の深さを叩き込まれました。そしてヴァイオリンという楽器の素晴らしさを再認識しました。
とにかく6+6+4=無限大の図式なのである。弦楽器は、その構造上弦の数以上の音は一度に出せない。つまり弦の数でいえば16が最大発音数なのであるが・・・あり得ない。出てきている音の厚みは軽く20人近くの室内楽のそれを彷佛させるのです。アーティキュレーションつまり強弱のことであるが、それが見事なので、結果としてその振れ幅が室内楽のそれを彷佛させるまでにいたっているのです。
とにかく歌っているなんて生易しい領域ではないのです。一音一音に魂が入っていて、ピンと背中が張っている。無駄がないのに芳醇なのだ。いや、無駄がないから芳醇でいられるのか?こうして改めて聞き直してみると、音楽の奥の深さをまたしても見せつけられた気がする。
いやはや、私なんかがやってきたのは多分まだ音楽の「お」の字だったのだろう。。。それでもあれだけ楽しめて、あれだけ多くの人に出会えた。きっと彼等の領域にいけたなら、また違う情景が見られたのだろうと思うと、本当にうらやましい。
愚痴はさておき少し、アーティストについて触れておきましょう。ナージャこと、ナージャ・サレルノ=ゾネンバーグは世界トップクラスのバイオリニストの一人です。ローマ生まれで、8歳の時にアメリカへ移住。その後ジュリアード音楽院で学ぶのであるが、ここでも彼女はその破格の演奏家ぶりを発揮し、ジュリアードの教育方針に真っ向から対立。自らの音楽を本能的に手繰り寄せて、見事に自分の音楽を作り上げてしまいました。結局の所、常人の行き着けない領域で彼女は、音楽と対峙してきていたのです。
その後、彼女は20年近くの永きに渡って活躍しています。途中、料理で指を怪我をして絶望視されるなど、そもそもクラシック界では、タブーともいえる事件を起こすのですが、何の事もなく復帰してきます(料理で手を怪我した著名なミュージシャンはクラシック界の外にはいくらでもいる・・・笑)。
彼女はその超情熱的な性格でもよく知られています。一般的なクラシックという窮屈な枠組みから飛翔した活躍をしてきています。ソロのコンサートはもちろんの事、さまざまなテレビ番組にも出演しました。セサミ・ストリートも有名な出演番組です。私が彼女を知ったのは、彼女の半生を描いた著書「ナージャ 我が道をゆく」でした。あいにく今手元にこの本はないのですが(音楽家としての人生に疑問を持っていた、とある女性音楽家に差し上げました)、その本での強烈な音楽観には、圧倒されるばかりです。
そして、その情熱的なじゃじゃ馬バイオリニストを待受けた、これまた天才兄弟のアサド・ブラザーズです。ギターの演奏技術、編曲技術、アンサンブルの限界への挑戦など、数多くのその演奏でギター界を数歩先へ前進させ続けている兄弟です。もしあなたがギタリストであるのであれば、必ず通らなければならない演奏家です。兄セルジオ12歳と弟オダイル8歳の時に彼等はギタリストになる事を決めました。以来、かわらずそして弛まず、彼等の演奏人生は今日まで50年近く続いています。彼等を人はこう呼ぶ。「世界最高のクラシック・ギターデュオ」二人は彼等については、今後も度々触れていくつもりなので、この辺りで、本作品について触れていこうと思います。
本作品、「GYPSY」はその名の通り、ヨーロッパとりわけ東欧のものを取り上げている。どこか悲し気で憂いを帯びた作品が多いのはそのためかも知れない。ざっとあげると、スペイン、ロシア、ブルガリア、トルコ、ルーマニア、ハンガリー、マケドニア、ベルギー、フランス、トランシルヴァニア。どの曲もオリジナルのエッセンスをいかしながら、見事にセルジオの手でアレンジが施されている。
ほとんどの曲は、彼等のトリオでの演奏であるが、二曲だけパーッカッション奏者のジェミー・ハダットが参加している。しかしどれも見事に余分な音はなく、聞かせるべき音が、聞かせるべきところで鳴っているそんな感じの音楽です。
各曲の解説をしてゆきたい。1曲目「Andalucia」はその名の通り、スペインの民謡をモチーフに展開した曲。ギターがとにかく魅せる!それにからむナージャはまるでフラメンコのダンサーのよう。絡みからんで、高見にのぼり積める。真っ青なアンダルシアの空へ飛翔する。素晴らしい。
2曲目「Fantasy on Dark Eyes」イントロのギターからして・・・弾けませんよ、そんなの。。。緩急、強弱、緊張と弛緩。見事なナージャのヴァイオリン。そして哀愁を奏でるアサド兄弟のギター。ロシアの民謡がベースらしい。3曲目「The Chase」ブルガリアのリズムをベースに展開している曲ですが、非常にエキサイティングなその展開は、現代フラメンコを彷佛とさせます。パーカッションも程よく絡んできます。まあとりあえず、アサド兄弟のギター叩きの技これに驚愕して下さい。こんなにパッションを表現できるのがガット・ギター(ナイロン弦)なんです。
4曲目「Istanbul: Awakening and Turkish Dance」は文字どおりトルコのジプシー音楽がベースです。イントロのナージャのカデンツァは号泣もの。素晴らしい。ここまでヴァイオリンは人々に語りかける楽器なのですね。5曲目「Tatras」タトラ風という邦題のこの曲は、ルーマニアのタトラという地方に由来した楽曲。非常に哀愁がただよう。なぜかDecoyはこの曲を聞くと「風の谷のナウシカ」を思い出します。ひょっとして、この辺りのイメージを宮崎駿氏はリサーチしていたのかも。。。
6曲目「Gypsy Songs」その名の通りですね。ハンガリーの7つのジプシー民謡から生まれた楽曲です。見事に現代化されています。非常にモダンな楽曲に鳴っています。それでも、ベースで流れるたゆまないこの流れるような感触は、そのハンガリーの田舎の空気をここまで運んでくれます。7曲目「Vardar's Boat」ヴァルダルの舟という邦題がついている。マケドニアの民謡らしい。どこか中国の古楽を思わせるその雰囲気にはアジア的なものを感じる事ができます。しなやかなナージャの演奏。は胡弓のようです。
8曲目「Nuages」はいわずとしれた、ジャンゴ・ラインハルトの名曲。雲を意味するこの楽曲は、その牧歌的な雰囲気に隠された、ジャンゴの平和への強い思いを感じます。名人の書いた名曲を、名アレンジャーによる編曲で名手が蘇らせた。ハッキリ言いいます。悪いわけがない。そして最後の「Somogy's Dream」トランシルヴァニアの民謡がベースになっているそう。澄み切った素晴らしい演奏。空気の透明度が上がった気がする。ナージャの歌声もかすかに聞ける。
これまで、こういう「クラシック」というジャンルの音楽を聴いてこなかった方にも、是非おすすめしたいアルバムです。間違いのないアルバムの一枚です。こういうアルバムを入り口に、良質なクラシック音楽への旅を初めてみて下さい。それでは。
Love Always,
Peace Everyone,
Nadja,Sergio and Odair Assad「GYPSY」
アーティスト: Nadja,Sergio and Odair Assad
タイトル: GYPSY
初めてこの演奏を耳にしたとき、ガットギターの奥の深さを叩き込まれました。そしてヴァイオリンという楽器の素晴らしさを再認識しました。
とにかく6+6+4=無限大の図式なのである。弦楽器は、その構造上弦の数以上の音は一度に出せない。つまり弦の数でいえば16が最大発音数なのであるが・・・あり得ない。出てきている音の厚みは軽く20人近くの室内楽のそれを彷佛させるのです。アーティキュレーションつまり強弱のことであるが、それが見事なので、結果としてその振れ幅が室内楽のそれを彷佛させるまでにいたっているのです。
とにかく歌っているなんて生易しい領域ではないのです。一音一音に魂が入っていて、ピンと背中が張っている。無駄がないのに芳醇なのだ。いや、無駄がないから芳醇でいられるのか?こうして改めて聞き直してみると、音楽の奥の深さをまたしても見せつけられた気がする。
いやはや、私なんかがやってきたのは多分まだ音楽の「お」の字だったのだろう。。。それでもあれだけ楽しめて、あれだけ多くの人に出会えた。きっと彼等の領域にいけたなら、また違う情景が見られたのだろうと思うと、本当にうらやましい。
愚痴はさておき少し、アーティストについて触れておきましょう。ナージャこと、ナージャ・サレルノ=ゾネンバーグは世界トップクラスのバイオリニストの一人です。ローマ生まれで、8歳の時にアメリカへ移住。その後ジュリアード音楽院で学ぶのであるが、ここでも彼女はその破格の演奏家ぶりを発揮し、ジュリアードの教育方針に真っ向から対立。自らの音楽を本能的に手繰り寄せて、見事に自分の音楽を作り上げてしまいました。結局の所、常人の行き着けない領域で彼女は、音楽と対峙してきていたのです。
その後、彼女は20年近くの永きに渡って活躍しています。途中、料理で指を怪我をして絶望視されるなど、そもそもクラシック界では、タブーともいえる事件を起こすのですが、何の事もなく復帰してきます(料理で手を怪我した著名なミュージシャンはクラシック界の外にはいくらでもいる・・・笑)。
彼女はその超情熱的な性格でもよく知られています。一般的なクラシックという窮屈な枠組みから飛翔した活躍をしてきています。ソロのコンサートはもちろんの事、さまざまなテレビ番組にも出演しました。セサミ・ストリートも有名な出演番組です。私が彼女を知ったのは、彼女の半生を描いた著書「ナージャ 我が道をゆく」でした。あいにく今手元にこの本はないのですが(音楽家としての人生に疑問を持っていた、とある女性音楽家に差し上げました)、その本での強烈な音楽観には、圧倒されるばかりです。
そして、その情熱的なじゃじゃ馬バイオリニストを待受けた、これまた天才兄弟のアサド・ブラザーズです。ギターの演奏技術、編曲技術、アンサンブルの限界への挑戦など、数多くのその演奏でギター界を数歩先へ前進させ続けている兄弟です。もしあなたがギタリストであるのであれば、必ず通らなければならない演奏家です。兄セルジオ12歳と弟オダイル8歳の時に彼等はギタリストになる事を決めました。以来、かわらずそして弛まず、彼等の演奏人生は今日まで50年近く続いています。彼等を人はこう呼ぶ。「世界最高のクラシック・ギターデュオ」二人は彼等については、今後も度々触れていくつもりなので、この辺りで、本作品について触れていこうと思います。
本作品、「GYPSY」はその名の通り、ヨーロッパとりわけ東欧のものを取り上げている。どこか悲し気で憂いを帯びた作品が多いのはそのためかも知れない。ざっとあげると、スペイン、ロシア、ブルガリア、トルコ、ルーマニア、ハンガリー、マケドニア、ベルギー、フランス、トランシルヴァニア。どの曲もオリジナルのエッセンスをいかしながら、見事にセルジオの手でアレンジが施されている。
ほとんどの曲は、彼等のトリオでの演奏であるが、二曲だけパーッカッション奏者のジェミー・ハダットが参加している。しかしどれも見事に余分な音はなく、聞かせるべき音が、聞かせるべきところで鳴っているそんな感じの音楽です。
各曲の解説をしてゆきたい。1曲目「Andalucia」はその名の通り、スペインの民謡をモチーフに展開した曲。ギターがとにかく魅せる!それにからむナージャはまるでフラメンコのダンサーのよう。絡みからんで、高見にのぼり積める。真っ青なアンダルシアの空へ飛翔する。素晴らしい。
2曲目「Fantasy on Dark Eyes」イントロのギターからして・・・弾けませんよ、そんなの。。。緩急、強弱、緊張と弛緩。見事なナージャのヴァイオリン。そして哀愁を奏でるアサド兄弟のギター。ロシアの民謡がベースらしい。3曲目「The Chase」ブルガリアのリズムをベースに展開している曲ですが、非常にエキサイティングなその展開は、現代フラメンコを彷佛とさせます。パーカッションも程よく絡んできます。まあとりあえず、アサド兄弟のギター叩きの技これに驚愕して下さい。こんなにパッションを表現できるのがガット・ギター(ナイロン弦)なんです。
4曲目「Istanbul: Awakening and Turkish Dance」は文字どおりトルコのジプシー音楽がベースです。イントロのナージャのカデンツァは号泣もの。素晴らしい。ここまでヴァイオリンは人々に語りかける楽器なのですね。5曲目「Tatras」タトラ風という邦題のこの曲は、ルーマニアのタトラという地方に由来した楽曲。非常に哀愁がただよう。なぜかDecoyはこの曲を聞くと「風の谷のナウシカ」を思い出します。ひょっとして、この辺りのイメージを宮崎駿氏はリサーチしていたのかも。。。
6曲目「Gypsy Songs」その名の通りですね。ハンガリーの7つのジプシー民謡から生まれた楽曲です。見事に現代化されています。非常にモダンな楽曲に鳴っています。それでも、ベースで流れるたゆまないこの流れるような感触は、そのハンガリーの田舎の空気をここまで運んでくれます。7曲目「Vardar's Boat」ヴァルダルの舟という邦題がついている。マケドニアの民謡らしい。どこか中国の古楽を思わせるその雰囲気にはアジア的なものを感じる事ができます。しなやかなナージャの演奏。は胡弓のようです。
8曲目「Nuages」はいわずとしれた、ジャンゴ・ラインハルトの名曲。雲を意味するこの楽曲は、その牧歌的な雰囲気に隠された、ジャンゴの平和への強い思いを感じます。名人の書いた名曲を、名アレンジャーによる編曲で名手が蘇らせた。ハッキリ言いいます。悪いわけがない。そして最後の「Somogy's Dream」トランシルヴァニアの民謡がベースになっているそう。澄み切った素晴らしい演奏。空気の透明度が上がった気がする。ナージャの歌声もかすかに聞ける。
これまで、こういう「クラシック」というジャンルの音楽を聴いてこなかった方にも、是非おすすめしたいアルバムです。間違いのないアルバムの一枚です。こういうアルバムを入り口に、良質なクラシック音楽への旅を初めてみて下さい。それでは。
Love Always,
Peace Everyone,