男版のジョイス?以外と知られていないギター名手!
Joao Bosco「Linha de Passe」



アーティスト: Joao Bosco
タイトル: Linha de Passe

Decoyは、年老いて死ぬならやはりブラジルを選ぶと思う。太陽と音楽に恵まれた場所が大好きなのです。Decoyのブラジル好きは、勿論ギターリストを長年真剣に目指している最中に養われたモノです。

ギターを極めようと20代のDecoyは自分なりに、様々なスタイルを研究して練習に励みました。フラメンコやファド、ラテン、クラシック、ジャズ、ジャマイカンミュージック、ロック、ブルース、R&B、タンゴ、インドの宮廷音楽、アフリカの各地域の伝承音楽、ラップスティールギターの音楽、ウクレレ、バンジョー、そして北欧、東欧からロシア、ネイティブアメリカン等の様々な民族音楽。。。世界中の音楽を見て回って(まだまだ続けますよ!一生涯)みた経験なのですが、ことギターという事に限って言えば、やはりブラジルとスペインです。

この二国の凄いところは、ギターが極めて民衆に近いところに常に存在し、家族の誰もが演奏するというその生活との密着度です。とにかくそういう状況は、その楽器の奏法の発展に大いに影響を与えます。アメリカでブルース(特に戦前)が発達し、それぞれ独自のスタイルを形成していった過程は、このブラジル、スペインと似通った状況がそこに生まれていたからです(近代のアメリカはその発展と引き替えにこういう状況を失った)ハワイに於けるハワイアンラップスティールギターの発展過程にも似通った部分があります(俗に言う観光の名物に成る前のハワイアンミュージックの伴奏のギターには、各一族秘伝のチューニングが有ったりする)。

情報過多による平均化の弊害は、分かり切っていたことです。それはこと芸術にとっては必ずしも面白くない影響を与えるものです。でもだからといって今を悔いても仕方がないのです。近代化は多くの命を救ったし、沢山の人に知識を分け与えたし、時に民衆を奮い立たせ圧政に立ち向かう勇気を与えた。

だからDecoyは逆にここまで情報が過多に成っているのだから、徹底的に過去の名盤・名演奏を10代にドンドン紹介して、世界中の素晴らしい音楽に若いウチから首までつかって貰えればと思う。別に音楽に限った事ではないですよね。絵画、彫刻、家具、文学、映画、舞台、建築、工業デザイン、ファッション。。。とにかく良質なものを、吸収して貰えればと思います。いえ、押しつける気はないので、気に入ったモノだけ吸収すれば良いのです。

Decoyが子供の頃はRockを聴いているだけで、不良扱いされた時代だったんです。エレキギターは、堕落の象徴として見られていましたし。。。Decoyは楽器という素晴らしい人類の発明品をそういう目でしか見られない大人達を、子供ながら凄く寂しく思いました。そういう思いだけは、自分の子供にはさせたくないですよね。Decoyはブラジル式で、自分の子供を育てようと思う。物心付いたときには両親が家で楽器を演奏している、それが当たり前の環境にしたい。

さて、そろそろ本題です。ジョアン・ボスコについて簡単に説明します。1946年7月13日、ブラジルはミナスの片田舎で生まれました。やはり家族は音楽一族で、姉がピアノ、祖父がバンドリン、母がバイオリン、父はヴォーカリストでした。当時家族が、好んで演奏していたのはブラジルの宮廷音楽から生まれた、ブラジルのルーツミュージックのショーロだったようです。

大学で勉強するつもりで街にでるわけですが、時代はボサノヴァの成熟期で、トロピカリズム運動の最中です。多感なジョアン・ボスコ少年は瞬く間にこれらの音楽に見せられ、自ら音楽活動を始めます。最初、彼は作曲家として著名になりました。70年代初頭に、なんとその自作曲を、かのエリス・レジーナが唄ってくれたのです。ブラジル音楽界の女王エリス・レジーナに認められたという事は、もはやブラジルでの成功を掴んだも同様でした。彼の快進撃はそこから始まりました。

ちなみに、ジョアン・ボスコの黄金期もこの70年代と言われています。このアルバム「Linha de Passe」はまさにその70年代の最後、1979年に、Aldir Blanc(アウジール・ブランク)との黄金作曲コンビの頂点を極めた作品です。80年代以降、ジョアン・ボスコはよりモダンな音楽スタイルを目指して新しい挑戦を未だに続けています。現在では、ブラジルというカテゴリというよりはラテンというカテゴリでの活動に移ってきている感じです。

本アルバムのクライマックスはまずいきなり1曲目の「Linha De Passe」です。ジョアン・ボスコならではの極めてユニークなパーカッシブな、素ばらしいギターバッキングに合わせて、非常にリズミカルなメロディで唄います。これ簡単にジョアン・ボスコはやっているんですけど、実際やろうとしてみると唄いながらとなると、滅茶苦茶難しいんです。ジョアン・ボスコのスタイルを高らかにこの一曲で唄い挙げています。そして涼しげな2曲目「Conto De Fada」。女性コーラスとアコースティックギターが美しいです。作曲家として、やはりこの人は素晴らしいものを持っています。

3曲目「Sudoeste」も1曲目同様ジョアン・ボスコスタイルです。転がるようにメロディがギターの上で踊ります。ギターの音のよさにも注目してください。4曲目はサンバマナーなルーツを感じさせる「Parati」。こういう楽曲も丁寧にこなしてゆきます。やはりミナス出身者という感じです。5曲目は今後のジョアン・ボスコの進む方向性にも近い、モダンなバラード「Patrulhando(Mara)」。6曲目「O Bebado E A Equilibrista」はまた上質なルーツサンバです。あらゆるスタイルの非常にレベルの高い楽曲を創る人です。

7曲目「Boca De Sapo」はジョアン・ボスコスタイルですね。パンデイロとギターによる弾き語りに、だんだんアンサンブルが加わっていくスタイルのこの楽曲も楽しく、家族で演奏しているみたいで素晴らしい!ああ素晴らしき昼下がりの時間!!8曲目「Cabra Criada」はかなりモダンですが、ジョアン・ボスコスタイルの楽曲ですね。アコースティックな音でずっと来ていたので、エレピの音が凄く新鮮です。これも良い曲です。メロディも素晴らしいし、展開も面白い。やはり天才ですね。

9曲目「Ai, Aydee」は5曲目同様の、バラード路線の楽曲です。うーんどうでしょ。AOR的にやろうとしているのだろうか?悪くはないのですが、楽曲としてはもう少し捻りが有っても面白いと思ったりしてしまいます。10曲目「Natureza Viva」はアコーディオンのやさしい音とジョアン・ボスコこギターの織りなす、素晴らしい曲。やはりこういうタイプのバラードが良いなぁ。各楽器のアーティキュレーションは是非、参考にしてほしいです。シンプルな編成でも、ここまで表情を出すことができるのです。11曲目「Patrulhando(Masmorra)」はこれまたAOR的なのですが、非常にアレンジが上手くいっていて、ストリングスの美しさ、そしてメロディの素晴らしさで、アメリカのAORとはまた違う、もっと繊細な音楽になっています。9曲目よりも、こっちの方が好きですね。。。

このアルバムも、つい最近ようやくリイッシューされました。ブラジルの音楽は、なかなか小さなレコードショップでは大きく扱って貰えないのが現状ですが、それでもアメリカと同じくらい、たくさんの音楽家が生まれた場所です。特にギター好きの諸氏には、じっくりとブラジルの名手達の演奏を聴いて貰えればと思います。今後も、ショーロの名手等含めて紹介してゆきます。宜しくお願いします。