歴史に名を残す、フュージョン大名盤。遂に爆発した彼らのクリエイティビティーが歴史を前に進める!!
Weather Report「Heavy Weather」



アーティスト: Weather Report
タイトル: Heavy Weather






この文章は、ウェザー・リポート「ブラック・マーケット」の回よりの続きです。
まず、全開も申し上げたように、まずはこのウェザー・リポートなるバンドについての解説から始めます。

1970年に、マイルス・デイヴィスは名盤「ビッチェズ・ブリュー」を制作します。このアルバムには古今東西の若き名演奏家が集められました。それは大即興演奏会でありました。新たな時代の息吹を生むためのマイルスはとにかくごった煮のでかい鍋を用意しました。その中にはアメリカ、ブラジル、ヨーロッパ、アフリカ、そしてそれ以外の世界中のスパイスや素材が煮込まれていました。そのブードゥースープとでも呼べる下地から、数多くの音楽が生まれました。そうそのスープから生まれたバンドの一つがウェザー・リポートです。

マイルスの創ったブードゥー・スープの中には、若き日のウェイン・ショーター(Sax)(・・・マイルスグループからの残留組です。)、若き日のジョー・ザヴィヌル(Key)がいました。その後、彼らは71年2月に自分たちのニュー・グループ「ウェザーリポート」のファースト・アルバムをリリースします。このバンドの特徴は、とうじのフリージャズが息詰まっていた即興演奏と楽曲の両立、そしてどこまで自由になれるか・・・という問いに対して、全面的に答えを出そうとした所です。

即興のための作曲であった、ジャズの作曲法には異論を唱え、しかし完璧にアレンジをして即興の要素を排除するわけでもない。。。うーんこれそのまま読んだら、正反対のことを言っているように見えますよね。このあたり誤解生むかも知れませんが、あえて簡単に説明をします。まずコンセプトが各楽曲についてあるのです。そのコンセプト内であればかなり自由な即興も許されます。無論、アンサンブルとして決められた部分はきちんとアンサンブルに徹する。しかし、そのアンサンブルにはいつもスペースが設けられていて、各パートが動けるようになっているのです。

では、だれが指示を出すのかといえば、勿論ジョー・ザヴィヌルが全体の司会進行役をやっているわけですが、基本的にはこのバンドは演奏し始めると止まらなくなってしまいます。ライブ盤を聴くとその辺りは明確なのですが、ある種の暴走を始めます。結局、ジョー・ザヴィヌルは司会進行ではあっても基本的には、各パートがその場でもって最良の選択をすればよいという判断で、詳細の部分はそれぞれが担っています。だからあえてウェザー・リポートというグループにはバンドという表現が似合います。そしてそれはメンバーによる音楽性の表出の違いに当然つながります。そして、ウェザー・リポートの歴史はメンバーチェンジの歴史でもあるのです。

ウェザー・リポートは、そのまるで時代の流れそのままを感じさせるような、ベーシストの交代劇を行ってきました。初代の白人の長身べーシスト「ミロスラフ・ヴィトゥス」、二代目はファンキーな「アルフォンソ・ジョンソン」、そして三代目があの天才「ジャコ・パストリアス」です。この「ヘヴィー・ウェザー」の前作にあたる「ブラック・マーケット」では、ちょうど二代目と三代目のその引き継ぎにあたっておりその楽曲によっての、印象の違いは非常に面白いものがありました。そして本作「ヘヴィー・ウェザー」では、そのジャコ度が格段に上がり、楽曲、パフォーマンス共に一つの殻を確実に破っています。全編からでてくるカラフルな楽曲!そしてどの曲も高度に洗練された、真新しいアレンジが施されています。

それでは簡単に、収録曲についての説明をしてゆきます。1曲目「Birdland」は大ヒットで知られる超有名曲です。このテーマ聴いたこと有りませんか?めまぐるしい展開は明らかに前作にみられた難解さというよりは、ゴージャスでポップとも言えるものです。ジャコのベースの為のスペースが十分に用意されている楽曲で、非常にジャコのベースが生きています。後半の宇宙的なシンセ&トークボックス&ジャコのハーモニクス(倍音を出す演奏方法)の使い方も面白いです。テーマ部に於ける全員でテーマを演奏する感じのアンサンブルも非常に有効なアレンジです。名曲です。

2曲目「A Remark You Made」は、美しい楽曲でです。こういう楽曲もこれまでのウェザー・リポートとは違うフィーリングに仕上がっているのは、ジャコの影響力を感じます。なんといってもハーモニーの動きに対する、ベースの居場所が、絶妙なんです。そしてベースライン自体がメロディアスなんですね。さすがです。そして3曲目「Teen Town」はジャコ・パストリアスの自作曲です。この曲もフュージョンの世界では大名曲です。ジャコ・パストリアス自身もこの後、ソロになった後も何度も演奏しています。ドラムのシンバルフレーズが麻薬的です。これジャコ・パストリアス本人が演奏してます。そしてキーボードの位置がベースの位置になっていて、ジャコのベースは完全にメロディ楽器になっています。非常に短いながら、鮮烈な印象を残す楽曲です。

4曲目「Harlequin」はウェイン・ショーターらしい非常に表情豊かな楽曲です。そこはかとない繊細さがすばらしいです。やはりベースとキーボードとメロディを演奏するウェイン・ショーターのハーモニーの取り合いが面白いです。そして5曲目「Rumba Mama」リズム陣の二人による、極めてネイティブな楽曲です。二人の南米というルーツのブラッドが爆発します。6曲目「Palladium」はこのアルバム中で一番洗練された楽曲と言えます。ウェイン・ショーターらしい無国籍風なテーマも面白いですし、展開の仕方もどこにこのまま進むのか解らない感じがして非常に面白いです。7曲目「The Juggler」も同じく無国籍な不思議な楽曲です。宇宙的な楽曲ですね。

そして8曲目「Havona」はジャコ・パストリアスの才能が爆発した内容となっています。ベースでやりたい放題やっています。ほぼ全編、ジャコ・パストリアスの独壇場です。Decoy的には1曲目、3曲目も好きですが、やはりこの曲が一番好きだったりします。テーマ、キメ、そしてウェイン・ショーターの素晴らしいソプラノ・サックスソロを受けて正にこのアルバムで最高のベース・ソロを見せてくれます。チャーリー・パーカーのようなバップ・フレーズを、エレキベースで見事に唄いきっています。

ウェザー・リポートは、このアルバム「ヘヴィー・ウェザー」の大ヒットで、音楽の歴史に名前を残すグループになりました。「ヘヴィー・ウェザー」は一聴すると、とても聞きやすいアルバムともいえます。多くの方にオススメしやすいのもこの点です。しかしよくよく聞き込んでもらえると解るのですが、その音楽性の多面的展開は非常に奥深いモノがあります。是非、フュージョン嫌いの諸兄にも、聴いていただきたい一品です。