ピアソラへの全身全霊での愛情表現。リシャール・ガリアーノが師匠に挑む!!
Richard Galliano「PIAZZOLLA FOREVER」



アーティスト: Richard Galliano
タイトル: PIAZZOLLA FOREVER






リシャール・ガリアーノ(バンドネオン奏者)である。ピアソラ(バンドネオン奏者)亡き今、タンゴ界を牽引しているのは、間違いなく彼である。その絶対的なまでの作品のクオリティの高さは、まさにマエストロであります。どのような編成であろうと、彼は自らの良さと共演者の良さを見事に引き出しています。その彼が、今回のアルバム「ピアソラ・フォーエバー」のテーマは、文字通りその師匠とも言える存在のアストール・ピアソラの作品への挑戦です。

多くのアーティストがピアソラの楽曲を取り上げて、ピアソラに畏敬の念を示しています。これって言い方を変えれば、ピアソラの音楽を凄く固定化させて、有る意味で保守的な音楽として社会へ認識させるような動きにつながっていないでしょうか?ピアソラの音楽を、クラシックにしてしまっているような。。。

これは皮肉なことです。アストール・ピアソラ自体は、非常にラディカルにタンゴをコンテンポラリーなものにしてきたのです。彼のタンゴへの挑戦は革命的とも言えるものでした。勿論、非常に多くの抵抗を受けましたし、散々な評価をされていました。しかし、その革命闘争はタンゴのモダン化を見事に成し遂げ、現代に於けるタンゴの地位の向上に間違いなく影響を与えました。だから、ピアソラを継ぐ者はやはり、革新者でなければならないのです。

その資格を持つ数少ないミュージシャンの一人が、リシャール・ガリアーノです。多くのピアソラのフォロワーと違い、リシャール・ガリアーノは、敢えて偉大なピアソラの遺産に頼らないで、新しいタンゴの世界を広げて見せてきました。それは時によりジャズ的なアプローチを見せたり、フランスというお国柄持っている、そのラグジュアリーなお洒落な雰囲気を、見事にピアソラの野武士のような世界観に注入し、その演奏アプローチとの相乗効果で、ワールド・ミュージックとしてクラシック(伝承民族音楽)化しそうなタンゴを、ジャズのように、世界的なメインストリームの音楽の位置に見事に押し出しています。この意味で、リシャール・ガリアーノは、見事にピアソラの意志を継いでいると言えます。そして。。。

そんなアストール・ピアソラの音楽をさらに押し進めようと日々格闘してきたリシャール・ガリアーノはここ暫くの演奏家としての一つの総決算として、遂に師匠超えを行うことを決意した様です。そうこのアルバム「ピアソラ・フォーエバー」こそが師匠超えを世に問うアルバムなのです。

挑戦相手の師匠:ピアソラは、あまりに偉大なミュージシャンです。果たして、どうやって彼は攻略したのか?答えはあまりにシンプルでした。アルバム全編をライブでの演奏にし、全く気をてらわない、いつも通りの自分の演奏を行う。ピアソラの代表曲はほぼ全て演奏する。これが11曲。そして一曲だけ自分の曲を演奏する。

結果はというと、こうして並べて聴いてみると解るのですが、圧倒的にリシャール・ガリアーノはわかりやすい。恐らく若い世代にも取っつきやすいようにアレンジを施している。ピアソラ独特の、あのデカダンスな退廃的な感じは確かに薄れてしまってはいるが、その代わり非常に深みのあるゴージャスな、まるで年代物のワインのように特別な時間を作ることが出来る、素晴らしい太陽のようなまぶしい音楽を創っていたのです。リシャール・ガリアーノは、見事なまでにピアソラの世界さらに広げて、自分のモノにしていたのです。

このアルバムのクライマックスはやはり7曲目の「Improvisation sur le the`me "Libertango"」での見事な独奏です。アストール・ピアソラの絶対的な名曲を、自らのスタイルで斬新に聴かせてくれます。圧倒的。絶対的。どんなに言葉を選んだところで、表現できない事は解っています。しかし、この一曲を聴くためだけにこのアルバム「ピアソラ・フォーエバー」を買ったとしても、絶対に損はしません。この一曲に込められた情熱は、人種や世代を越えたものがあります。

彼の関わったアルバムに駄作は存在しないというDecoyの絶対的な信頼は、ここに来て揺らぎないものになりました。恐らく、ガリアーノのこのアルバムでの一挙手一投足全てに、Decoyは賞賛と尊敬の念を表します。このアルバムには一人のアーティストの宇宙が込められています。