ピピッ!ピピッ!と淳の携帯から電子音が急に鳴り響く。学校への帰り道より少し寄り道をしている途中だった。
「どうしたの?取らないの?」
淳の横にいた長良美智子は声をかける。
美智子はこの寄り道が大好きであった。付き合い始めてまだ少ししか経ってないため、デートその他もしたことなかったからかこの寄り道がその代わりとも思えたのだ。
「ん?あぁごめん。取るよ。」
電話の相手は拓也だった。電話に応答すると研究所周辺にてUBが現れた。直ちに迎撃に迎え。との事だった。
分かりました。今すぐに向かいます。とだけ返して電話を切った。
「ごめん。今すぐに家に帰らなくちゃならなくなっちゃった。今日の寄り道はここまで。」
淳は携帯をポケットにしまい、森の方向へ足を向ける。
「行かないで!」
森へ向かおうとした淳を美智子が引き止める。
「あなたは一体何をしているの?私には分からない!ここ最近あなたは電話がかかってくる度に家だ、なんだと言って消えてしまうじゃない!これで何回目よ!」
美智子の顔からは涙が流れていた。美智子がヒステリックな訳ではない。今回のような事は何回か続いており、電話を取るたびに淳は何かを覚悟するような顔をしていたのだ。そして戻ってくるとボロボロになっていることもあった。これは異常だった。
「ごめん。でも僕にはそうしなきゃ行けない理由があるんだ。」
「なんで?なんでそんなに家を守ろうとするの?」
美智子は逆上に近い状態になっていた。淳にすがりついている。
「ごめん。家を守る訳じゃないんだ。家よりもっと大事な・・・・ごめん。僕はもう行くよ。」
淳は森に向かって走り出した。そこに人がいるなら淳は助けたい。ただそれだけだった。
「あなたは謝ってばかりじゃない!」
美智子の悲しき叫びは淳には聞こえない。言葉は涙で震えていた。
手持ちの弾丸は全て撃ち尽くしてしまい、俺は絶望していた。
銃は使ったことも無かったが何発かは触手に命中していた。だが、効果は無かった。当たっても弾かれていった。
「この銃、UBだっけか。あの怪物に効かなきゃ意味ねえじゃねえか!」
そんな俺の大声の愚痴も虚しく、UBは襲いかかってくる。
そして敵の触手の魔の手はそんなこと知らないように伸びる。
またなんとか間一髪避けるが、次はない。とも思えた。
「そろそろまずいぞ・・・・。」
少年を担ぎながら移動するにはもう限界が近かった。
「離せよ!あそこには妹が!俺は助けなきゃ!俺は兄ちゃんだから助けなきゃいけないんだ!」
抱えた少年は妹の為を想い、叫び、抱えた腕の中で抵抗するのであった。
そんな声を無視して俺は雑木林をかき分ける。
足の痛みも感じなくなるほど走ったところで木の枝に引っかかり転んでしまう。
「まずい!このままじゃ!」
しめた!と言わんばかりに触手の魔の手は伸びる。
もうだめだ!と俺が目をつぶった瞬間目の前で爆発音が鳴る。
何が起こったのか分からずゆっくりと目を開く。
目の前の触手はまっぷたつになり、見上げると青い巨人がラフレシアのようなUBに食いかかるように殴りかかった。
「やっと来やがったか!遅いぞ!」
口元に膝蹴りををかまし、口と繋がった胴体に高速パンチを浴びせる。
キキィ!と辛そうな声を出すUB。そんなことに勿論構うことなく蹴りをお見舞いし続ける。
そしてすかさずマウントポジションをとりひたすらに殴る。殴る。殴る。
UBもひたすらやられるわけにもいかず残っていた触手を巨人に絡みつける。
身動きを取れなくなった巨人にUBは溶液の様なものを口から吐きつける。
巨人の胸にそれがかかり軽い爆発が起こる。
UBはラフレシアのようなでかい頭で頭突きをして距離をとった。
そしてまた触手を伸ばし、巨人を絡ませようとする。
が、巨人に2度も同じ手は通用しなかった。
両腕をクロスさせ、剣を形成し、飛んできた2つの触手を粉々に切り裂いた。
やめてくれー!森には少年の声も響いたが巨人には勿論届かなかった。
巨人は自分の腕を胸に密着させた。
ハァァァァ!と掛け声を出すと共に弓矢の弓を形成してみせた。
それを剣に引っ掛けて剣を放った。
やめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
少年の声も虚しく放った剣はあまりのも早い速度でUBに命中し、爆散していった。少年の悲しみと共に。
「大丈夫でしたか?」
俺の目の前に淳がやってきた。変身を解除したんだろう。
「まあな。この少年の保護を頼めるか?」
俺は抱えていた少年を降ろした。
「なんでなんだよ・・・・!」
降りた少年は小さくも怒りに震えた声で喋る。
「なんであの怪獣を殺した!あのでかくて青い巨人は!妹を助けてくれたって!」
少年の声は涙に濡れていた。
俺は言う。
「あんままやっていたら死んでいたのは俺たちなんだぞ!」
正直少年の言う妹がUBに取り込まれた時点で命は助からなかった。死んでいたはずだ。少年に理解できているのかはわからないが。
「でも!それでも!今日は!今日は妹の誕生日だったんだ!みんなでケーキを食べるはずだったんだ!それを!それを!あいつが!あいつがやったんだ!」
少年は怒りに震え、泣きじゃくる。
「俺は・・・・あの巨人を・・・・許さない!」
少年の目には殺意で溢れていた。妹を失った悲しみと、自らが何もできなかった怒りで。
山を進むとそこには一つの研究所があった。その名も「signal」
前にも2回ほど来ているが俺にはなんだか落ち着かない場所であった。それもそのはずだ。来るたびにひどい目にあって帰ってきているのだから。
「ふぅ・・・・」
と息を整え、中に入る。
「よく来てくれたね。」
入ってすぐに所長の黒柳拓也がいた。
「一体何の用なんだ。あいにくだが俺はここにホイホイ来れるほどの暇は持っちゃいない。」
俺は会話をする気はなかった。のかもしれない。結構な憎まれ口を叩いた気がする。
そうかね。とだけ拓也は生返事をして話を続ける。
「これを君にあげよう。」
拓也がポケットから出したのは銃だった。前にもらった竹材の特殊な銃であった。
「俺はもう持っている。2丁もいらんさ。」
そんな俺の言葉を待っていたかのように拓也は次のような言葉を発した。
「どうせ君のことだ。試し打ちとかしてないだろ。俺には必要ない。だとか俺にはこんなものを使う場所が無いとか思ってるんだろ?」
引っかかる言い方だった。だが事実でもあったっちゃあった。
「何が言いたい?残念ながら俺にはお前の含みある言い方を気にかけてる時間は無い。」
こう俺が返すと
「端的に言おう。」
拓哉は銃の引き金部分に指をかけ、銃の後ろの部分を持ってくるくると銃を回す遊びをしながら言う。
「あの銃はニセモノだ。弾は確かに入れてあるが銃そのものの構造上撃てやしない。」
拓哉はその時少し微笑んでいたように見えた。
「そんなに俺が信用出来なかったかよ。」
俺は大人しく白状する。だがこの言葉は少しばかり怒りが含まれていた。
「あんたは上司としては優秀だよ。部下の全部を管理してるみたいで気持ち悪いが。立派だよ。気持ち悪い事この上ないがなね!」
とだけ付け加えて研究所を後にしようとしたとき、
「まだ私の話は終わっていないさ。」
拓也はまだ俺を引き止めた。
「特製の弾丸入りのマガジンと通信機だ。ポッケにでもしまっておけ。」
拓也はポケットからマガジンと通信機を出して目の前のテーブルに並べた。
「ありがとよ。」
言葉だけの感謝をし、俺は本当にその場を後にした。
研究所を後にしていつもの雑木林をかき分けて行くと一人の小学生位の少年がいた。
「君、そこで何をやっているんだ。この森はあまり安全とは言えない。今すぐ帰るべきだ。」
少年は俺の言葉を気にすることもなく明後日の方向を見て、ただただ何かに怯えていた。ただただその方向を見ていた。膝も震えているように見えた。
「一体どうしたってんだよ?」
少年に近づき、少年の背丈に合わすようにしゃがみ、少年の目線を合わせた。
そこには触手を広げ、ラフレシアのように口を大きく開いたUBがいた。そしてUBもこちらに気づいたのか触手をより大きく広げこちらにその触手をものすごい速度で伸ばしてきた。
「しゃがめ!」
俺の一言と共に二人はしゃがみ、触手をかわし、そこから脱兎のごとく逃げた。
ポケットに入れていた通信機を取り出し、電源をONにする。通信機の緑のランプが作動し、通信ができる状態へと変わる。
「こちら隆!UBから攻撃を受けている!助けてくれ!森で迷っていた男の子もいる!」
「こちらでも確認しています。至急そちらに淳君を向かわせます。」
通信機から聞こえてきた音は冷淡な女の声だった。
ギィ!とUBが雄叫びを上げ、ものすごく太い幹のような触手を俺たちに振り落とす。
少年をとっさに抱きかかえて間一髪避ける。
「離せ!」
少年はそう言い俺の腕を解き、UBの方向へ突進しようとする。
「馬鹿な真似はよせ!」
俺のそんな声に少年は
「あそこには・・・・あの化物の中には・・・・妹がいるんだ! 」
「なんだと!?」
俺は驚愕した。化け物の中に妹が存在していたというのだ。
「早く来てくれ!淳!」
それが今の俺の一番の願いでもあった。
前にも2回ほど来ているが俺にはなんだか落ち着かない場所であった。それもそのはずだ。来るたびにひどい目にあって帰ってきているのだから。
「ふぅ・・・・」
と息を整え、中に入る。
「よく来てくれたね。」
入ってすぐに所長の黒柳拓也がいた。
「一体何の用なんだ。あいにくだが俺はここにホイホイ来れるほどの暇は持っちゃいない。」
俺は会話をする気はなかった。のかもしれない。結構な憎まれ口を叩いた気がする。
そうかね。とだけ拓也は生返事をして話を続ける。
「これを君にあげよう。」
拓也がポケットから出したのは銃だった。前にもらった竹材の特殊な銃であった。
「俺はもう持っている。2丁もいらんさ。」
そんな俺の言葉を待っていたかのように拓也は次のような言葉を発した。
「どうせ君のことだ。試し打ちとかしてないだろ。俺には必要ない。だとか俺にはこんなものを使う場所が無いとか思ってるんだろ?」
引っかかる言い方だった。だが事実でもあったっちゃあった。
「何が言いたい?残念ながら俺にはお前の含みある言い方を気にかけてる時間は無い。」
こう俺が返すと
「端的に言おう。」
拓哉は銃の引き金部分に指をかけ、銃の後ろの部分を持ってくるくると銃を回す遊びをしながら言う。
「あの銃はニセモノだ。弾は確かに入れてあるが銃そのものの構造上撃てやしない。」
拓哉はその時少し微笑んでいたように見えた。
「そんなに俺が信用出来なかったかよ。」
俺は大人しく白状する。だがこの言葉は少しばかり怒りが含まれていた。
「あんたは上司としては優秀だよ。部下の全部を管理してるみたいで気持ち悪いが。立派だよ。気持ち悪い事この上ないがなね!」
とだけ付け加えて研究所を後にしようとしたとき、
「まだ私の話は終わっていないさ。」
拓也はまだ俺を引き止めた。
「特製の弾丸入りのマガジンと通信機だ。ポッケにでもしまっておけ。」
拓也はポケットからマガジンと通信機を出して目の前のテーブルに並べた。
「ありがとよ。」
言葉だけの感謝をし、俺は本当にその場を後にした。
研究所を後にしていつもの雑木林をかき分けて行くと一人の小学生位の少年がいた。
「君、そこで何をやっているんだ。この森はあまり安全とは言えない。今すぐ帰るべきだ。」
少年は俺の言葉を気にすることもなく明後日の方向を見て、ただただ何かに怯えていた。ただただその方向を見ていた。膝も震えているように見えた。
「一体どうしたってんだよ?」
少年に近づき、少年の背丈に合わすようにしゃがみ、少年の目線を合わせた。
そこには触手を広げ、ラフレシアのように口を大きく開いたUBがいた。そしてUBもこちらに気づいたのか触手をより大きく広げこちらにその触手をものすごい速度で伸ばしてきた。
「しゃがめ!」
俺の一言と共に二人はしゃがみ、触手をかわし、そこから脱兎のごとく逃げた。
ポケットに入れていた通信機を取り出し、電源をONにする。通信機の緑のランプが作動し、通信ができる状態へと変わる。
「こちら隆!UBから攻撃を受けている!助けてくれ!森で迷っていた男の子もいる!」
「こちらでも確認しています。至急そちらに淳君を向かわせます。」
通信機から聞こえてきた音は冷淡な女の声だった。
ギィ!とUBが雄叫びを上げ、ものすごく太い幹のような触手を俺たちに振り落とす。
少年をとっさに抱きかかえて間一髪避ける。
「離せ!」
少年はそう言い俺の腕を解き、UBの方向へ突進しようとする。
「馬鹿な真似はよせ!」
俺のそんな声に少年は
「あそこには・・・・あの化物の中には・・・・妹がいるんだ! 」
「なんだと!?」
俺は驚愕した。化け物の中に妹が存在していたというのだ。
「早く来てくれ!淳!」
それが今の俺の一番の願いでもあった。
また何もなく日々は過ぎた。
俺はデスクワークに追われ、淳は学生生活を過ごしていた。
数日前、研究所内を案内されたあの日、俺は研究所、signalを出る際に渡されたものがあった。
竹材の銃とそれに対応した弾丸の入ったカートリッジが15箱もらっていた。
銃自体も金属探知機に引っかからない、弾丸も特製のものらしい。
「君も我々の仲間ならunknown beast、略してUBに立ち向かうものならそれを装備しておくべきだ。」
そんな事を拓哉から言われても地方の新聞社で働く俺には何となくまだこの銃の実感が湧かずにいた。
とりあえず銃は家のクローゼットに入れ、家を出た。今日の仕事は地域の面白い学校の先生に取材する。というものだった。
「今は下手なことを考えてる場合じゃない。」
俺はそう思い、考えを振り切って仕事へ向かった。
仕事を終え、新聞社に少し近い公園のベンチで缶コーヒーを飲んでいた。
ベンチからはサッカーをしている少年達や、砂場で遊んでいる子供もいて 、ベビーカーを押しながら談笑している母親もいる。
この風景を見れる。というのが平和というものなんだろうな。と思えた。
この街を、この人を守る事が仕事となるならある種少し羨ましかった。
「おう。」
後ろから声をかけられた。
振り返ると実がいた。前に見たように白衣の研究員の姿だった。
「こんなとこで何やってんだい?」
実はあいも変わらず軽い言葉を投げかけてきた。
「いや、ここをただ見てたんです。それだけですよ。」
「なんだ、つまんねえ野郎だな。」
質問に答えただけでつまらない認定をされるのは少しムッとしたが俺は気にしないことにした。
実はポケットから携帯をおもむろに出していじり始めた。
「そういやよ」
実は携帯を弄りながら話を始める。
「所長がまた研究所の方に足を運んで欲しいんだとよ。」
実はなにか携帯にいいことがあったのか、よし!とガッツポーズをしながらまた話す。完全に会話がながら作業になっていた。
「お前も組織の一員なんだ。まぁ業務連絡だと思って行ってくれよ。」
俺はわかりましたよ。とだけ返す。こうも携帯をいじりながら話されるとこっちの気分も滅入ってくる。
飲み終わった缶コーヒーを捨てて俺はその場を離れた。
また考えもなしに歩いていると今度は淳がいた。剣道の竹刀を入れる袋があった。部活帰りなんだろうか。
「おう、久しぶり?だな。」
手を振り、こちらへ呼ぼうとする。
「久しぶりですね、淳さん。」
ペコリと淳は頭を下げてからこっちへ来る。
淳の横にはスカートを履いた女の子がいた。
「ねえ、あんたはなんなのよ。」
淳よりも早歩きをし、のぞき込むように俺に質問する女の子。
「あー、俺は大久保隆。近所の新聞社で記者をやってて淳君の友人みたいなもんだ。」
俺は顎をポリポリとめんどくさそうに答えてしまった。
「ほんと?あっくん?」
女の子は振り返り淳に聞く。
ホントだよ。とだけ淳は返す。にっこりと笑う淳からはこれまでの恐ろしい経験をしたような表情なんてものは微塵も感じられなかった。
「隆さん、この子は僕の彼女の長良美智子です。」
俺は淳の言葉に少しだけは?となってしまった。
「彼女ってことは付き合ってるのか?」
「ええ。多分、そういうことです。」
俺の質問への淳の曖昧な回答に「ちゃんと答えなさいよ!」と美智子は横槍をいれた。気の強い女の子なのだろう。
このやり取りを見ると俺はなんだか安心した。淳には剣道部のあの件があって以来なかなか学校の生活においてプラスのイメージはなかったからだ。
「二人の時間を邪魔する訳には行かないからここらで俺は失礼するよ。」
「からかわないで下さい!」
俺のちょっとしたいたずらのような言葉を最後に後ろから淳のそんな言葉が聞こえたが、気にせずその場を離れ、とりあえず研究所へ足を向けた。
俺はデスクワークに追われ、淳は学生生活を過ごしていた。
数日前、研究所内を案内されたあの日、俺は研究所、signalを出る際に渡されたものがあった。
竹材の銃とそれに対応した弾丸の入ったカートリッジが15箱もらっていた。
銃自体も金属探知機に引っかからない、弾丸も特製のものらしい。
「君も我々の仲間ならunknown beast、略してUBに立ち向かうものならそれを装備しておくべきだ。」
そんな事を拓哉から言われても地方の新聞社で働く俺には何となくまだこの銃の実感が湧かずにいた。
とりあえず銃は家のクローゼットに入れ、家を出た。今日の仕事は地域の面白い学校の先生に取材する。というものだった。
「今は下手なことを考えてる場合じゃない。」
俺はそう思い、考えを振り切って仕事へ向かった。
仕事を終え、新聞社に少し近い公園のベンチで缶コーヒーを飲んでいた。
ベンチからはサッカーをしている少年達や、砂場で遊んでいる子供もいて 、ベビーカーを押しながら談笑している母親もいる。
この風景を見れる。というのが平和というものなんだろうな。と思えた。
この街を、この人を守る事が仕事となるならある種少し羨ましかった。
「おう。」
後ろから声をかけられた。
振り返ると実がいた。前に見たように白衣の研究員の姿だった。
「こんなとこで何やってんだい?」
実はあいも変わらず軽い言葉を投げかけてきた。
「いや、ここをただ見てたんです。それだけですよ。」
「なんだ、つまんねえ野郎だな。」
質問に答えただけでつまらない認定をされるのは少しムッとしたが俺は気にしないことにした。
実はポケットから携帯をおもむろに出していじり始めた。
「そういやよ」
実は携帯を弄りながら話を始める。
「所長がまた研究所の方に足を運んで欲しいんだとよ。」
実はなにか携帯にいいことがあったのか、よし!とガッツポーズをしながらまた話す。完全に会話がながら作業になっていた。
「お前も組織の一員なんだ。まぁ業務連絡だと思って行ってくれよ。」
俺はわかりましたよ。とだけ返す。こうも携帯をいじりながら話されるとこっちの気分も滅入ってくる。
飲み終わった缶コーヒーを捨てて俺はその場を離れた。
また考えもなしに歩いていると今度は淳がいた。剣道の竹刀を入れる袋があった。部活帰りなんだろうか。
「おう、久しぶり?だな。」
手を振り、こちらへ呼ぼうとする。
「久しぶりですね、淳さん。」
ペコリと淳は頭を下げてからこっちへ来る。
淳の横にはスカートを履いた女の子がいた。
「ねえ、あんたはなんなのよ。」
淳よりも早歩きをし、のぞき込むように俺に質問する女の子。
「あー、俺は大久保隆。近所の新聞社で記者をやってて淳君の友人みたいなもんだ。」
俺は顎をポリポリとめんどくさそうに答えてしまった。
「ほんと?あっくん?」
女の子は振り返り淳に聞く。
ホントだよ。とだけ淳は返す。にっこりと笑う淳からはこれまでの恐ろしい経験をしたような表情なんてものは微塵も感じられなかった。
「隆さん、この子は僕の彼女の長良美智子です。」
俺は淳の言葉に少しだけは?となってしまった。
「彼女ってことは付き合ってるのか?」
「ええ。多分、そういうことです。」
俺の質問への淳の曖昧な回答に「ちゃんと答えなさいよ!」と美智子は横槍をいれた。気の強い女の子なのだろう。
このやり取りを見ると俺はなんだか安心した。淳には剣道部のあの件があって以来なかなか学校の生活においてプラスのイメージはなかったからだ。
「二人の時間を邪魔する訳には行かないからここらで俺は失礼するよ。」
「からかわないで下さい!」
俺のちょっとしたいたずらのような言葉を最後に後ろから淳のそんな言葉が聞こえたが、気にせずその場を離れ、とりあえず研究所へ足を向けた。