「すまないな、折角の休日に呼び出してしまってな。」
そう言った隆の口からは白い煙が少しばかり出る。秋も終わりに近づき、気温は低くなり、こたつとみかんが恋しくなる季節に移り変わろうとしているところであった。
「いえ、気にしてないですよ。僕も暇でしたし。」
そこに到着したのは淳だった。淳は走ってきたので白い煙を多く出していた。
彼はきちんと見なければならない。自分が行ったことを。
「今日は少しばかり取材に付き合ってもらおうかな。と思ってね。」
はぁ・・・・とだけ淳は返す。
「そんなに怖がらないでくれよ。取材は巨人のことを住民の皆さんに聞くなんて簡単な事なんだからさ。」
「それに僕が同行するんですか?」
淳からの質問に
「俺はやっぱり本人が少しは刺激になればいいかな?とも思ってたりしてね。」
彼には自分の罪に向き合ってもらう。今日で俺がどんな悪魔になろうとも。これからの取材はそんな意味を込めていた。
「じゃあ時間も迫ってきたから行こうか。」
「巨人は私達一家を助けてくれたんですよ!怪獣の進行方向に私たちの家がありましたが、それに立ち塞がり、怪獣と戦ってくれたんです!これは神の御加護・・・・いえ、巨人の御加護があったからこそです!」
一人目に取材した村山さんはそう答えていた。彼女のその輝く瞳には巨人しか映っておらず、淳と隆など眼中に無い。という風に思えた。
「あなたの目の前に巨人がいたりしてね。」
なんて隆が言うと村山さんは「冗談はおよし」なんて返す。本当に目の前に巨人(淳)はいるのにも関わらず。
「我々はあの巨人は神が仰せつかったものと考えております。」
取材した、二人目の男性大倉さんはそんなことを喋る。
「あれはまるで神々と悪魔の戦争。あの怪獣は悪魔でして、巨人という神に抗い・・・・」
長すぎて隆は途中までしか聞いてなかったが要は巨人と怪獣の戦いは神々の世界の聖戦なんだ。という自論を立てていた。
「例えば巨人は本当に人間だったとしたら・・・・?」
なんて隆が質問すると
「バカいうな!あんな誇り高い神が低俗である我々人類なわけ無かろう!」
そこそここっぴどく叱られてしまった。
この他にも本当に多くの人間に取材したが、やはり巨人は偉大だ。と一言で括ってしまえばそんなものだった。そして誰も「巨人は人間」なんてものを信じなかった。
そして淳も少し晴がましい顔をしていた。まあこれだけ誉めちぎられたら誰もがニヤついてしまうものか。
朝方から始まったこの取材も夕方になり、実働時間は7時間を超えようとしていた。
「あと一件だ。これさえ終われば今日の取材は終了だよ。」
隆の言葉で安堵する淳。まあこれだけやれば疲れてはくるかもしれない。
だが、最後の一件は淳にとってとても辛いものになる。
「最後の一件の方のお宅だ。最後のお二人はこの家に集合して貰ってる。」
赤色の屋根をした家屋。何処に至っても普通の家であった。
インターホンを押し、部屋に入る。
そこには二人の婦人がいた。
40歳から50歳位の女性。
リビングに案内され、4人はテーブルを挟んでソファに座る。
「すいませんね、こんなお忙しい時に取材なんて・・・・」
隆は言うと同時に名刺をテーブルを置く。
「僕は小倉新聞の大久保隆です。隣のは今回取材に同行させた結城淳です。」
ペコリと淳は挨拶を済ませる。
「これはまたご丁寧に。私の名前は澤井よしえ、隣が大谷礼と申します。」
目の前の婦人が挨拶した瞬間だった。
「う・・・・うわあああああ!」
淳は頭を抱え、震える。そして何かから逃げるようにその場から逃走した。
「おい!どうしたんだよ!」
瞬く間に玄関を通り抜け、外に脱走していく淳。
「すいません、少しの間待っていてください。」
軽く頭を下げ、淳を止めに行く隆。
淳から遅れること十数秒。外を出る隆。
「おい!淳!どこだ!」
実は隆はある程度の予測は立てていた。
彼は「罪」に立ち向かわなくてはならないと隆自身は思っていた。本当は裁きをうけるべきなんだろうが隆には出来ない。だからこその粛罪だと思ったが彼には一秒とて耐えきれなかったのだ。
2つの名前にはそれだけの意味があったのだ。
一体どこに行ったんだ・・・・。寒い中2、3分ほど探したあと、いた。
淳は道の端でうずくまっており、体を震えさせていた。
「おい、どうしたよ?」
隆は淳に近寄る。プルプル震えた体は何も反応しない。
「僕が殺したんです・・・・。2人を・・・・。校舎裏の死体の2つは僕が殺したんです・・・・」
淳は震えながら話す。やっと打ち明けられる相手を見つけたように。
「それくらい知ってるよ・・・・」
隆は返す。そうだ。知ってるから今日1日取材に同行させたんだ。そして死んだ2人の親御さんに取材を依頼したんだ。
「知ってるって?なんで?」
うつむいていた顔が上向く。
「巨人が俺に見せてくれたんだ。まるで再現VTRを見せるようにな。」
巨人が・・・・?淳は返す。
「ああ。真っ白い空間にいきなり連れてかれてな。」
「お前がブチ切れて我を忘れたようになって・・・・」
「それ以上は言わないで下さい!」
淳はまた耳を塞ぐ。
「僕は殺したくてやったんじゃないんですよ!あいつらが許せなくなって、いつの間にか・・・・」
「でもお前は実際に殺したんだ!今の法ではお前は裁けない!」
隆は続ける。
「だからこそお前はその親御さんには謝って・・・・多分信じてもらえないと思うけど・・・・。あと謝ってもどうにもならないかもしれないけどさ・・・・でもお前は罪は償わなくてはならないんじゃないか?」
「うるさい!黙れ!」
淳は一喝する。
「僕はこの街を救ったんだ!何かそれ以上ありますか!」
淳はこの言葉を言ったあと口を押さえた。言い過ぎたと思えるところがあったのだろうか。
「だからみんな巨人を褒め称えた。インタビューに応じてくれた人だってお前のことを神様とかなんとか言ってたじゃないか!」
「だからこそお前は自分のやった事と向き合わなければならない!違うかよ!」
「ああああああああ!!黙れええええええええ!!」
淳は発狂したように叫びその場から駆け出した。
隆が止めるより早く、淳は街の喧騒へと消えていった。
「これ以上はインタビュアーを待たせる訳にもいかないか・・・・。」
隆は親御さん2人の方へと戻っていった。