前回23話
真っ白な世界に包まれ、そこには巨人がおり、そして少し先には淳と二人の男の子が現れ、2人の男の子は淳をいじめている。というような状況だった。そこに隆が困惑する暇を与えなかった。
「やめないか!」
隆は男の子2人を止めるために駆け寄り、手を伸ばす。
スカッ。
確かに男の子を手をつかんだはずだが、何も掴んでいなかった。空振りしたかのように手応えがなかった。
「無駄だ。やめたまえ。」
巨人はまた静かに話しかける。
「今の君と私はただの幻想だ。この世界ではなんの意味ももたない。」
「私はきみに真実をお見せしようとは言ったが、真実を変えてくれ。とは言ってないのだ。」
「何を言ってる?」
隆は巨人の言う意味が分からなかった。
「君は死んだ2人を見たくてあの場に居たのだろう?ならば君は見るという権利以上のことはしてはならないはずだ。」
「なるほどな・・・・これはいわゆる再現映像ってことかよ・・・・!」
「私は頭の柔らかい人間は好きだ。」
要は正解という事らしい。
「指をくわえて見てることしか出来ないのか・・・・」
こうして見てる間にも男の子2人の淳に対する罵詈雑言は激しさを増す。
なんで裕太が死んでお前が生き残る!裕太はお前なんかよりいい奴だった!
そんな言葉が重くずっしりと隆の心に響く。
そう隆自身もその場に居合わせ、裕太と呼ばれる少年がUBの中へ食われていくのが見えたからだ。だが、どちらが死んで欲しくてどちらが生きて欲しいとは彼には思えなかった。
「なあ巨人さんよ。」
隆は巨人に自ら初めて話しかけた。
何かね。とこのような状況でも落ち着きのある声を平然と出す巨人。
「あんたは命に優劣があると思うかい?」
隆のその声は今にも口から悔しさがこみ上げてきてる。そんな声だった。
「すまないが、私は人間の価値観で測れるほど賢くはないようだ。YesともNoとも答えられない。」
巨人の回答に隆は「そうか。」としか返せなかった。
「もう一つ質問だ。あんたには命って感覚はあるのかい?」
「あるが、それだけだ。命という存在があるという。」
「そうか。」
それ以上の感想が出てこない隆は自らの歯がゆさを嘆いた。
「よく見ていたまえ。」
「君は今からのシーンを判断しなくてはならない。」
隆は巨人の方向から淳の方へ目を戻す。
「何が始まるというんだ・・・・?」
淳に対する事は暴言だけでなくもう手は出ており、腹にパンチを2、3発は打ち込まれているという状況だった。
「巨人って奴だってなんでもっと早くこないんだ!あいつさえ早く来ていれば・・・・死なずにすんだのに!お前が死んでるって未来だったかもしれないのに!」
淳の目が見開く。
それでもフラフラと不確かながらも立ち上がる淳。
「そんなに言うならお前らが死ぬんだよ!」
淳の背中から黒いオーラが立ち込める。
オーラが煙のように男子生徒2人を囲んだ。
「なんなんだ・・・・これ・・・・」
男子2人と隆の声が被る。
男子生徒2人の空間だけ黒く染まっていき、この白い空間と対照的に不気味さを演出していた。
「命も大切に出来ないなら!お前らは消えろ!」
淳がそう言うと黒いオーラは一瞬にして真っ赤な炎へと変わった。
2人は苦しみ悶える。業火の炎に焼かれ、炎はより燃え上がる。
「熱い!熱い!熱いんだよぉぉぉぉぉぉぉ!」
2人の少年はそう言い残し、灰に変わっていった。
隆はその光景のせいで戻しそうになってしまう。
「もうやめろよ!こんなこと!これじゃただの人殺しじゃないか!」
だが隆の声は届く筈がない。これはあくまでリプレイ動画のようなものなのだから。
「巨人!なんでお前はこんなものを・・・・!俺に・・・・!」
隆の頬は涙に濡れていた。今の無慈悲で無情に泣いていた。
だが、巨人は答えない。ただ一言、
「すまないが時間は無くなったらしい。また会える日を。さらばだ。」
それだけ答え、サーっと巨人の体が白い世界に砂のように溶けていく。
「待て!待ってくれ!」
隆はそう叫ぶが、勿論待つ訳もなく、巨人は消えていった。
「全ては君に繋がっている・・・・。」
最後に巨人はそう言っていた。
「大丈夫ですか!」
そんな声が遠くから聞こえる気がする。
ふと無意識に目を開く。さっきまで目を閉じていたという記憶すらもない。
俺は巨人なる野郎とあんなものを・・・・。
目を開くと女性が懸命に自分に声をかけている。
「美智子ちゃん・・・・?」
隆は目を開いて2秒くらいで気づく。
「よかった!目覚めてくれて!もし目覚めなかったらどうしようかと・・・・」
「俺は一体・・・・?」
ふと思い出す。巨人と会話・・・・いや、あれは少し会話とは違う。そんな生温い言葉で形容してはいけない。
だが今の状況は自分はコンクリートの上に寝そべって倒れており、美智子ちゃんに介抱されているというような状況であった。
「俺は・・・・一体・・・・?じゃないわよ!」
考える暇もなく美智子が喋りかける。
「とりあえず保健室に行くわよ!」
美智子に連れられるがままになりそうになり、
「今から会社戻らなきゃ行けないんだ。ごめん。」
そう言って学校を後にした。
淳に会いたかったが、後にしてしまった以上は仕方ない。とりあえず今は作業に入る方が優先だ。
「俺は本当に巨人と・・・・」
あの不思議な世界がなんだか確信は無かったが実感は大いにあった。なんだか矛盾しているようにも思えた。
「俺は本当に巨人の声を聞いたんだよな・・・・?」