目が覚めた彼にも自分に自由は無い事には分かっていた。
椅子に繋がれた手足は足掻けば倒れるモノだと悟った。だが、それだからといって抵抗虚しく・・・。というのは気が引けた。
チェーンで繋がれたそれは引っ張ってもキィと金属のこすれた音を出すだけだった。
「目が覚めたのか?」
どこからか男の声が聞こえた。どうやらここから少し離れたところから音声を流しているんだろう。
「北村誠二くん・・・だね?」
自分の名前を呼ばれた。
「ああ。僕は北村誠二。ここはどうやらよくない場所のようだね?」
「ははは!何を言う!ここは警察だよ」
誠二も少し疑った。
「ここが警察?拘置所か何かの間違いじゃないかい?」
「警察も拘置所もそんな細かく変わらないだろ?特に一般からすればさ」
どこから音声が流れてるのかは知らないが、これ以上減らず口を聞くつもり、口を開くつもりも無かった。
「殺すなら殺したまえ。僕は何も答えるつもりはない」
信念だった。自分は負けたのだ。が、その一瞬まではうまくいっていた。自分でいうのもなんだが。
すべての勝負は一瞬で決まった。自分が予測出来ない方向へ。河童の川流れ、猿も木から落ちるとも言うのだろうか。負ける可能性の無い局面で彼の優位性は覆った。
フラッシュバック。
過去に起こった事が今になって、突然見えた。
両親がわけのわからない怪物になり、今のクロノスという力が目覚め、その力で回避した。という経緯を思い出した。
もちろん、過去のモノと分かっていても。捨て、未来にかけた彼にとっては、「怖く」感じたものであった。
だが、何故、あの時起こったか、彼には把握出来てなかった。
「まあ、落ち着きたまえよ。私はマット。こっちに敵意は無い。そちらが敵意がなければね」
どうやらあちら・・・マットという男はこっちを知ってるようだったので彼は挨拶を返す必要性を感じなかった。そしてマットが言った言葉は建前なんだと悟った。
「話は続けるよ。君の保護は私の同僚から頼まれている。英司というあまっちょろい奴が保護をせがんできた。ここは保育所じゃないんだがね」
あの男・・・殺そうとした僕を助けたというのか?全く考えられない・・・。これはおかしい。と思ったが生きているという不思議を考えるとどうとでもなった。
「そのあまっちょろい英司君はどこだい?」
誠二は聞いた。自分がフラッシュバックさせたモノを知りたい。あれは一体なんだったのか?
「残念だが、彼は今はここにはいない。すまないね、その代わり、私がお相手しようか。そっちへ行くまで少し待って欲しい。」
少しの時間が経ち、マットはドアを開け、誠二に近づいた。
「私はマット。まぁ彼からは色々君の事を聞かせて貰ってるよ。」
誠二はチッ!と舌打ちをした。
「そう怒らないでくれ。悪意は無いし、悪用する気もサラサラ無い。」
「あんたもなかなかの甘ちゃんだな。アイツの事を言えないだろ」
マットははっはっはっ!と笑った。
「ああいうのは感染るものさ。影響力は別かもしれんが。」
「話を本題に移らせて貰うよ。」
マットの口調がガラッと変わった。今まで談笑するように喋っていたが、その口調からは冗談を感じなかった。
「君も我々の仲間になって欲しい」
マットの言葉が全てだった。が、もちろん誠二にはそれに入る道理も義理も無い。
「あんたも本気で英司みたいにこの戦いを止められ・・・」
「ああ。止められると思ってるね」
誠二が言うより先にマットは答えていた。
「そんなの無理だ!そんな空想を抱いたところで甘えで自分が死ぬぞ!わかっているのか!」
「分かっているさ。でもな。誠二くん?だっけ?人殺しはなぁ。やりすぎると、見すぎると、そうしたくなくなる、逃げたくなるもんだ。ただ、状況に流されて、理由無く戦場にいるとね。戦争を減らしたくなるんだ」
マットの言葉にはもの悲しさがあった。
「だけどなぁ・・・あいつ、英司にはそれをやれてしまうような、そんな期待をしちまうんだよ。幻想だと思ってもな」
・・・。誠二は黙る他無かった。
「愛理さん。コーヒーです。」
英司から手渡された缶コーヒーはブラックだった。ありがとう。と一言声をかけた。
「そういやなんで愛理さんは能力が使えなくなったんですか?これって前にも聞きましたっけ?」
英司はあまり自信は無かった。
「カードを手放したら・・・無くなってたって事はカードを捨てさえすれば能力は切れるって事ですかね?」
愛理はまたねぇ・・・。知らないわよ。とため息をつかれただけで返された。
「何だって俺が麻薬捜査に協力しなきゃならないんですか・・・。」
英司は愚痴をもらした。
「うるさいわね・・・。ただでさえこのクロノス関連でうちの課は手が回らないし、というか今は警察自体が機能しない。って言っておかしくないしあなたクロノスの力持ってるし。一応警察官扱いだし。」
実際は高校生すけどね!と反論はしたが英司も黙る他なかった。こうやって今みたく、物陰に隠れ、遠くにいる男2人のやりとりを見ているだけだった。刑事ドラマのワンシーンみたいだった。
とその時だった。男2人が袋と賃金を交換した姿が見えた!
行くわよ!そう言うが早いか遅いか分からなかったが、もう愛理は飛び出していた。それに英司も続く。
「そこの2人!止まれ!動くな!」
銃を構えた愛理は叫んだ。2人に銃口が向いていた。
「っ!サツかよ!」
片一方の男が悪態をついた。
「大人しくお縄に・・・」
愛理が言いかけた時男2人がポケットから何かを取り出した・・・。
「お嬢ちゃんにゃあ恨みはあまり無いが、大人しくってな!」
カード。鎌の絵のようなものが描かれたクロノスのカードだった。
「愛理さん!ここは俺が!あなたはもう一人を!」
英司が前に出た。もうカードを出してない方の男はそこからせっせと逃げ出していた。
カードを取り出す英司。もちろん、戦いは避けたいが・・・。
「おめぇみたいな小僧が持つにはおつむが小さくないか?」
男は挑発する。英司は反論する気にはならなかった。警察官ってのは人殺しじゃない。だから今回は殺す。っていうのは最後にしたかった。
「カードさえ取り上げたら。」
甘えっていうのは分かってる。
自分が死ぬかもしれない。それも分かってる。
男はカードを展開し、鎌が現れた。
英司もカードを展開し、日本刀を出した。
「おじさん、俺はもう殺してるんだよ。」
英司の言葉を最後に戦いのゴングは静かだった。