朝が来た。いつもの部屋にいつもの照明。いつものベッド。昨日など何も無かったようだった。
人生初の「コロシアイ」をした英司はその感覚に重みを感じていた。
「俺は、人殺しじゃない!」
そう叫ぶ事でしか自分を守れなかった。
違う…違うんだ…殺したくて殺したんじゃない!俺は…
心がぶつかり合っていた「事実」とそれの「言い訳をし、自分を正当化」する気持ちと。
ピンポーンとインターホーンのチャイムが鳴った。今日は休日だった。特に予定も無かった英司は少し不安がりながら玄関に立った。
昨日殺した奴の連中が復讐しにきたんじゃ…嫌な事が脳裏をよぎった。それに連鎖されるように思考は不安をよそっていった。
カードは手に持ってある。いざというときは…! 覚悟を決め、ドアを開いた。
「やあ。昨日はよく眠れたかい?」
ひとりのポニーテールでスーツ姿の女性が立っていた。見るからに英司より年上の印象を与えた。
「あなたは?」
英司の質問がよほど嫌だったのか
「はぁ…昨日の一件…」
英司は感づいた。
「昨日の方でしたか…何の用です?」
昨日の事は覚えてはいたが、人の顔はハッキリと覚えてはいなかった。昨日、彼にカードを渡した女性だった。
「任意同行いい?」
女性はそれを言った後胸のポケットから手帳か何かを取り出した。
「警察手帳。サスペンスか何かで見たことあるでしょ?」
出された手帳を開き、英司に見せた。
「太田さん…?」
「ええ。私は太田愛理。警察官よ。」
ニコッと笑ってみせた。が、英司にそんな余裕はあるはず無かった。
「…構いませんよ。」
と。応えるよりは彼自身行かなければならなかった。
「じゃ、この車に乗って。」
目の前で停められていたワゴン車に乗り込み、車はタイヤを進ませた。
「家族はどうしてるの?」
愛理は英司に尋ねた。
「応える必要性あるんですか?」
英司の言葉にトゲがあった。
「いや。応えたくなければ。ただこれからは君の家族を巻き込む可能性だって視野に入れなきゃいけないかもだし。」
英司は喋らなければいけない理由が出来てしまった。
「家自体は母と中学生の妹がいます。」
「なんでその二人は今日は居なかったの?」
出るのが遅かったのが分かっていたのか、愛理は軽快に返した。生憎世間では日曜日でもあった。
「母は仕事。妹は学校の部活の練習です。」
「妹さんは何部なの?」
「バスケ部です。」
「ああ~確かにこの地域はバスケ部が強くて有名だね」
警察署ですか?殺人罪で逮捕ですか?だから親身になるために家族の事聞いて…」
「違うわよ。あんた、テレビ観てないの?」
「あなたがチャイム鳴らしてから起きましたからね。」
「とりあえず歩きながら話すわよ。歩いて」
不本意ながら従う他無かった。
自動ドアが開き、中には沢山の警察官がい、ドラマやアニメで見た雰囲気だった。
「昨日は殺人事件として処理したわ。あんたは偶然その現場に居合わせた。って感じね。マスコミはそれで今の所黙ってるわ。」
「カードの異能の力は公表しないんですか?」
「何バカ言ってるの?あんなのがバレたらパニックを起こし、人の世界を壊すわよ!」
「だからって!これを隠してたらもっと多くの人間が死ぬ!」
「公表したらその能力を持ってない人間が人を信じれなくなって人の暴力が支配するわよ!」
「…!」
それ以上の議論は無駄だった。英司の言葉に王手が打たれた。
「聞きたいのはそんな事じゃないでしょ?」
愛理はそう言い一冊の本を取り出した。タイトルは「神の優越」
「この絵本はこの力を使うにあたって何故こんなコロシアイが起こったのか、それを知る絵本よ」
その一冊の薄い本の内容はこうだった。
ある時、2つの村があった。この2つの村は互いに争いという言葉すら知らない位の平和な国だった。が、突然飢饉が起こった。人が稲のようにやせ細り、パタリパタリと死んでいった。
そこで神は
「どちらかの生き残った村の願いを3つ叶えてやろう」
と言ったそうだ。そこで2つの村は血で血を洗う争いに発展した。勿論、普通の戦争ではつまらないと考えた神は「人を超越した能力」を与えた。それの名称がレイピア。英司の持ったカードのそれであった。
だがどちらの村も救われなかった。血みどろの戦争は終わりを見ず、どちらの村も絶滅するというラストに至った。
「結果的に戦いの心が引っ張っていった…そう言いたいんですね?」
本を読み終えた英司は愛理に極論を聞いた。
「うーん…。そうなのかな?まあ実話らしいし。考え方は君次第って事で。」
愛理の応えはいい加減極まりないものだった。
「凄いいい加減なんですね。」
「だって私国語ニガテだもの。」
愛理はそれが理由だった。だがこの絵本を見せて極論を述べさせるのが本題では無かった。
「そして生き残った側、ここでは最後の一人が3つの願いを叶える権利を貰えると。」
愛理は煙たそうに言って見せた。
「そしてアナタには最後の一人になるまでコロシアイをしてもらうわ。これは任意じゃなくて強制」
愛理は英司に鋭い口調で言ってみせる。
「俺はそんなつもりでやったハズじゃない!もう人が死ぬのを見るのはイヤなんだ!ただそれだけだったんだ!」
「どうせ本当はヒーローにでもなる気だったんでしょ?」
!!言い返せなかった。確かにあの時彼は自分に酔っていた。昔見た特撮番組みたいに人を救えるとでも思っていたのだ。
「だけど!俺はあなたを助けた!!それで!」
「狩野樹。あなたの近くで転がっていた死体の名前よ。私と同じ課の人間だったわ。」
え?と言葉が続かなかった。
「あなたは、私は助けたけど、狩野は助からなかった。それがあの時の結果よ。」
でも・・・!!と映司が言いかけたところで愛理は言葉を続けた。
「それが昨日の戦績。私は助かったけど、あなたが来るのが遅かったせいで人が1人死んだわ。生きていればあなたの味方になっていたでしょうに。」
「でもあなたは生きてる!文句を言われる筋合いはない!!」
「だったら何?あなたは自分が助かって周りのみんなが死んでいったら{私を助けてくれてありがとうございます}なんて口が叩けるの?」
「違う!俺はそんなつもりは・・・・!!」
だが言葉は続かない。事実、彼はTVの中のヒーローに憧れていた。だからこうやってあの時も飛び込む勇気があった。が、それ以上何も無かった。偶然が重なって今を生きた。あの時から彼は「戦わなければ生きれない」体に変わっていったのだ。
「分かりました。俺は戦い抜きます。最後の1人になって、この世界の全て、間違ったものを正して見せます」
「よく言ったわ。歓迎するわ。ようこそ{対人外生命対策課}へ。まだ仮の名前だけど。あなたは今から私たち警察官に従ってもらうわよ」
そう言うと、部屋の照明が彼をスポットライトで照らすかのように集中させて彼を光らせた。
彼には言ってる言葉、今の状況がわからなかった。