その日は二度寝してしまうはカーナビで行った先で迷子になるはで波乱に満ちた出だしで、であい寄席会場に着くと天気はピーカンだが凄まじい風で、であい寄席の幟も吹っ飛んでいた。
今回の会場は羽田の「長照寺」だが、場所がら飛行機の騒音はどうだろうかと思ったが、ごく静かなお寺さんで、多くのお寺さんが反響音が酷い中、このお寺さんは定在波のコントロールもシッカリしてあって良い会場だった。成る程このお寺さん、よくコンサートなどもやっているという。御住職、いい御趣味で。
さて、この日の開口一番は三遊亭愛坊さんで「つる」である。
前回(秋亭)と比べて一番上手くなったと思ったのは愛坊さんだ。テンポが格段に良くなった。「つーーーるーーー」という台詞でも受けていた。
続いては一龍斎貞鏡さんで「秋色桜」だ。
貞鏡さんも良くなっていた。前回は声が小さいなあと思ったが、しっかりとしたメカタのある声で最後までやりきった。「秋色桜」のように職人の親父さんと品のいい娘さんのような対比は女流講談師には向いているのかもしれない。お見事であった。
続いては三遊亭鳳笑さんで「猫と金魚」だ。この作品は「のらくろ」の作者である田河水泡が作った新作落語だ。
いつもの恐妻ネタを織り込んだマクラであった。マクラで沢山やったがどうも一貫性が無いように思えた。噺に入るとカンでしまうところもあったがやりきった。
続いては三遊亭神楽さんで「天狗裁き」だ。正直、あれ?何話したんだっけ?と思う位にマクラが印象に残る高座だった。聴いているほうからするとそれくらいマクラに比重が置かれているように感じられた。いや、噺も面白いのである。ただ古今亭の噺っぷりに慣れてしまってる身にはなんかマクラとのバランスに違和感を感じてしまった。
ここでお仲入り。
クイツキは古今亭志ん八さんで「出目金」である。これは志ん八さんの作った噺じゃあるまいか。やっぱ、自分の口調やテンポで出来るのが自作の強みではないだろうか。出て来た時には何か体調でも悪いのではという感じがしてしまったが、噺に入るとオレンジの着物が金魚に見えて喋りも自然でのめり込んでしまった。本当に面白かった。
続いては一龍斎貞山さんで「上下二変人(かみしもにへんじん)」だ。これは相州(だったかな)の二大変人である柳生新陰流の遣い手である侍と、名人と噂される刀鍛冶の話で、結論から言うと自分にドンピシャな話であった。いや、刀鍛冶などは現実にかなりクセのありそうな感じだ。侍の生死を左右する刀を作っているんであるから生半可な覚悟の職人では無いだろう。侍もまた事あれば闘いの中に身を置くんであるから死生観というのは町人とは違う。クセがあるというか頑固なんだろう。その頑固さの表現が素晴らしい。また侍の妹という怪力の持ち主が面白い。
これは是非もう一度聴いてみたい。
さてトリは古今亭菊龍師匠で「徂徠豆腐」だ。マクラもしっかりしていて噺の導入として自然な感じだった。何回か師匠のこの噺を聴いているが、一番テンポが良く思えた。例えば荻生徂徠と豆腐屋のやり取りであっても、豆腐屋が台詞を言い終わるか終わらないかという間合いで荻生徂徠が畳み掛けるように話すところもあれば、じっくり聞いたうえで返答したりと、キャラクターの心持ちによって巧みに使い分けていてこちらも感情移入してしまう。テンポがいいとはスムーズに言うということではなく、こういう事を言うんだとおもう。荻生徂徠がより大きな人物として表現されていてお客さんにも受けていた。
もうこの噺は菊龍師匠の十八番としてなんら差し支えないんではないだろうか。
会場は家からはかなり遠かったが、長照寺さんは音響的にも快適な会場だった。
さ、菊龍師匠、来月はまた黒門亭でのトリだそうである。楽しみだ。

