晴れ男の師匠の神通力もこの日ばかりは及ばず雨の下北沢稽古会となった。
毎月第一金曜日に開かれるこの秘密倶楽部も東北沢の会場の改築工事に伴い、今月より暫くは下北沢での開催となる。
あいにくの土砂降りで足下も悪い中だったがツ離れしての開催となった。
さてこの日の一席目は「抜け雀」だ。
一文無しの旅の絵師。これをイメージすると何故か長門勇を思い出してしまう。太い眉毛にギョロっとした目というのとは違うが、ボロボロの着物に少し気の大きい感じがそう思わせるのかもしれない。
この噺もそうだが、この日の師匠はテンポが良く聴いていて気持ちがいい。これは単に口調が早いというのではなく、抑揚がついていて勢いが感じられるような口調である。師匠の噺は親を籠描きにしたというオチだ。
二席目はお客さんからのリクエストで稽古中の「青菜」だ。これは途中までしかまだ出来ていないのでそこまでということわりつきだ。ご隠居の品の良さと植木屋の威勢の良さの対比がいい噺だった。特に植木屋の口調がいい。残念ながらまだ稽古中との事で植木屋が家に帰ろうかという佳境のところで終わってしまった。これは今後が楽しみな噺だ。
さて、三席目は「景清」だ。
これはこの所師匠が良くかける噺で、彫金職人、目貫師(師匠はそうは言っていないが)とも言われる定次郎の噺だ。
目貫というのは刀の柄(つか)の中程に付く飾りだ。武士は常に刀をさしており、その拵(こしらえ)は持ち主の身分や教養を示すものでもあるのでこういう装飾には気を使ったものだ。頭、目貫、縁、鍔、切羽、はばき、等の刀装の金具一切は白銀師が造り、出来上がったものが更に細工を要するような場合は彫金師に回したものだそうだ。有名な後藤祐乗なども手を下したのは実はヤスリをかけたりする最後の部分だけだったそうである。
一度美術館などに足を運び昔の職人の仕事を観ていただきたい。あんな小さな所にどうやってあんな事が出来るのか、しいては目が命である職人定次郎の絶望の程に思いが及ぶんではないかと思う。
これはそういう絶望の淵にいる親子の噺でもある。師匠の噺にはその親子の思いがぎっちり詰まっていた。
感動の一席であった。
さて、来月も下北沢での開催だ。是非ともお間違いなく足を運んでいただきたい。