朝から激しい雨が降ったり止んだりの1日だったが会場に着いた時は雨が止んだタイミングだったので助かった。
人生には「まさか」という坂があるとはタモリの言葉だったか。「青菜」が楽しみだったハズだがこの日の一席目「妾馬」が1番自分は面白かった。なるほど古今亭の得意技である。
町人である大家、八五郎、御用人、お殿様とたったこの四人で八五郎の家族愛からお城の様子などすべてを説得力を持って話すのであるからこういうシンプルな噺ほど難しいとおもう。身分違いの人達が同席してのやり取りを笑うのであるからそれぞれの身分の差をキッチリ演らないと面白さが半減してしまう。師匠の噺はそこが素晴らしい。殿様は本当に殿様らしかった。
かつて天皇陛下のお乗りになる御料車「ニッサン プリンス ロイヤル」の設計者が言っていた言葉を思い出す。イギリスなどの例をみても高貴な方がお乗りになる車の後ろ姿は(デザイン)少し間抜けなくらいが威厳が出ると。
師匠のお殿様はバカ殿まではいかないが、少し浮世離れしていて、しかし人情にあついところがしっかりと描かれていた。また、八五郎も寅さんのようにがさつだが繊細で人情にあつい。大家と御用人だけが常識人であり気をもんでしまう。要は殿様も八五郎も身分を取っ払えば同じ種類の人間なのかもしれない。人情噺も立派に演るが古今亭が生き生きするのはこういう噺なんじゃないだろうか。
お見事な噺だった。もっと観せていただきたい。
さて二席目はお客さんからのリクエストで前回途中で終わってしまった「青菜」である。横浜の会に来れなかった人にははじめての師匠の完璧版となるわけだ。
これとて他愛の無い噺であるがなにも登場人物が沢山出て長い大根太ばかりが凄いとするのは違っていて、しっかりと演るとこんなにも面白いのである。
朝鮮戦争時のアメリカの戦闘機F86セイバーと北朝鮮のミグ15のようだ。ミグ15はF86セイバーに優越していたという説もあったが戦いが始まってみるとセイバーがミグを圧倒したという。理由はパイロットの技量であり、セイバーのパイロットは1200時間の飛行経験があり、部隊の中核は第二次世界大戦を経験したベテラン パイロットであった。一方、北朝鮮側はたったの200時間で、空中での連携も全くなされていなかったという。
脱線したが、演る人が演ればこのとうりなのである。
この暑いのに押し入れの中にジッとしていた女将さんの様子、ほとんど酸欠になりそうな様子で待ってましたとばかりに押し入れから出てくる様子は大笑いである。横浜の会とはまた違って面白い噺だった。
さて三席目は「だくだく」である。
師匠のこの噺はかなり前に聴いたのだが、稽古会でも横浜の会でも無いとなると寄席か国立のどちらかであろう。これも軽い噺だが面白い。いくら経師屋の仕事を見て憶えたとはいえ、家じゅうに紙を貼りめぐらせたというあたりから笑える。画家に絵を描かせてそれを確かめる八五郎の様がいい。体をぐっと後ろに引いてウンウンと偉そうに。こういう小さな仕草が効いているんだと思った。お見事でした。
昔新宿末広亭の席亭だった北村銀太郎が「志ん朝、談志、円楽、かう並べてみると、やっぱり本格なのは志ん朝だと思ふな。」と言ったという。
また、山藤章二は「〈現代〉から〈過去〉へ客を運ぶのが志ん朝で、〈過去〉をグイと〈現代〉の岸へ引き寄せるのが談志」だと言ったという。
今回の会だけでなく、師匠の噺はいつも古今亭流の本格を貫いてゆく。
また今度は両国で、古き良き時代へ皆を連れて行ってもらうのが楽しみだ。