昔、立川シネマシティが出来る前に高松町にあった伝説のオーディオショップのムサシノオンキョーで今のシネマシティの社長さんに会った事がある。なんでも立川の再開発で今の映画館立川中央、立川松竹、立川セントラルをリニューアルするという。ついては音響をより充実させる為にTHXシステム推奨のスピーカーとアンプにするつもりだがTHXの認証を取るのは迷っているという。
THXシステムとはスターウォーズのルーカス フィルムの指定するスピーカー、アンプを使うことのみならず、劇場環境、具体的にいうとNC値などすべてクリアしたシステムの事だ。NC値とは扉を全て閉め切った状態での静けさの度合いをいい、つまりは外を走る車の音やトイレの音はおろか空調の音まで聞こえてはならず限りなく無音にしなければならない。またTHXシステムの認定の判定をしてもらう為にルーカス フィルムから技術者達を呼はなければならず、途方も無いお金がかかるのである。ましては当時は映画冬の時代で全国の映画館の観客動員数は激減しているジリ貧の状況だった。
当時日本にあったTHXの認証劇場はたしかIMAGICAの試写室だけだったとおもう。
当時持っていたオーディオ ビジュアルの雑誌「HIVI」を見せてアメリカではTHXシステム全盛であり観客動員数は増えているので立川でも絶対にTHXシステムを導入すべきだと言った覚えがある。
それから数年後東京初のシネマコンプレックスとして生まれ変わった立川シネマシティはそれまでのベッチンのシートからヨーロッパ製のバックレストの長い楽なシートに変わり、日比野克彦氏デザインの内装には見事THX認証のサインが掲げられた。その後はご存知のとおりの大成功で立川シネマシティの名は日本中に知れ渡る事になった。

今回シネマシティ2では「極上爆音上映!」なるものをやっており、特に最近封切ったマッドマックスあたりから更にパワーアップを図ったという。マッドマックス封切りからかなり経っているというのに未だにもの凄い観客動員数で、日本中から立川にお客さんが来ていて、なんでも立川がマッドマックスの聖地ということになっているらしい。
友人からドルビーアトモスにスーパーウーファーを6個追加したと聞いていたが、劇場に入ってもドルビーアトモス特有の天井のスピーカーが無かった。どうやら情報は間違えで実際はKICリアルサウンドシステムを採用していて、数百万といわれるコンサート用の大型サブウーファーMeyer Sound 1100ーLFCを二台増設したものであった。
そもそもサラウンドというのは自然な音を標榜したものでは無く、左右前後の音を積極的に出した立体感を強調する音遊びであるので実際の音はこんな風には聞こえないなんて目くじらをたてる性質のものでは無い。いわばアミューズメント施設のアトラクションのようなものであり、ウエスタンのスピーカーとアンプで目指すそれとは全く違い、サラウンドがピュアオーディオより劣るとかいう話とは違う。
実際に「進撃の巨人」を観ると、巨人の歩く振動などもの凄い迫力である。言ってみると極上爆音上映で観るのとそうでないかとでは相当にニュアンスが変わってしまうんでは無いだろうか。
セリフや音楽のエネルギー バランスが著しく崩れているわけでは無いが、いわゆる緊迫したシーンにこの重低音が多用されていて、その緊迫感たるや凄い事になっていて、内蔵が震えるような迫力だった。
人間は視覚が支配的で、映画などでも音に関しては極めて低いパーセンテージでしか影響を受けないとされてきたが、これほどまでに違うのである。
今回の映画館、扉は金庫のようなゴツさだし、通常は幕状のスクリーンの後ろにスピーカーが設置されていてスクリーンの小さな点々のような穴(バーフォレーション)から音を出しているが、スクリーンは幕ではなく硬い湾曲した材質にしてスピーカーは全てスクリーン周りに露出して設置してスクリーン透過による音響損失の低減に成功している。
今回は無謀にも最前列のMeyer Sound 1100ーLFCの真ん前で観るという暴挙に出たのだが、体で観る映画というのは病みつきになるかもしれない。

立川のシネマシティはイオンシネマやユナイテッドシネマのような大手チェーンとは違う。小さな個人経営であるシネマシティの成功は社長の音に対する造詣の深さと拘りが生んだものだと確信している。
是非お試しあれと言いたいところだが、連日いっぱいのお客さんなので空席状況を確かめた上でどうぞとしか言えない。


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