今年の12月は寒くなりそうだ、という予報。
このくそ寒い中、インフルエンザの予防注射行ってきたんですよ~。
詳細は後日。
で、本日は、この話の続きです。
NMR室は、無菌室と同じく専用スリッパに履き替えなければならない。
我々は、前室でスリッパに履き替えて測定室に入った。
しかし、NMRの測定なんて久しぶり。
学生の頃は、有機合成専攻だったから毎日のように使ったんだけど。
サンプルをセットして、私はオペレーター席に座った。
左斜め後ろには先生役のアオイさんが立つ。
さて、測定をしている最中。モニター上では積算が一生懸命行われていた。
「ん~、重クロだと自動的に32回で終わるんですけどね~。それは重メタですよね?」
「そうなんですよ。」
「じゃあ、山ちゃんを呼ばんとイカンかもしれませんね~。」
「と言うと?」
「もし、積算が長くなるようだとね~、ボクは途中の止め方、知らんのですよ~。」
画面の左上には積算の残り回数が表示されるはずなのだが、いつまで経っても出てこない。
「…これは、山ちゃんを呼ぶしかないですね~。」
アオイさんは内線電話をかけた。
「…あ、山ちゃん?あのね~、ちょっとでぃあさん助けたって。…うん、あ、そう。」
アオイさんは受話器を置いて、ニャ~と笑って言った。
「喜んで来てくれるそうです~。」
「…はあ。」
ほどなくして、山ちゃんがやって来た。
「何やの、一体。」
「途中で積算止めるのって、ど~するんや?」
「……。」
奴はツカツカとモニターの前まで来て、
「どいて。」
「…はいはい。」
ここは素直によけるしかない。この機械に関しては、私は素人、
山ちゃんは毎日のように使っている人だもの。
「だからな、FTの画面を1から2に移動させて…。」
言ってる日本語がよくわからなかったけれど、取りあえずボタン操作数回で
簡単に目的は達成されたようだ。
そして、奴はやや馬鹿にしたような口調で言った。
「あんた、マジで測定方法、覚えるわけ?」
「いーでしょ!?これから必要になるかもしれないんだから!」
私は再度オペレーター席に座った。
「じゃ、続きいきますよ~。次は、その『Z』って書いてあるボタンを押してくださいね~。」
「はい。」
「そしたら、そのランプが連続点灯するまで少し待って…。」
二人とも、山ちゃんの存在など意識の外。Out of rangeになってしまった。
気が付くと山ちゃんの姿は無くて、代わりに有機合成第1研究室のHさんが入って来た。
Hさんはまるで不思議なモノでも見るような顔をしていた。
この測定室に来るのは、ほぼ有機合成研究室の人なので、
私の存在はかなり異質に思われたかもしれないなぁ。
Hさんは、予約ノートに名前をかき込みながら、
「靴の並べ方が、妙な順序になってるけど…。」
と、言った。
「妙?はあ、そうですか…。」
我々は、それどころではなかったので、適当に返事をして
測定の続きをしていた。
そして何とか測定は終了し、チャートを打ち出して一段落。しかしよく分からない結果だ…。
一応メチル-メチレン領域にピークは出ているのだが、積分値を出す気にもならない。
あ~、しょ~もないチャートを出しちまったぜ。
「どうもありがとうございました…。」
「どういたしまして~。この後、分からない事があったら、ボクでも、他のその辺の
誰かでもつかまえて聞けばいいですよ~。」
「はい。」
アオイさんって、本当に良い人だなぁ。
測定室を出て、靴置き場で我々は思わず顔を見合わせた。
適当に脱ぎ捨てたはずの我々の靴が、靴底合わせの状態で下駄箱の中に
押し込められていたのである。
ああ、変わり果てた姿に(?)なって!
「もー!あいつは!何、嫌がらせしてんだよ~。」
「山ちゃん、しょうがないな~。ホントにやる事が小学生レベルなんやから~。」
二人とも、犯人は山ちゃんだと決めてかかっていた。
何だよ山ちゃん、またヤキモチですか~?だから私は君からアオイさんを奪うつもりは無いと…
はっ!まさか、『アオイさんがでぃあさんを取った~!』っていうヤキモチか?
…だったら、嬉しいんですけどね~。無いな。それはきっと無いな。
…しかし、どんなツラして靴を並べ替えていたんだろう…。
それを考えると、笑える!
(この話終わり)
重メタとか重クロについての説明…。
NMRを測定する際は、適当な溶媒に試料を溶かすんですが、
この溶媒、H原子が重水素に置き換わったものを使います。
大抵はクロロホルムを使うんですが、モノによっては、どうしても別の溶媒を
使わなくてはいけない場合もあり…。この時私はメタノールを使っていました。
…で、合ってるよなぁ?
まあ、詳しい事が知りたい方は、『NMR 測定』とかでググってみてくだせぇ…。