ギンギンに照りつける夏の太陽の下で、俺は君がぶっ飛んで行った空を見上げている。
コンクリートと巨大な金属に囲まれた中心地、それが君が自由になった場所。
君が自由になった発射地点で、俺はまだ重力によって張り付いているよ。
サヨナラ。この星を飛び立っていった、遠い宇宙の旅人。
もし君が失敗して自由になれなかった時、この島の周辺の海に、君は入水自殺する運命にあった。
もしも君が失敗して飛び立てなかった時、君は無残にも爆破される運命にあった。
誰もが、君がこの星から自由になることを願い、発射地点に君を立たせる。
最悪の事態を想定して、半径3Km離れて、誰もが君を見つめている。
カウントダウンの果てに、君は巨大なタンクに満載した液化水素と液化酸素を点火させた。
君は上昇をはじめ、この星の重力を振り切るために高く高く上っていく。
重力の束縛を逃れて、君は自由になることを欲したのか。
何もかもが錯綜し、群がり、騒がしい場所から、君はサヨナラしたかったのか。
それとも、ただ単に君がいるべきところに行きたかっただけなのかい。
君は満載した燃料を使い果たし、一段目のロケットを切り離す。
身軽になった君はさらにぐんぐんぐんぐん上昇していく。
二度とは帰れないこの星を背に、君は片道分だけつんだ生命を燃やす。
二段目を切り離し、君は空の輝く点になった。
使い果たした抜け殻を捨てて、君はついにこの星の重力から自由になった。
サヨナラ。二度と帰ることのない、遠い宇宙の旅人。
宇宙に行ってみたい俺の夢を、君は少しだけ叶えてくれた。
わずかばかり、俺の仕事が君に含まれているだけだけど。
君が自由になった地点に立って、俺は少し考えてみたよ。
重力から逃れて、君は本当に自由になったのだろうか。
この星から逃れて、君は本当に自由になったのだろうか。
子供の頃、夢見たように宇宙は自由な世界なのだろうか。
君はきっと言うだろう。
真空と宇宙線にさらされ、宇宙には危険がいっぱいだよ。と
暖かい空気に守れた地球とは、比べ物にならない危険に、君は立ち向かっている。
君はきっと言うだろう。
重力を振り切ったからって、底なしの自由があるわけじゃないと。
だけど、ここは君が自由になった場所さ。
君は全てを燃やして、抜け殻を捨てて、高く高くのぼっていった。
ただひとつ、余計な付属品のない君だけが、宇宙に辿り着くために。
ぐんぐんと上昇する君は、その瞬間まぎれもなく自由だったと俺は思う。
その時、重力でさえ君を束縛することはできなかった。
あの瞬間。君は間違いなく自由だった。
もしかしたら、この星に自由はなく、宇宙にも自由なんてないのかもしれない。
自由なんて、都合のいい幻想のひとつかもしれない。
だけど、ぐんぐんと上昇する君はあの時、確かに自由だった。
君が何もかもかなぐり捨てて自由になったこの場所に立って、君がぶっ飛んで行った空を見上げる。
熱い太陽に焼かれながら、この星に張り付いた俺は、自由の存在を密かに確信する。