デーモン・ボム -2ページ目

デーモン・ボム

モニターを覗いてみろよ。



ほら、悪魔がうじゃうじゃいるぜ

ギンギンに照りつける夏の太陽の下で、俺は君がぶっ飛んで行った空を見上げている。
コンクリートと巨大な金属に囲まれた中心地、それが君が自由になった場所。
君が自由になった発射地点で、俺はまだ重力によって張り付いているよ。
サヨナラ。この星を飛び立っていった、遠い宇宙の旅人。


もし君が失敗して自由になれなかった時、この島の周辺の海に、君は入水自殺する運命にあった。
もしも君が失敗して飛び立てなかった時、君は無残にも爆破される運命にあった。
誰もが、君がこの星から自由になることを願い、発射地点に君を立たせる。
最悪の事態を想定して、半径3Km離れて、誰もが君を見つめている。


カウントダウンの果てに、君は巨大なタンクに満載した液化水素と液化酸素を点火させた。
君は上昇をはじめ、この星の重力を振り切るために高く高く上っていく。
重力の束縛を逃れて、君は自由になることを欲したのか。
何もかもが錯綜し、群がり、騒がしい場所から、君はサヨナラしたかったのか。
それとも、ただ単に君がいるべきところに行きたかっただけなのかい。


君は満載した燃料を使い果たし、一段目のロケットを切り離す。
身軽になった君はさらにぐんぐんぐんぐん上昇していく。
二度とは帰れないこの星を背に、君は片道分だけつんだ生命を燃やす。
二段目を切り離し、君は空の輝く点になった。
使い果たした抜け殻を捨てて、君はついにこの星の重力から自由になった。
サヨナラ。二度と帰ることのない、遠い宇宙の旅人。
宇宙に行ってみたい俺の夢を、君は少しだけ叶えてくれた。
わずかばかり、俺の仕事が君に含まれているだけだけど。


君が自由になった地点に立って、俺は少し考えてみたよ。
重力から逃れて、君は本当に自由になったのだろうか。
この星から逃れて、君は本当に自由になったのだろうか。
子供の頃、夢見たように宇宙は自由な世界なのだろうか。


君はきっと言うだろう。
真空と宇宙線にさらされ、宇宙には危険がいっぱいだよ。と
暖かい空気に守れた地球とは、比べ物にならない危険に、君は立ち向かっている。
君はきっと言うだろう。
重力を振り切ったからって、底なしの自由があるわけじゃないと。


だけど、ここは君が自由になった場所さ。
君は全てを燃やして、抜け殻を捨てて、高く高くのぼっていった。
ただひとつ、余計な付属品のない君だけが、宇宙に辿り着くために。
ぐんぐんと上昇する君は、その瞬間まぎれもなく自由だったと俺は思う。
その時、重力でさえ君を束縛することはできなかった。
あの瞬間。君は間違いなく自由だった。


もしかしたら、この星に自由はなく、宇宙にも自由なんてないのかもしれない。
自由なんて、都合のいい幻想のひとつかもしれない。
だけど、ぐんぐんと上昇する君はあの時、確かに自由だった。


君が何もかもかなぐり捨てて自由になったこの場所に立って、君がぶっ飛んで行った空を見上げる。
熱い太陽に焼かれながら、この星に張り付いた俺は、自由の存在を密かに確信する。



クーラーの効いた部屋で、アイスコーヒーを片手に歴史を覗く。
モニターの中では、島の形が変わるほどの砲弾を打ち込まれて、ご先祖様の立てこもる島がむせび泣く。
汗ひとつかかず、モニターの中で次から次へと死んでゆくご先祖様の姿を見つめて、本当に戦争のことがわかるのだろうか。
迫撃砲にやられて、転げ落ちてくるご先祖様の姿は、今は500円でホームセンターで売られている。


焼け焦げ、上半身がどこかにいったご先祖様。
火炎放射にのたうつご先祖様。
死 死 死 死 死 死 死
モニターの中では、そう遠くない過去にあった本当の死があふれかえっている。


クーラーの効いた部屋で、アイスコーヒーを片手に歴史を覗く。
レイテを果敢に脱出する、伍長殿の武勇伝を読みながら。
ここは、ご先祖様が死守する地。
次から次へと死んでゆく、ご先祖様の名前は覚える暇もないくらい。
誰もがあまりにあっさり死に過ぎて、悲しみもわいてこない。
死 死 死 死 死 死 死
古びた文庫本の中には、そう遠くない過去にあった本当の死があふれかえっている。


伍長殿は言う。
「国のために死ぬことを惜しいとは思わない」
それでも伍長殿は軍を捨てて言った。
「勝利なく、死ぬことだけが目的の戦争に、いったい何の意味があるのか?」


クーラーの効いた部屋でアイスコーヒーを片手に、そう遠くない過去にあった本当の死を覗き込む。
死 死 死 死 死 死 死
リアルな死は、今この現実のどこにある。
死ぬことがどんなことか知らないで、どうやって死にむかえと言うのか。


死 死 死 死 死 死 死
500円で売られる、ご先祖様の死に様。


死 死 死 死 死 死 死
このクーラーの効いた部屋にも、そう遠くない過去にあった本当の死があふれかえっている。


クーラーの効いた部屋でアイスコーヒーを片手に、死んでいった全てに、せめて哀悼の意を捧げよう。
おやすみ。かえりみられることのない、争いの犠牲達。
地獄の釜の底から、せめて呪いをかけてくれ。

15年前のある暑い日の話。
突き抜けるように青い空の下、太陽が緑と海を鮮やかに照らしている。
海が見える高台の上で、俺はBJと銃を撃っていた。


椰子の実のやや左寄り上方に狙いをつける。
後は冷静に引き金を絞れば、45ACPをくらった椰子の実が破裂して、あたり一面にぶちまかれる。
せっかくつけた狙いも引き金を引けば必ずブレる。
自分の腕さえ信用しない方がいい。
ブレとクセを把握して、常に割り引いて狙うのがミソだ。


ひとつ。ふたつ。みっつ。
日本語で数えながら、俺は椰子の実を撃ち落すのが好きだった。


「おまえの水風船投げの腕は最悪だが、ガバメントならメシが食える」
そこら中に散らばるぐちゃぐちゃになった椰子の実を眺めて、BJは言った。
俺のガバメントでいったい幾ら稼げるのか?
俺はBJに聞く。
BJは指を1本だけ立てて言った。
「最低ラインは、だいたいこのぐらいってとこだ」


BJ。

かなしいけれど、そんな儲けじゃ任天堂のゲームソフトも買えないぜ。
ガバメントで稼ぐ夢はあきらめて、俺は椰子の実を撃っていよう。
楽しいことは商売にしないほうがいい。
どこかの誰かが言ってたよ。


何につけ、カネカネカネのこの国で、生命の値段について、考えたことがあるだろうか。
もしも君を売りに出したら、いったい幾らの値がつくと思う?
俺を売りに出したら、あんたは幾ら出してくれる?
所得税を引かれた手取りが、生命の値段てわけじゃないだろう。
絶体絶命の危機に、いくら積んだら見逃してくれる?
どれだけ積んだら、あんたを好きにしていいんだい?
被害者の人生は甚大な損害を被った。なのにお国が口にするのは財源についての問題だ。
なんにだって値段がつく。
人間の生命だって、例外じゃない。
モニターの中をのぞいてみろよ。俺の言っていることは、それほど間違っちゃいないはずだ。


指1本の値段なら、喜んで人を殺す奴がいるとBJは言った。
なのに、この国では一文の得にもならないのに、人を殺す奴がいる。
なんにつけカネカネカネの世の中じゃないのかい?
どこかの壇上では、欲望に溺れ、憎しみに燃え、「殺せ!殺せ!!」と、誰かがわめく。
なんにだって値段がつく世の中だ。
あんたの指先にいる奴を殺せば、いったい幾らくれるんだい?
殺した後に、
「善意の奉仕に感謝します」
なんて言うつもりかい。


指1本の値段で、喜んで人を殺す奴がいるとBJは言った。

モニターの中をのぞいてみろよ。
平和と呼ばれるこの国に、手のつけられない人殺しがうじゃうじゃいるぜ。

国境線を越えた先にあるのは、どこかで見たようなショッピングモール。

言葉も通じない部族も、ナイキのマークを身につける。

世界はグローバル化されたらしい。

世界中の民族衣装で着飾って、グラウンドゼロで盆踊りでも踊ろうぜ。

世界を同一化する全体主義に中指を突き立てろ。

バベルの塔を知ってるかい。

なんでもひとつになりゃいいってもんじゃないはずだ。


どこのショッピングモールでも、ナイフショップに行けば、俺にとっては懐かしいあのナイフがショーケースの中に並べられている。

どこにいったって、あの島の物なんかお目にかかれりゃしないのに、あの島のナイフだけは世界中どこにいったって、ナイフショップのショーケースの中にある。


15年前に俺がいた場所は、どこもかしこも、男も女も、その手にナイフを握っていた。

片手を使って0.3秒でナイフの刃を開く技術を、俺はBJに教わった。

俺は今でも、BJがくれたあのナイフで、魚肉ソーセージのパッケージを切る。

もちろん、0.3秒で刃を開いて。


あのちっちゃな島の民族に伝わる伝統のナイフ。

今は、世界中のショーケースに並んでいる。

なのに、誰もあの島のことなんか知っちゃいない。

あの島であったことなんて、これっぽっちも気にしない。

なのに、ちっちゃな島に伝わる伝統のナイフは、世界中に散らばっている。

この国にだって売ってるし、殺された奴もいるんだぜ。


0.3秒で刃を開き、BJは寂しそうに言った。

「このナイフは遠い昔からこの島に伝わるものだが、昔はこんな使い方はなかったんだ」

0.3秒で刃を閉じて、BJは悲しそうに言った。

「後からきた奴が、0.3秒で刃を開いたんだ」


今でも俺は、BJがくれたあのナイフで、魚肉ソーセージのパッケージを切る。

BJが俺の名前を彫ってくれたナイフで。

0.3秒で刃を開いて、パッケージを切って、0.3秒で刃を閉じる。

そして、むしゃむしゃと魚肉ソーセージを食うんだ。


世界中のショーケースに、あの島のナイフが並んでいる。

なのに、誰もあの島のことなんか知っちゃいない。

あの島のナイフで、狩りをしていた頃のことなんか知らない。

0.3秒で刃を開かなかった頃のことを知らない。

その頃が、完全無欠の平和な時代だったなんて言うつもりはない。


どこにいったって、あの島の物なんかないのに。

あの島のことなんか、誰も口にしないのに。

あの島のナイフは、世界中のショーケースに並んでいる。


0.3秒で刃を開いて、0.3秒で刃を閉じる。

今でも俺は、BJが教えてくれたリズムで、刃を開いては閉じる。


どこかのナイフショップで、俺の思い出のナイフを手にする人よ。

あの島の名誉を汚すようなことには、どうか使わないでやって欲しい。








15年前のある日。

45ACP弾がコンクリート製の構造物の中を跳ね踊っていた。

おまえのはらわたとクソを、ぐちゃぐちゃに混ぜ合わせてやりたいと、飛び交う銃弾達が叫んでいる。

絶対的な死が、確かにそこにあった。

死神が楽しげに目の前で鎌を研ぐ時、不思議と死について考えないことに、俺は後になってから気づく。

俺はあの日、銃弾をもらうことなど考えもしなかった。

一発のホローポイントが、俺の皮膚と筋肉と内臓とクソを、永久に回復できないクソミンチに変えてしまう可能性は、充分過ぎるほどあったのに。

ただ俺は、そこに立っていた。


ホローポイントが跳弾する音を、どう表現していいのかわからない。

それは、空気のうなりではなく、轟音でもなく、かといって静寂ではない。

弾丸が通り過ぎていく感覚は、風ではなく、無音でもなく、形容できる音でもない。

飛び交う銃弾の温度は、ナイフの持つ冷たさではなく、拳の持つ熱でもない。

おまえを殺したいと駆け抜ける銃弾。

それは、死そのものを骨の髄まで感じさせる。


「おまえを殺しそこなった弾だ」

BJはそう言って、クリスマスのプレゼントに、あの日当たらなかった弾丸をくれた。

体内で花開くことなく、冷たいコンクリートに散ったホローポイントは、ほとんど原型をとどめてはいなかった。

飛び交う銃弾は、俺を殺したいと、強く強く思ったのだろうか。

俺のはらたわとクソを、ぐちゃぐちゃに掻き混ぜてやりたいと願ったのだろうか。

脳ミソをコンクリート一面にぶちまけてやりたいと、ひどく渇望していたのだろうか。

声に出して聞いてみても、銃弾は答えない。

俺の体内で花開けなかった銃弾は、手のひらの上で今は静かに死んでいた。


おやすみ。俺を殺せなかった45ACP。

コンクリートに散った君は、悲しいけれど目的を果たせなかった。

俺をぐちゃぐちゃにする前に、ぐちゃぐちゃになって死んでしまった君。

もし君に当たっていたら、俺はここにはいないのだけれど、手のひらで静かに横たわる君は、なんだかひどくかわいそうだ。

死んでしまえば、何もかもが悲しい。

だからせめて、一度きりしか生きることのできない銃弾に、いってこいとは言わないで欲しい。

死んでしまえば、何もかもが悲しい。

だからきっと、これ以上死ぬ必要なんかない。

























誰もが明確な目的を掲げ、上へ上へと登っていく。

息を切らせ、血を流し、憎しみ、そして、罵りながら。

永遠と続く同一性に束縛された、不気味な規則性非常階段が立ちはだかる。

一段ごとに、老いて、傷つき、憎しみがつのる。


登り切れない巨大な人工構造物を登ることが、与えられた向上という幻想。

誰かが廃棄した巨大な廃墟は、愚者に与えられた崇高な試練。

上には、神を殺した偉大な存在がいると喧伝される。

私は選ばれた。神を殺した偉大な存在に。

だから、私は上を目指す。

どこかで植えつけられた妄想が、巨大な人工構造物の上には、神を超えるモノがあると告げる。


神は何者かに敗れたと言われる。

神は死に、今や誰もが奇跡を起こせる。

なのに、誰もロクな奇跡を起こさない。

ドリーは死に、明確にその存在を指摘できない、恐怖の存在を警告したのに。

ヒロシマもナガサキも、ソドムとゴモラではなかったのに。

復讐するは我にあり。国家は神の基本原則を守らなかった。


どこかで植えつけられた妄想に駆られて、誰もが人工構造物を登る。

そんなに高くは見えないのに、頂上にはたどり着けない。

一段ごとに、誰かが死に、希望は費え、狂気が加算されていく。


愛する者が力尽きた時、彼女はこれ以上登ることを断念した。

絞首台にぶら下がって自分自身を裁いた時、彼女は初めて心の安らぎを得た。

だから死してなお、彼女は美しく微笑んだ。

見たこともない偉大な存在を目指して、彼女が支払った代償は大きい。

絞首台の上で笑うぐらいなら、初めから登らなければよかったのに。


誰もが上へ上へと急いでいる。

息を切らし、血反吐を吐いて。憎しみ、そして罵り合い。

誰かが廃棄した巨大な廃墟の上に、あると喧伝される希望を目指して。

決して手にできない妄想に駆られて、幻覚が待ち受ける上階へ這い登る。

殺し合い、死産してまでも辿り着いた場所で、浅はかな妄想と出会う。

辿り着けるのは、せいぜいが幻覚を伴う狂気。

ならば、最初から登らなければよかったのに。


支払った代償はあまりにも大きい。

植えつけられた、偉大なる存在への渇望にさよならしよう。

いつだって代償を支払ってから思う。

登らなければよかったのに。

ロクでもない奇跡を、競い合わなければよかったのに。


誰も辿り着いていない場所にあると言われる偉大なる存在。

冷静に考えなよ。ずいぶんうまい話じゃないか。


誰かが、神は何者かに敗れたと言う。

オレは、神は最初からいなかったと笑う。


殺し合い、血反吐を吐いて、憎しみ合い、蹴落とすがいい。

オレは下で、ゲラゲラと笑っている。







ミルウォーキからヘルシンキまで、果てないモンキービジネスが交錯する。

政治的に敵対する、大連サーバーの動向に注目しよう。

俺はアジアの片隅で、モニターの中で苦笑する。

厄介な積荷が、今日港を出たってよ。

どうせなら大西洋のどこかで、根こそぎ消えてくれないか。


仕事を垂れ流すことに国境はない。

どいつもこいつも責任をなすりつける。

それは「私の権限ではない」と言い放ち、かすめ取ったボーナスを消費するんだ。

どいつもこいつもグーグルアースで、あんたのビーチを眺めているぜ。

ユーコがこう言ってたよ。

よく見ていたら、ちょっとしたものが写ってたって。


21世紀のある日、ミルウォーキは停電だってよ。

ミルウォーキが落ちれば、俺の仕事はお手上げだ。

政治的に対立する、大連サーバーでも覗いていよう。


ド偉いミスター・ホワイトカラーは、全世界に向けてメールを発信。

俺はモニターを覗いて苦笑する。

「ヘルプ・デスクからのお願いです。不要なメールの配信はご遠慮ください」


ミルウォーキが落ちれば、今日はお手上げ。

ヘルシンキがしぶれば、明日はお手上げ。

大連が戸惑えば、有給が使えるかもしれないぜ。


経営判断? 独立採算? 

笑わせるなよ。


ミルウォーキからヘルシンキまで。

政治的に対立する大連に、管理を一部委託しよう。


世界のどこかが落ちれば、弊社はお手上げ。

何もかも、でっかいプラグを突っ込まれて接続される。

そうさ世界は、すでに連結決算されている。














「静かに、静かに。誰も傷つけるつもりはない。私はただ責任を取りたいだけだ」

彼はそう言って、ブローニングを自分の口に突っ込んで引き金をひいた。

銃声と同時に白目をむく、銃にフェラチオする間抜けづら。

後頭部から赤い噴水が飛びあがり、後ろに向って最高にいかした現代アートをぶちまける。

その瞬間を、俺は今でもよく覚えている。

ホロー・ポイントがあんたをスクランブルエッグにするその瞬間。

責任を取れて満足したかい?

ぶちまかれたあんたの後片付けをした奴に、せめてあの世でいい査定をしてやって欲しい。


そうさ、あんたは責任を取りたかった。

責任を取りたかった瞬間に、手元にブローニングがあったのさ。


ド偉いミスター・ホワイトカラーは、チャンスを逃すなとわめき続ける。

ビジネスチャンス。販売チャンス。

投資と投機、利益と損益は、いつもチャンスに左右される。

どいつもこいつも睡眠不足の目をギラつかせて、垂れ流しのチャンスに群がってるぜ。

そうさ消費したいその瞬間に、弊社はヨダレが出るような商品を目の前にぶら下げる。

さあ欲望のおもむくままに、ご提案させていただいくうまい話に飛びつくんだ。

そうさ、チャンスは逃さない方がいい。


政治的判断。損益分岐点。

イエスかノーか。正義か悪か。

改革か保守か。

開戦か停戦か。

彼か私か。

時代のスピードは、あんたを置いてぶっ飛んでくぜ。

さあ今この瞬間、欲望のおもむくままに消費して、衝動的に政治的決断を実行しよう。

「チャンスは逃さないことだ」

モニターの中では、スーツに身を包んだ資本の権化が君に微笑む。


チャンスを逃すことを許さない、ド偉いミスター・ホワイトカラーにプレゼンしよう。

今すぐチンポのかわりに、ブローニングをぶら下げな。

責任を取りたい気分になったその瞬間、あんたはチャンスを逃すべきじゃない。

気が変わってしまう前に、チンポがわりにぶら下げたブローニングにおしゃぶりをしてみせな。


モニターの中を覗いてみろよ。

衝動と感情に身を任せ、垂れ流しのチャンスに群がる奴らがうじゃうじゃいるぜ。


チャンスを逃すことを許さない、先進的な奴らにプレゼンしよう。

今すぐチンポのかわりに、ブローニングをぶら下げな。





解除番号を知らないダイアルの前にひざまずき、その最期の瞬間に君は何を思ったのだろうか。

その時、全ての希望は死に、恐怖と絶望だけがあったのだろうか。

それとも、最期まで君には希望が瞬いてたのだろうか。

これから死に行くその瞬間に、君は死を受け入れたのか。

それとも、最期のその瞬間まで、君は死を受け入れなかったのか。

君は諦めたのか。それとも、諦めなかったのか。

長い時間がたった今でも、俺は君のことを考える。

絶対的な死のその瞬間に、君は何を思い、どう生きたのか。

解除番号を知らないダイアルの前にひざまずき、その最期の瞬間に君は涙を流したのか。

それとも、涙さえ流れなかったのか。

君からだいぶ遅れて死へ突入する俺は、目をつぶる時、君のことを考える。

そうさ君は、俺のブラック・ダリアだ。


おやすみ。

後頭部から侵入してくる45口径の弾丸によって、君は永遠の眠りについた。

君の人生を詮索し過ぎる俺のことは放っておいて、どうか安らかに眠って欲しい。

「俺は前進しているよ。エリザベス」

そう言ってあげられない俺に、君を知る権利はない。

せめてもの弔いに、君が好きだった料理をいつまでも作り続けよう。


渇望するのは、永遠と真実。

追い求めるのは、永遠と真実。

本当に存在していて欲しいのは、永遠と真実。


真実が欲しくて、過去を追いかける。

永遠が欲しくて、何かを築きあげる。

どこを探しても真実は見当たらない。

そして、永遠は存続しない。

死という、ただひとつの例外をのぞいて。


エリザベス・ショートは腹部に走る国境線に分断されて、ブラック・ダリアになった。

エリザベス。君は、世界一有名な死体。

二度と死ぬことができない。永遠のブラック・ダリア。

生きていた君は、どこにでもいて、それでいてどこにもいない、ただの女の子だったのに。


真実が欲しくて、過去を追いかける。

永遠が欲しくて、何かを築きあげる。

どこを探しても真実は見当たらず。

そして、永遠は存続しない。

死という、ただひとつの例外をのぞいて。


誰にも特別な存在ではなかった君は、死によって誰にとっても特別な存在になった。

死という、ただひとつの永遠が存在することが、俺にはたまらなく悲しい。


俺にとってただの女の子だった君が、45口径の銃弾によって俺のブラック・ダリアに変えられた。

おやすみ。俺のブラック・ダリア。

俺が生きている限り、心のどこかに存続し続ける君は俺のブラック・ダリア。

せめて君の好きだった料理を作り続けよう。

生きていたらきっと忘れてしまった君を、俺は永遠に覚えている。








21世紀にやってきた時代遅れのサイバー・パンク。

頭と頭をコネクターで接続しよう。

君も僕も関係ない。

そうさ、世界平和の究極は、人類の意識を統合するべきだ。

誰も彼もが寂しくて、夕暮れの雑踏をかきわけて、時間いくらの寝椅子で憂鬱を語る。

ありとあらゆるネットワークに接続して、スタンドアローンの恐怖から逃れよう。

そうさ、世界はネットワークに接続している。

ネットの動向に配慮して、意識と見解を共有化するべきだ。


オフラインでは何も語らず、接続を切れば何も聞かず。

アバターの影に隠れて、世界に接続している安心感に寄り添う人類。

スタンドアローンに怯えて世界に接続しているくせに、オフラインでの接触は拒絶する。


21世紀にやってきた、時代遅れのサイバーパンクな夢を見た。


ファッショナブルに、そして21世紀風にモディファイされたモリイのフィギュアが、でっかいプラグを手にして囁く。

「ボストンには飽き飽きしたよ子供達。プラグを頭に差し込んで、猫母さんとアトランタ以前に帰ろうよ」

「愛してないぜ。猫母さん。プラグを自分に突っ込んで、永久に自分で自分を慰めな」

人の類にサヨウナラ。

誰とも接続なんかされたくない。

ウィンター・ミュートがどこかでゲラゲラ笑ってる。

「おまえらは、そういうふうに結線される」


ログにも残らず、儚く消えゆく言葉を口にしよう。

そっと耳を傾けるのは君。

スタンドアローンの君と俺。

だからログには残らない、儚い言葉を口にしよう。