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・日本人が浪費を控えてきたのは、経済を知らないからなのか?

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☆日本人が浪費を控えてきたのは、経済を知らないからなのか?

2024年のゴールデンウイークの人出が航空会社2社の旅客数(国内・国際線)、JR6社の利用者数(新幹線・在来線特急)ともにコロナ前の18年に及ばなかった。企業収益が過去最大を更新し続け、賃上げや株高にも反映されているなかで、消費者の円安や物価高を受けた「節約意識」が人流の回復に水をさす形となったとされている。


節約意識だとはいえ、実際には消費者はコロナ期に積み上がった貯蓄を取り崩して支出に回している。2023年には3兆~6兆円を食品や衣料などへの支出にあてた。

第一生命経済研究所の星野卓也氏によれば、コロナ貯蓄は22年10-12月期の47.9兆円をピークに23年10-12月期に41.9兆円まで減少したとされている。一方で、内閣府の貯蓄率をもとにした試算では3.4兆円程度のようだ。

物価高で生活必需品が値上がりしているため、自由に使えるお金が減っている。消費者物価指数を考慮した実質可処分所得は23年10-12月期に年換算288兆円と、14年10-12月期以来の低水準となった。家計調査では物価を考慮した実質消費支出が13カ月連続で減少した。物価高はその後も続いている。

世帯別の貯蓄率では、高齢の無職世帯の貯蓄率の低下が目立った。また、平均年収500万円未満の勤労世帯の貯蓄率が低下傾向にあった。一方、平均年収1000万円超の層では貯蓄率は依然として高く、足元で上昇傾向だった。全体の実質可処分所得が減少しているなかで、貧富格差が一段と広がっているのだ。


こうした「節約意識」を日本経済停滞の主因だとしてきたのは、「マインドに訴えかける」金融政策を採った黒田日銀だった。もっとも、実際にはマイナス金利政策や、資金供給量を数倍にする量的緩和、ETF購入などの「前代未聞の力技」を行ったのも黒田日銀だ。当初、私はそうしたアベノミクスを前向きに評価していたが、後に矛盾する政策を採り始めたので、騙されたとまで思っている。

2013年8月当時のコメントから引用する。


(部分引用ここから:URLまで)

先週、英中銀は失業率が少なくとも7%に低下するまでは政策金利を史上最低水準に維持すると表明した。米連銀は失業率が6.5%以下、インフレ率が2.5%以上になるまでは超低金利政策を続けるとしている。日銀も異次元緩和継続を表明している。

黒田日銀総裁は8日の金融政策決定会合後の記者会見で、政府が検討している2014年4月の消費税引き上げに関して「必要があれば金融政策の調整はもちろん行う」として、景気が悪化し物価目標の達成が危うくなった場合、追加の金融緩和を実施する考えを示した。

黒田氏は消費税引き上げを見送った場合の影響について、「財政規律のゆるみなどの懸念が長期金利の上昇に跳ね返ると、金融緩和の効果は減殺され、間接的に金融緩和の効果に悪影響を及ぼす」と、指摘。見送り論をけん制した。景気の現状に関しては「所得から支出へという前向きな循環メカニズムが働き始めているのは確実」との認識を示した。


私は黒田日銀の異次元緩和を支持するものだが、上記の発言は突っ込みどころが満載だ。財政の悪化とは、歳入に見合わない歳出を意味する。「財政規律のゆるみ」は、政策担当者のゆるみであって、どんなに国民が負担しても、「ゆるみ」は是正されない。他国の財政でも、我々の家計でも、そういったゆるみは、通常、歳出削減によって是正されるものだ。規律と歳入(税収)とは、基本的に無関係だ。

また、これまで「所得から支出へという前向きな循環メカニズム」が働かなかったのは、所得減の環境下で支出増を控えてきた「家計の規律」がゆるみなく働いてきたためだ。若者たちも、安定雇用、所得増が見込めないなかで、結婚や出産を先送りにし、車なども買い控えてきた。マスコミはそういった「規律」を、草食化などとも表現した。

前向きな循環メカニズムは、安定雇用、所得増が達成されて期待できるものとなる。そうでない支出増は「規律のゆるみ」でしかない。規律のゆるみで財政が悪化したように、規律がゆるめば家計も破たんする。ポイントは所得増が達成されるかどうかなのだ。そして、そのカギは政府や日銀の政策が握っている。

名目の所得増を浸食するのはインフレと、増税だ。量的緩和は通貨安を意味するので、相対的に何かの価格は上がる。モノか資産のインフレが来る。当面はどちらも来ている状態だ。

つまり、インフレ率を上回る所得増がなければ、「前向きな循環メカニズム」は働かない。この状況下で、予想インフレ率より確実に可処分所得を減少させる増税で追い打ちをかけるタイミングかどうかは、慎重になって当然なのだ。私は経済成長による歳入増で、増税の必要性そのものがなくなることを望んでいる。財政でも家計でも、収入増を図ることが、再建への常道だと思うからだ。

黒田氏の発言を論理的に分析すれば、政府による「財政規律のゆるみ」を国民に負担させ、負担増に苦しむ「家計規律のゆるみ」によって財政再建を図るものと理解することができる。これでは、緩みっぱなしだ。


それでも、私は黒田日銀の異次元緩和を支持している。いったん緩んだ箍を一朝一夕に締め直すことは困難だが、量的緩和(通貨安、円安)による所得増は短期間で達成できる「劇薬」だからだ。低体温症に至っていた日本経済にはこれしかないほどの「良薬」だったかと思う。米英の中銀のように、金融緩和は効くまで続けることが望ましい。

効くまで続ければ、経済成長、業績拡大、雇用増大により、歳入増と社会保障費の削減が同時に達成される。前向きな循環メカニズムが、規律を保ったままで達成される。これがメリットだ。

通貨の過大供給による最大のリスクは、インフレだ。所得増を超えるインフレとなれば、可処分所得が減少し、やがては景気後退に結び付く。資産インフレの場合は、持つ者の所得は増大するが、持たざる者との格差が拡大する。それでも、持たざる者も安定した職と、所得増を得られる可能性が高まるので、低体温症による経済死よりは、余程いいかと思う。

参照:金融緩和政策のリスクとリターン(2013-08-12)


上記のコメントでは、「黒田氏は消費税引き上げを見送った場合の影響について、『財政規律のゆるみなどの懸念が長期金利の上昇に跳ね返ると、金融緩和の効果は減殺され、間接的に金融緩和の効果に悪影響を及ぼす』と、指摘。」したが、その後のデータが示しているのは、直接的に金融緩和の効果に悪影響を及ぼしたのは消費増税だった。

2014年と2019年の2回の増税によって、消費税率はコメント当時の5%から10%に倍増した。これは可処分所得の減少を意味する。これが毒にも薬にもなる異次元緩和の好影響面を打消し、悪影響面だけを残した。日本経済が順調に成長していた1988年度まではゼロだった。これは拙著で詳しく述べているので繰り返さない。

社会保険料の国民負担も当時の約3倍となっている。しかもこれは今後も上げ続けることが不可避となっている。先日には、65歳以上の24~26年度の介護保険料負担が全国平均3.5%増となることが明らかにされた。

アベノミクスは政府債務や日銀のバランスシート悪化を伴う劇薬だった。それでも、低体温症の日本経済を救うにはこれしかないと私は支持していた。しかし、それは政府が消費増税を行いたいがために一時的に景気を浮揚させるための手段として使われた。詐欺的だったとさえ言える。

私は日本経済の衰退を1989年度の税制改革を主導した「政治的な正しさ」だと見ているが、アベノミクスはそれを異次元的に推し進めた。現在の植田日銀はその後始末を迫られている。現状での金融政策は打つ手に乏しく、経済政策のもう1つの柱、財政政策には期待すら持てない。

とはいえ、日本経済に絶望する必要はない。何故なら、政策担当者たちがダメでも、生活に直面している日本の消費者たちは経済の実際を良く知り、健全で賢明だからだ。逆風が人を強くすると信じたい。

 

 


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