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・高インフレの罪、罰を受けるのは弱者

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☆高インフレの罪、罰を受けるのは弱者

2023年の春闘賃上げ率は3.67%だった。輸入物価高騰などによる原材料コストの上昇を企業が販売価格に転嫁したため、その粗利益が増えたからだ。

それに先立つ3月の現金給与総額は前年比0.8%増の29万1081円だった。所定内給与は0.5%増、残業代など所定外給与は1.1%増だった。一方で、インフレ率で調整した実質賃金は前年比2.9%減と、12カ月連続でマイナスとなった。

代表的なインフレ指標である消費者物価指数は4月に前年比+3.5%だった。3月の+3.2%から加速した。総合指数から生鮮食品価格を除いたコア指数は+3.4%と、+3.1%から加速した。そこから更にエネルギー価格を除いたコアコア指数は+4.1%と、+3.8%から加速した。

これらが示しているのは、インフレ率が高いので日本人の生活は苦しくなっているが、それでも給与所得者は賃上げにより多少は緩和されており、春闘を行っている企業の従業員はもっと大きく緩和されていることが分かる。つまり、高インフレは日本人すべての生活を圧迫しているが、その程度は弱者ほど大きいということだ。


また、上記のコアコア指数がコア指数よりも高いのは、エネルギー価格が政府の援助により低下したためだ。しかし、西村経済産業相は19日、電力7社が申請していた6月からの家庭向け電気料金の値上げを認可した。

各社の公表資料などによると、標準的な家庭の6月の電気料金は5月と比べ、北海道で1518円、東北で1621円、東京で881円、北陸で2548円、中国で1667円、四国で1783円、沖縄で2771円上がるという。ロシアによるウクライナ侵攻などで、天然ガス価格が上昇したことなどもあり、発電コスト増の価格転嫁だという。

一方で、欧州ガス先物価格が先週一時、2021年6月以来初めてメガワット時当たり30ユーロを下回った。欧州はロシアによるウクライナ侵攻後LNGの輸入を急ぎ、消費を抑制した。そこに暖冬だったこともあって高水準の貯蔵率を維持している。一方、経済見通しが不透明なことや季節的な要因で、需要は低いままだ。欧州ガス先物価格は22年8月に340ユーロ台にまで上昇したが、今はその1割もなく、ウクライナ侵攻前よりも安い。

天然ガス価格の値下がりを受け、東北電力は5月18日、7月下旬に出荷されるスポットLNGを100万BTU当たり10ドル弱の価格で購入できた。同社が12月着分で購入した価格の3分の1の水準だったという。


以下は東京電力のホームページから。

「2023年春季労使交渉の妥結について 2023年3月16日
東京電力ホールディングス株式会社
東京電力フュエル&パワー株式会社
東京電力パワーグリッド株式会社
東京電力リニューアブルパワー株式会社
東京電力エナジーパートナー株式会社

2023年度の年収水準等について、本日、東京電力労働組合との間で、次のとおり妥結しましたので、お知らせいたします。

<妥結内容>
○年収水準
    年収水準3%引き上げ」


+3.4%~4.1%の高インフレで苦しんでいるのは大企業の従業員も同じだ。賃上げは必要だと言っていい。しかし、それが販売価格の上昇にも繋がっているとすれば、ここでも弱者いじめが行われていることになる。


最後に、実質賃金と名目賃金について、拙著の該当箇所から引用しておく。

(引用ここから、URLまで)


9、世界から乖離していく日本の実質賃金

図11:実質賃金指数の推移の国際比較(出所:全労連)
  

図11は、1995年以降の実質賃金の推移の国際比較だ。赤色の折れ線グラフが日本の実質賃金の推移。その他が主要先進国のものだ。世界の国々で実質賃金が程度の差こそあれ上昇していくのに対し、日本だけは低下していくことが見て取れる。

この図11は、日本の実質賃金がピークだった1997年を基準として作成されているが、本書の読者は既に、1997年が日本経済のピークでもあったことを知っている。

前項では、正規雇用から非正規雇用への雇用形態の移行が企業業績の悪化に繋がっていることが示唆されていた。同時期に、実質賃金が下げ続けたことを鑑みると、押しなべて労働者をコストと見なす労働者軽視が企業業績の悪化に繋がったことが見えてくる。そして、それが企業投資の縮小、労働者の購買力低下を通じて、景気後退に繋がったのだ。

しかしこれでは、景気後退と労働者軽視のどちらが先に来て、スパイラル的に日本を貧しくしたのかは分からない。「鶏が先か、卵が先か」なのだ。

とはいえ、読者の方々は1997年が消費税率を3%から5%に引上げた年だということも知っているはずだ。そうした因果関係を突き詰めていくと、1989年の消費税導入、1997年の税率引上げからすべてが始まっていることが分かる。つまり、消費税が個人消費の低迷と企業業績の悪化を通じて、景気を後退させ、それが人件費削減に繋がったことになる。その後は、デス・スパイラルだ。

これで、消費税が日本を繁栄から崩壊へと転じさせたことが分かるのだ。また、そうして日本人が貧しくなった結果、中流以上をメインターゲットとしてきたデパートなどが衰退し、100均を含むディスカウント・ショップの時代となった。

そのデパートが頼ったのが、非課税のインバウンド消費だ。確かに、諸外国では所得が増え続けてきたので、海外に出かけてショッピングすることができた。とはいえ、インバウンド消費でデパートが儲けても、法人税は前述のように低く、もともとインバウンドの消費税は免除されている。これでは、社会保障制度の維持を約束する税収は増えないわけだ。

図11では、諸外国の実質賃金が順調に増え続けているのに対し、日本だけが減少していく。こうした乖離は前述の図01でも目にした。歳出が増え続けていくのに対し、税収が減っていったことだ。そのため、財政赤字が急拡大し、公的債務が増え続けることになった。この日本財政の分かれ道は、1990年度、消費税を導入した翌年だった。総じてマクロ経済的には1989年頃を境に、日本は全く別の国になってしまった。そして、それを決定づけたのが1997年頃だ。消費税はそうした日本経済の没落の要所、要所で、ポイントとなってきたのだ。


10、名目賃金のターニングポイントも消費増税と一致

図12:給与の推移(出所:厚生労働省)
  

図12は1981年から2018年までの日本の名目賃金を、前年比での増減の推移で示している。黒色の実線で表したのが現金給与総額のもので、点線の折れ線グラフが所定内給与のものだ。所定内給与とは基本給のこと。ボーナスや残業代は含まれない。

名目賃金とは現金給与総額のことで、給与が増えても、その増加率をインフレ率が上回ると、実質的には貧しくなる。そこで、現金給与総額をインフレ率で調整して見たものが前図11の実質賃金だった。図11では日本の実質賃金の下落が見られたが、仮に現金給与総額が増えていても、それ以上にインフレ率が上昇していれば、実質賃金は減少することになる。つまり、前図11だけでは、現金給与総額の増減は分からない。

図12を見ると、黒色の実線で表した現金給与総額も、点線で表した所定内給与も基本的に減少し続けてきたことが分かる。後述の図19ではインフレ率の低下が分かるので、その意味では名目賃金の減少は実質賃金の減少以上だったことになる。

もっとも、前図11は1997年の実質賃金を100として指数化しているのに対し、図12は前年比での増減を表している。このことは、前年が急増した次の年は減少しやすく、前年が急減した次の年には増加がみられやすいことを意味している。

実例を上げれば、図12に見る2009年は前年比マイナス5%だった。仮に2008年を指数化して100とすれば、2009年の指数は95となる。2010年はそこから前年比プラス1%だった。つまり95+95X0.01で、96弱となったに過ぎない。2年前の100と比べるとまだ4余り低水準なのだ。

このことを確認するために、前図11を見て頂きたい。こちらはインフレ率で調整されているが、それでも2010年は2008年の水準を未だに回復できていないことが分かる。図12に見られるような賃金の「底打ち感」は、ちょっとしたグラフのマジックと言えるのだ。

この図12にはあえて消費税の矢印を入れていない。1989年と1997年、2014年のところを見て頂きたい。点線で見る本給を示す所定内給与より、実線で見るボーナスや残業代などを含む現金給与総額の方が下げ幅が大きいことが見て取れる。これはボーナスや残業代などが景気後退をより強く反映することを意味している。

このことは正規雇用よりも、非正規雇用の方が景気後退の影響をより強く受けることも示唆している。

参照:日本が幸せになれるシステム・65のグラフデータで学ぶ、年金・医療制度の守り方(著者:矢口 新、ペーパーバック版)
 

 

 

・Book Guide:What has made Japan’s economy stagnant for more than 30 years?/ How to protect the pension and medical care systems (Arata Yaguchi: Paperback)

・Book Guide:What has made Japan’s economy stagnant for more than 30 years?/ How to protect the pension and medical care systems (Arata Yaguchi: Kindle Edition)

 

・Quiz Book:What has made Japan’s economy stagnant for more than 30 years?: 57 questions to reveal the problems of the Japanese economy (Arata Yaguchi: Kindle Edition)

 

・著書案内:日本が幸せになれるシステム: グラフで学ぶ、年金・医療制度の守り方(著者:矢口 新、ペーパーバック版)

 

・著書案内:日本が幸せになれるシステム・65のグラフデータで学ぶ、年金・医療制度の守り方(著者:矢口 新、Kindle Edition)
 

・著書案内:日本が幸せになれるシステム問題集・日本経済の病巣を明らかにするための57問(著者:矢口 新、Kindle Edition)




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