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☆国際法人税改革の動き

ここ数十年の世界的な著しい貧富格差の背景には、物言わぬ大衆への課税を強化し、雄弁な強者への課税を緩めてきたことにも大きな原因がある。

前世紀後半に世界的に消費税を導入した一方で、所得税の累進性を弱め、法人税率を引き下げてきた。雄弁というのは例えではなく、ロビイストやフィクサー、外圧などを通じて、強者の意見を強く反映する政治を進めてきたのだ。

参照図01:世界の地域別法定平均法人税率の推移(出所:OECD)
 

その結果として貧しくなったのは世界の中産階級以下の一般国民だけではない。税収減となった多くの国の政府も貧しくなった。そして、貧しくなった政府が借金を増やし、サービスを低下させたことで、中産階級以下の一般国民はさらに暮らしにくくなった。一方で、一部の企業や個人は、一部の国家以上の富や権力を有するようになった。

そのこともあって、多くの国々で社会が不安定になっている。欧州では極右、中南米では左翼が台頭し、これまでの政権への不満を表明した。紛争や暴力的なデモが頻発する国も多い。

そこで、世界的な法人税改革の試みが始まっている。以下にロイターの記事を引用する。


(引用ここから、URLまで)

経済協力開発機構(OECD)は18日、国際的な法人税制改革によって世界の政府に総額約2500億ドルの追加歳入がもたらされるとの試算を発表した。これは従来の試算を上回る。

140カ国近くが2024年の法人税改革実施に向けて準備を進めている。

改革の柱は2つあり、1つは巨大IT企業を含めた多国籍企業の超過利益の25%を、サービスを提供する顧客がいる国に割り当てる仕組み。当該企業の拠点とは関係なく配分する。

第2の柱は世界共通の法人税として最低税率15%の導入だ。法人税率の低い国で計上された利益に対し、各国政府が自国の水準に上乗せした税金を徴収できる。

OECDはこの最低税率によって国際法人税の9%にあたる2200億ドルが得られると試算した。従来の試算は1500億ドルだった。

一方、1つ目の柱となる課税の再配分は、多国籍企業の超過利益の2000億ドルが対象になると試算。従来は1250億ドルと試算していたが、多国籍企業の利益が増えたことが増加の主因としている。

第2の柱では130億─360億ドルの税収になると試算されている。

OECDは最新の分析で、低中所得国が課税の再配分で最も大きな利益を得られると指摘した。

参照:国際法人税改革で歳入2500億ドル増も=OECD


法人税率が上がる、あるいは富裕層への課税を強化することは増税だ。だから、経済が悪化する、皆が平等に貧乏になると指摘する人たちがいる。しかし、現在よりはるかに法人税率が高く所得税の累進性も高かった1980年代の日本は、世界一の経済だとも言われ、競争力も高く、豊かだった。

私は日本が経済成長を取り戻し、競争力を回復し、個人も企業も国家も豊かになるには、1988年以前の税制に戻すことが不可欠だと見なしている。

以下に拙著から、該当する個所を引用する。


(27項「One For All, All For Oneの虚実」から引用、URLまで)

では、所得税が88%の高率で当時の高額所得者たちは不幸せだったのだろうか? 例えば、課税年収が1億円だと、社会保険料を無視して1,200万円が手元に残る。2億円で2,400万円だ。10億円になると1億2,000万円が残る。これではやりがいが削がれるだろうか?

当時の日本人はやりがいを削がれることなく高度経済成長を成し遂げ、バブルにまで至った。多くの人々が浮かれて遊び惚けるようなこともあった。経営者は自分の報酬を増やしても9割近くを税金に取られるので、設備投資を行い、人件費を上げ、「One For All, All For One」ではないが、会社全体が一丸となったチームとして事業に向かうことができたのだ。前述の図09で示した失業率も2%前後と低く、前図10に見る雇用形態の推移では、従業員の8割以上が正規雇用で安定していた。チームに奉仕するマインドを育成するには、より平等な環境づくりが肝要なのだ。

1989年以前の日本企業が強かったのは、労使間がより平等だったからだ。そして、所得税の累進課税がそれを促していた。現状のように非正規雇用の割合が高く、経営者が従業員平均の何倍、何十倍、米国式では何百倍もの報酬を持っていく環境では「One For All, All For One」は経営者に都合の良い掛け声にしか聞こえない。

東洋経済の調べでは、2019年度の武田薬品工業の役員平均報酬は従業員平均年収の55倍強で、日本一の倍率だったという。一方で、同社は同じ年に大量の人員整理を行っている。また、米労働総同盟産別会議によれば、米主要企業500社のCEOが2018年に受け取った平均報酬は、一般従業員の287倍だったという。

参照:日本が幸せになれるシステム・65のグラフデータで学ぶ、年金・医療制度の守り方(著者:矢口 新、ペーパーバック版)


「日本のドラッカー」と呼ばれたという一倉定はその「マネジメントへの挑戦」で以下のように述べている。(参照:マネジメントへの挑戦、著者:一倉定、日経BP、P249とP254から抜粋)

「労働のもっている“はたらき”とはなんであろうか。それは、
付加価値を生み出す
ということなのである。

労使の利害は完全一致する

“付加価値を一定の割合で労使に分配する”のであるから、労使とも、もはや分配に対する争いはする必要がない。そして労使とも、自分の有利になることは、付加価値そのものを大きくすることなのだ。」

一倉定が「日本のドラッカー」と呼ばれたのは、ドラッカーも同じような指摘をしているからだ。このことは、労使の利害が完全一致するような報酬システムを導入すれば、付加価値の創造が最大化することを示唆している。それを個々の企業の試みに任せるのではなく、所得税の累進性を高めることで、全企業に促すのだ。


10人の億万長者が1年に100台の車を買っても、年間1000台しか売れない。しかし、1億人が10年に1台買うだけで、年間1000万台も売れる。そのためには、1億人が相応に豊かになる必要がある。貧富格差は経済成長を阻害するのだ。そして、貧富格差拡大の大きな原因は、1億人から徴収する消費税率を引き上げ、億万長者からの徴収を下げてきたことなのだ。

法人税とは、所得税の企業版だ。ここでも消費税は事業全般のコストを引き上げることになる。日本経済は消費税導入の翌年の1990年度から減速を始め、税率を5%に引き上げた1997年度からはマイナス成長となった。つまり、売上が減少していく中で、コスト増となり、人件費や設備投資、研究開発費などを削ることになったのだ。私は日本没落の主因を1989年の税制改革に見ている。

現在、その試みが始まっている法人税率の引き上げ、あるいは富裕層への課税強化は増税だ。だから、経済が悪化する、皆が平等に貧乏になると指摘する人たちがいる。増税だけだと、その通りだろう。のみならず、増税による景気後退で、日本はさらに貧しくなり、1990年度以降に見られたように、税収も減る。これを防ぐには同時に消費税を撤廃することだ。

1980年代の日本は、現在よりはるかに法人税率が高く所得税の累進性も高かった。しかし、消費税がなかったために、経済は成長し、企業の競争力も高く、人々も豊かだった。そして、税収も豊かだったために、政府債務も少なかったのだ。

 

 

 

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