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・日銀は利上げできるか?

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☆日銀は利上げできるか?

・世界に新たなインフレ要因が加わった

先週、米FRBは政策金利を0.25%引き上げ、0.25%-0.50%とした。英BOEも政策金利を0.25%引き上げ、0.50%とした。台湾は0.25%引き上げ、1.375%とした。ブラジルは1.0%引き上げ、11.75%とした。

米の利上げは2015年12月以来。英は2017年11月以来。台湾は2011年7月以来。ブラジルは9会合連続だ。先週に限らず、この4カ国に限らず、世界の中央銀行は利上げラッシュとなっている。理由は世界的な高インフレだ。

ディスインフレが続いてきた日本でも、連日のように製品価格の値上げが報道されている。2月の企業物価指数は前月比+0.8%、前年比+9.3%だった。

そこに、2月24日にはロシアがウクライナに侵攻したため、更なるインフレ率の上昇が見込まれている。

プーチン大統領はインフレを「人質」にしたとも言われているが、これは正確ではない。戦争中のロシアは原油や天然ガスを安値でも売って、少しでも戦費を賄いたいのだが、米国などが世界に買わせないように制裁しているからだ。ロシアは外為市場からも締め出されたために、売ろうにも決済ができない。その意味では、インフレを「人質」にしたのはバイデン大統領だ。

いずれにせよ、世界市場からロシア産、ウクライナ産が少なくとも今後しばらくは消えることがほぼ確実なのだ。これが更なるインフレ率上昇の主要因だ。

ロシアはサウジ、米国に次いで世界第3位の産油国、輸出国としてはサウジに次ぐ第2位だ。天然ガスは米国に次ぐ世界第2位の産出国、輸出国としては第1位だ。

世界市場における小麦のシェアは約23%、ウクライナを合わせると約34%にもなる。大麦の両国合わせたシェアは約27%、コーンは約18%だ。ひまわり油だと72%を超える。

1970年に公開された映画「ひまわり」では、スクリーン一面に広がるロシアのひまわり畑が印象的だった。とはいえ、ウクライナのひまわり油のシェアは世界の50%に近いので、もしかすると、これはウクライナだったかも知れない。何しろ、当時のウクライナは、外から見ればロシアのウクライナ地方という認識だったので。

希少資源では、半導体に使うクリプトンの8割、ネオンの7割を両国に依存している。パラジウムは4割、ニッケルは1割だ。金の埋蔵量でもロシアは世界の14%を占めている。

インフレ率上昇の要因は、これらが世界市場から消えることだけではない。例えば、日本から欧州への飛行ルートは、ロシア上空を飛べなくなったため、ANAは南回りで中国、トルコの上空を飛ぶ。JALは北回りでアラスカ、グリーンランド上空を飛ぶ。このコストは2倍増になると言う。これらに限らず、随所で輸送コストも上昇するのだ。

我々が住む、米国主導の世界市場から消えるのは、もしかすると、もっと多いかも知れない。何故なら、米国が経済制裁をかけている国は約20カ国もあるので、その国々がロシア側になると、2つの世界になるからだ。米国がロシアを外貨決済システムのSWIFTから排除したことは、それくらい大きな意味を持つことなのだ。

それに加えて、今のところロシア制裁に加わっていない、中国やインド、中東諸国が、仮にロシア側に加わると、世界の様相は一変してしまう。その可能性もゼロとは言えないのではないか? 何故なら、米国側に留まるといつまでも一兵卒だが、ロシア側に行けば共同で幹部にもなれるからだ。

いずれにせよ、飛行ルートが象徴しているのは、最適を追求する時代が終わったかも知れないことだ。少なくとも、当面は不自由をしのぶしかない。現状の値上げラッシュは、今後も続くのだ。

ウクライナ戦争が出来るだけ早く終り、犠牲者が少しでも減ることを祈っている。


・本当のインフレ要因

もっとも、米英の利上げが去年から決まっていたように、ブラジルが9会合連続で利上げしているように、日本の2月の企業物価指数が前月比+0.8%、前年比+9.3%だったように、インフレ率の上昇はロシア制裁によるものではない。ロシア制裁が加速させるだけだ。

インフレの主要因は世界的に長く続いた超緩和的な金融政策と、超大型の財政支出だ。その点では、十分に予測されていたインフレなのだ。それに加えて、円安も日本の輸入物価を上昇させる。

2022年1月と2月の貿易赤字は合わせて2兆8618億円と、2カ月間で2021年通年の赤字額1兆4759億円の2倍近くとなった。貿易赤字とは、輸入に要する円売り外貨買いが、輸出で得た外貨売り円買いを金額で上回るということなので、根っこの円安圧力となる。

実際に、2010年まで貿易黒字でいた間は根強い円高圧力があったが、2011年に天然ガス輸入急増などで赤字に転じてから、円高トレンドは終わった。2015年以降の貿易収支は概ね均衡していたが、2022年はエネルギー価格や食糧価格の上昇などで、大幅な赤字となる可能性が出てきた。

これは円安を示唆し、更なる輸入物価の上昇、コスト高、高インフレを示唆する。

また、その昔、日本経済が米国を脅かすと言われていた頃、有事と言えば「ドル買い」だった。つまり、ドル円は上昇し、円は売られた。有事に、「経済的に強い」はずの円は売られたのだ。

その日本経済は1997年度を境に成長を止め、日銀の政策金利も1997年3月に0.51%を付けたのを最後に、0.50%以下で推移するようになった。そして、次第に有事と言えば「円買い」だと言われるようになった。有事に、「経済的に弱い」円が買われるようになったのだ。

これは国内に投資物件がなくなったために、海外投資を増やしたためだ。そして、世界一の債権国とも言われるようになった頃から、有事には「為替ヘッジ」による円買いが出るようになったのだ。

とはいえ、有事でいったん海外投資を反転したり、為替ヘッジをかけても、国内に投資物件がないことには変わりがない。資本収支ではトレンドが円高に向かうことはなかったのだ。

今、海外の利上げラッシュにより、円とその他通貨の金利差は広がる一方だ。このことは、資本収支を見ても、円安圧力が強まっていることを意味している。

つまり、日本は世界的なインフレに加えて、円安によるインフレの可能性が高まっている。


・日銀は利上げできるか?

日銀は3月18日の記者会見で、短期金利を-0.1%、長期金利の指標になる10年物国債の利回りを0%程度に誘導する長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)の維持を決めたと発表した。また、株式のETFを年12兆円を上限に、必要に応じて買い入れる資産購入策も維持した。

つまり、コロナ対策で倍増させたETF購入枠を含め、これ以上は望めない超緩和的金融政策を継続する。

一方で、原油など資源価格が大幅に上昇していることから、「今後の動向には注意が必要だ」とインフレ警戒感を示した。同時に、「オミクロン株」の感染拡大を受けた国内景気や個人消費の基調判断を下方修正した。

つまり、インフレと景気後退とが同時進行するスタグフレーションの懸念も表明したことになる。

このことは、世界的なインフレに、円安が加わった日本で、超緩和的金融政策を継続することは異例なのだが、景気が弱いために利上げができないこと意味している。

では、仮に利上げをすればどうなるか?

前述のように、日銀の政策金利は1997年4月以降、0.50%以下で推移、2016年1月からはマイナス金利政策を導入した。

また、2022年2月時点の資金供給額は670兆4859億円で、1997年4月の50兆4275億円から13.3倍に増えた。この資金供給額を直近の名目GDP536兆2635億円(2020年度)と比較すると、1.25倍だ。1997年度の名目GDPは542兆5005億円なので、当時の資金供給量は経済規模の9.3%でしかなかった。

このことは、マイナス金利も資金供給も、経済成長には何の効果もなかったことを示唆している。また、ディスインフレ脱却にも効果はなかった。

とはいえ、そんなことがあるのだろうか?

超低金利を20数年も続け、その間に資金供給量を13倍以上して、経済規模がむしろ小さくなるようなことはあり得ない。私見では、これ以上は望めない超緩和的政策があったからこそ、日本経済の落ち込みはこの程度で収まり、住宅価格が回復し、株価もここまで上げたと見ている。

私の見方では、日本経済をボロボロにしてしまったのは、1989年度からの税制だ。これは長くなるので、拙著を参照して頂きたい。

・著書案内:日本が幸せになれるシステム・65のグラフデータで学ぶ、年金・医療制度の守り方(著者:矢口 新、ペーパーバック版)
(Kindle Edition)

・著書案内:日本が幸せになれるシステム問題集・日本経済の病巣を明らかにするための57問(著者:矢口 新、Kindle Edition)


仮に利上げをすればどうなるか?

インフレは海外発だ。日本にはそれほど需要がないので、利上げでさらに需要を減らしても、インフレは止められない。

また、利上げしても貿易赤字は減らず、多少の利上げでは海外との金利差も縮まらない。つまり、円安も止められない。

このことは、利上げを含めて、日銀の金融政策ではもはや日本経済を救えないということだ。

私は日本経済を救う唯一の道は、1988年度以前の税制に戻すことだと見ている。その税制で、日本は世界一の経済だとまで呼ばれたのだから。

詳しくは上記の拙著で。

 



・Book Guide:What has made Japan’s economy stagnant for more than 30 years?/ How to protect the pension and medical care systems (Arata Yaguchi: Kindle Edition)

 

・Quiz Book:What has made Japan’s economy stagnant for more than 30 years?: 57 questions to reveal the problems of the Japanese economy (Arata Yaguchi: Kindle Edition)

 

・著書案内:日本が幸せになれるシステム: グラフで学ぶ、年金・医療制度の守り方(著者:矢口 新、ペーパーバック版)

 

・著書案内:日本が幸せになれるシステム・65のグラフデータで学ぶ、年金・医療制度の守り方(著者:矢口 新、Kindle Edition)
 

・著書案内:日本が幸せになれるシステム問題集・日本経済の病巣を明らかにするための57問(著者:矢口 新、Kindle Edition)




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