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☆ビットコインと通貨の価値

2月3日の日経新聞に、ビットコインについての以下のような記事が載った。


(以下に引用、URLまで)

「支払いが簡単」、「盗まれる心配がない」。中米エルサルバドルの首都、サンサルバドルのスーパーや飲食店では多くの人が暗号資産(仮想通貨)のビットコインで支払いを済ませる。給与の受け取りに使う人もいる。同国は2021年9月、世界で初めてビットコインを法定通貨に採用した。スマートフォンのビットコイン専用アプリを使う人は国民の大半を占める。「見えないお金」で日常が変わりつつあるサンサルバドルの街を記者が訪問した。

参照:エルサルバドル、広がるビットコイン決済 給与受取も


このビデオでは、消費者も商店も、ビットコインでの決済に満足しているように見える。これは我々が使うポイントや商品券でも、裏付けとなるものが法定通貨ならば問題なく流通することで理解できる。

しかし、ビットコインの価値を示すのが米ドルであり、その価値が大きく変動するものであるのなら、消費者と商店の利害は真っ向から対立するはずだ。この点で、日本円と固定価格で流通するポイントや商品券とは全く違う。

そうしたことを受け、上記の記事の10日ほど前には、IMFがエルサルバドルにビットコインを法定通貨として扱うことを止めるように勧告し、フィッチは上記の記事の後にそのことでエルサルバドルを格下げした。


2022年1月25日に、IMFはエルサルバドル政府に対し、「ビットコインの法定通貨としての地位を取り除き、ビットコイン法の範囲を狭めるように」勧告したことが分かった。「金融や市場の整合性、金融の安定性、消費者保護に大きなリスクを伴い、偶発債務を生む可能性がある」としている。

2月9日には、世界3大格付け会社の1つフィッチ・レーティングスがエルサルバドルの債務格付けを、B-からCCCに、2段階引き下げた。BB+以下は投機的水準、いわゆるジャンクなので、投資適格のBBB-まで行くには8段階上がることが必要だ。

引き下げた理由として「政策の予測不可能性」と、「ビットコインの法定通貨への採用」とを挙げた。


これがどういう意味なのか、簡単に説明する。

ビットコインの対米ドル価格は、2021年11月前半に68000ドル以上に上昇した。その後1月下旬には34000ドル以下にまで低下した。つまり、3カ月も経たないうちに価格は半減した。
参照図01:
 

これをトレーディングの対象と見るならば、何の問題もない。短期間でこれだけの利益が上げられる可能性があるからだ。損切りルールさえ守れば、リスクも限定できる。

しかし法定通貨とすれば、これは、ドル円115円だったものが、短期間で230円になるようなインパクトがあることを意味する。日常的に通貨危機に見舞われるような状態となるのだ。

これが法定通貨として、例えば給与で支払われると、毎日の買い物が投機的となる。毎日が実質的な値下げや値上げなので、買い溜めや買い控えも当たり前となる。そうならない場合とは、1ビットコインは1ビットコインだとして、世界的な価値の変動を知らないだけなのだ。

また売り手の方も、米自動車メーカーのテスラが行ったように、10万ドルのテスラ社1台をビットコインが25000ドル(テスラが4ビットコイン)の時は受け入れるが、50000ドル(2ビットコイン)の時には停止するような、それだけで売上が2倍となるような芸当が許されるならばいいが、法定通貨として、受け入れを義務付けられると、毎日、毎月の売上が、ビットコインの価格変動に連動するようになる。

そんなことはない。10ビットコインの売上は10ビットコインだと思っている企業は、米ドルに交換して巨利を貪ることができる本当の価値を知る者に食い物にされているだけなのだ。

仮に社会全体がビットコインの価値を知れば、ビットコインが高い時には、消費者が殺到して、企業や商店の破綻が増え、安い時には消費者はインフレでモノやサービスが買えないことも起こりうるのだ。これが、「金融や市場の整合性、金融の安定性、消費者保護に大きなリスクを伴い、偶発債務を生む可能性がある」とされる理由だ。


このことに関連する個所を拙著から引用する。

(引用ここから、URLまで)

46.通貨の価値

図48:通貨の価値を決める要素
  

図48は長年為替ディーラーとして働いた私が、投資家の方々などのために通貨の価値とはなにかを解説するために作成したものだ。本書で述べてきたインフレ率や財政収支を理解するうえで、通貨とはなにかを解説する必要性を感じている。

私が見る通貨の本質的な価値は流動性だ。流動性が高いとは、いつでもどこでもどんな量でもより安定的に売買できることで、別の表現では「使い勝手が良い」ことだ。その流動性を支える4つの要素が発行国が提供する信頼感、貿易における決済機能、金融市場の開放性と大きさ、そして、闇市場を含め誰にでも受け取ってもらえる利便性だ。

また、支払手がある通貨を使いたくても、受取手が拒否すれば使えない。あるいは受け取ってもらえても、たとえば海外旅行などで経験するように、米ドルでの支払いよりも、日本円での支払いが高くつくようなことも起きる。双方が通貨の価値を認める必要があるのだ。

そして、一度確立された高い流動性は、その利便性ゆえに、常に新たな流動性を呼び込むことになる。その意味で具体的な通貨を挙げるとすれば、米ドルの地位は揺るぎそうにない。

現時点での暗号通貨も流動性に欠けている。取引所内で流通していることを除けば、現時点でモノやサービスの提供者が暗号通貨での支払いを受け入れていても、それがいつまで続くかの保証はない。仮に商業取引で誰も受け取らなくなると、取引所の外では突然無価値になるというリスクを抱えている。商店やメーカーが暗号通貨のように価格変動の大きなものを受け入れると、売上高や利益が大きく振れることになるので、一定量以上は受け取れないからだ。

また、取引所が400を超え、暗号通貨の種類も6000を超えるので、個々のままでは流動性が増す可能性も限られている。その意味では、マイニングやトレーディングで暗号通貨に直接関わっている人以外には、使い勝手が甚だしく悪いと言わざるを得ない。

では、法定通貨ならばどうか?

私は旧ソ連時代にロシアやウクライナ、ポーランドなどを旅行したことがあるが、そこでは闇ドルが流通していた。現地の人々にとってさえ、現地通貨では買えないものが多かったのに対し、米ドルでは多くのものが買えたからだ。当時のルーブルやズウォティは、国の内外で米ドルより流動性がなかったことになる。「信頼感」を支える体制が自由取引を阻害し、経済力が大きく劣っていたことが流動性欠如の最大の理由かと思われる。

通貨の本質的な価値は流動性だ。使い勝手が良く、支払手と受取手の価値の合意が容易であれば流動性は高まる。それには、信頼できる国家が発行し、貿易や金融市場で安定して使用できることが大きな得点となる。そうした流動性が高いと、闇市場でも使い勝手が良く、そのことがまた流動性を高めることになるのだ。

では、そうした観点から価値の低い通貨とはどういったものだろう。

まず、インフレ率が高い通貨だ。インフレ率とは、通貨の購買力を表す指標でもあるので、高いインフレ率はそのまま通貨の減価を意味する。

次に、使用する際に他国の通貨への交換を強いられる通貨だ。ドルのように多くの国で使える通貨もあれば、自国以外ではほとんど使えない通貨も数多い。また、貿易や投資においても、自国の規模が小さければ、他通貨への交換を余儀なくされる。このことは、より大きな為替リスクを負うことを意味している。

そして、信用力などにより交換レートが不利になる見込みのある通貨だ。国家が自由な取引を保証し、国家に保証を維持する能力があれば、貿易や資本の取引に安心して使用することができ、また保有することができる。

こうして見ると、膨大な累積赤字や公的債務、また、実体経済を超える資金供給量などは、信用力の低下やインフレ懸念の内在を通じて、通貨の価値を失う要因だということが分かる。

MMT (Modern Monetary Theory) のように、状況次第では財政赤字など気にする必要はないとする説がある。仮にそうであれば、財政赤字削減に必要な税収はいらないことになる。世界各国は徴税など止め、まぎらわしい財政収支の記録や報告など止めて、財政資金はひたすら印刷すればいいことになる。これは日本政府を含め、多くの累積赤字や公的債務を抱える国々には願ってもない考え方だが、はたしてそれでいいのだろうか?

私が知る限りのMMTの要点は以下の通りだ。

1.インフレにならない限り、政府は必要なだけ通貨を印刷し、使っていい。
2.財政赤字は気にしなくていい。政府が発行する通貨は個人資産のように使えば減るものではないからだ。
3.インフレが発生したときは、政府の通貨発行量が多すぎることを示唆しているので、そのときには税金を引き上げて資金を吸収する。
4.政府が課税するのは、インフレのリスクを防ぐためだ。

5.ただし、MMTは自国の通貨を管理している政府にのみ適用され、別の通貨で借りている国では機能しない。つまり、ユーロ圏諸国は自国通貨を持たないので適用できず、2020年にデフォルトとなったアルゼンチンやレバノンなど、外貨建て債務を抱えているところも駄目だという。


とはいえ、法定通貨が通貨として流通しているのは、発行国に信用力があるからだ。その信用力が流動性の基盤となり、通貨の価値を支えている。ある国が必要なだけ通貨を印刷し、貿易や債務などの支払いに充てることを、他国はいつまでも容認するだろうか?

そうして見ると、国が発行する通貨も個人資産のように減るのだ。打ち出の小槌、あるいは手品のように、なにもないところから次々と出てくるのならば、その通貨の減価は避けられない。通貨が増えると信用が減るのだ。その減価は輸入物価の上昇によっていずれは実現化される。

実際、MMTの要点「1.インフレにならない限り、政府は必要なだけ通貨を印刷し、使っていい」は、MMTはインフレを誘発して終えることを示唆している。そのようにして、対外的な信用力の低下からインフレが来たときに、国内だけで増税することはまったく効果がないばかりか、国民の生活を破壊することにつながるはずだ。

32項「純債務残高でみると?」でも述べたように、世界最悪の膨大な累積赤字や公的債務でも日本政府の信用が維持されているのは、これまで国民が積み上げてきた民間資産があるからだ。MMTはその信用力を食いつぶすまでは機能する可能性があるが、それは国民の資産を政府が使い果たすことを意味する。

前項で見たように、2019年まででも世界に財政黒字の国はほとんどなかったが、2020年にそれが悪化したことは確実だ。MMTが私の理解のようなものだとすれば、注目を浴びるようになった背景には、各国政府の「溺れる者は藁をもつかむ」心情を反映しているように思えてならない。

参照:日本が幸せになれるシステム・65のグラフデータで学ぶ、年金・医療制度の守り方(著者:矢口 新、ペーパーバック版

Kindle Edition


上記、MMTの要点「3.インフレが発生したときは、政府の通貨発行量が多すぎることを示唆しているので、そのときには税金を引き上げて資金を吸収する」が、考慮に値するものだとすれば、現状の各国政府は大幅に増税すればいいことになる。

金融引き締めに加えての財政引き締めは、景気を失速させるだけでなく、消費者にとってはインフレと、金利上昇、増税の三重苦となることを意味する。

また、ビットコインの盗難や流動性に関すれば、2月9日のロイターには以下のような見出しの記事もある。
参照:仮想通貨、盗んでも現金化困難 米で未使用36億ドル分押収
 

 

・Book Guide:What has made Japan’s economy stagnant for more than 30 years?/ How to protect the pension and medical care systems (Arata Yaguchi: Kindle Edition)

 

・Quiz Book:What has made Japan’s economy stagnant for more than 30 years?: 57 questions to reveal the problems of the Japanese economy (Arata Yaguchi: Kindle Edition)

 

・著書案内:日本が幸せになれるシステム: グラフで学ぶ、年金・医療制度の守り方(著者:矢口 新、ペーパーバック版)

 

・著書案内:日本が幸せになれるシステム・65のグラフデータで学ぶ、年金・医療制度の守り方(著者:矢口 新、Kindle Edition)
 

・著書案内:日本が幸せになれるシステム問題集・日本経済の病巣を明らかにするための57問(著者:矢口 新、Kindle Edition)




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