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☆金融引き締めに転じた世界

英中銀が利上げした。政策金利を0.15%引き上げて、0.25%とした。オミクロンよりインフレを恐れたとして、2018年8月に0.25%引き上げて、0.75%とした時以来の利上げとなった。

前回はその後のコロナショックで、2020年3月に0.10%に引き下げることになったが、今回は利上げサイクルの始まりだと見なされている。

先週、利上げした諸国は、他に、ロシア、ノルウェー、ハンガリー、メキシコ、コロンビア、チリなどだ。これらの国々は連続の利上げで、既に利上げサイクルに入っていると言える。いずれも、インフレ対策だ。

国連食糧農業機関が算出する世界11月の食料価格指数は1年前より約3割高い。

ここで、日本経済についての質問だ。

質問1:インフレ率の1980年以降のピークはいつか?

質問2:日銀はテイパリングをいつ始めるか?

質問3:日本経済の規模(名目GDP)のピークはいつか?

質問4:日本の税収のピークはいつか?

質問5:日本政府は過去に債務をどのようにして返したか?


回答1:インフレ目標は未達

参照図01:消費者物価指数と政策金利の推移(出所:e-Statと日銀の資料から作成) 



世界的にインフレ率上昇が大問題となっている一方で、日本のインフレ率は今のところ落ち着いている。ピークは1991年、1997年、2008年、2014年だった。

消費者物価指数と政策金利の関係が示しているのは、利下げは消費者物価指数の上昇圧力だということだ。

ところが、消費増税がある度に、ほどなくして消費者物価指数がピークをつけ、ディスインフレに至ることが見て取れる。

消費増税がなくてもディスインフレとなったのは2008年から2009年にかけてで、これはリーマンショックの影響だと思われる。

つまり、日本経済にとって消費増税は、リーマンショック並みに大きなネガティブ・インパクトを与えると言える。


回答2:テイパリングを始めている日銀



米連銀の量的緩和とは、米国債と住宅担保ローン証券の購入による資金供給で、その購入額を3月まで徐々に減らしていくのがテイパリングだ。そしてその後も、これまで購入した資産額は当面の間、維持する。このことは、保有債券の償還などで減った資産は、新規の購入で残高を維持することを意味する。現状では、残高縮小、資金の回収までは決めていない。

一方、日銀は2021年に入ってから、これといった声明なしに、テイパリングを始めている。資金供給量の伸びが減速し、量的緩和の対象物件の1つ、日本株ETFの購入額も減っている。2020年に7.1兆円も買ったものが、今年は1兆円に届かない。

12月17日の金融政策決定会合の記者会見では、黒田総裁は「国債やETFの購入が減少しているものの、現在の大規模な金融緩和政策の縮小や正常化プロセスに入っていることはない」とした。

金融緩和政策の縮小や正常化プロセスへの声明がないのは、米連銀のように目標の達成がないため、説明のしようがないからだと思われる。(前図01参照)

テイパリングとは、参照図02右端の、上昇曲線がなだらかになっていることを意味する。

参照図02:日銀の資金供給量と、日本株の投資家別売買動向(兆円単位)(出所:日本銀行と日本取引所の資料から作成)


図02は多くのものを教えてくれている。

まず、今と経済規模がほぼ同じだった1997年に、経済規模の10%もなかった資金供給量が、今は125%を超えていることだ。

これと前図01と合わせてみれば、金利と資金供給の両面で、限界的な金融緩和を続けていることを意味するが、まったくと言っていいほど効果がないことを示している。

その理由は、消費増税や社会保険料の値上げによる消費減退の悪影響が大きいと思われる。また、マイナス金利政策による資金運用難。金融市場の破壊。預貸ビジネスの否定などで、金融政策そのものが機能を失ったことも大きい。


図02の日経平均のチャート内に記入した、投資家別売買動向にも触れておこう。ここでの注目は信託銀行だ。これは年金だと見ていていい。

もちろん、信託銀行にも銀行部門はある。しかし、メガバンクと地銀全部を合わせた銀行が、兆円単位の売買からもれている中で、数行の信託銀行だけが兆円単位の売買を行うことはあり得ない。つまり、この数値は年金という預かり資産の動向なのだ。

ちなみに、銀行は兆円には届かないだけで、毎年数千億円単位で日本株を売り続けている。これを少なくとも20年近く続けている。これは、2013年に売り手で出ている保険会社も同様だ。個々の理由はあるだろうが、全体としては超低金利政策による運用難から、保有株の益出しを続けている。

その信託銀行が2012年、13年の売り越しから、2014年からは買い越しに転じる。これは、GPIFの日本株の保有比率がそれまで12%(国内債券は60%)だったために、株価の上昇で売るしかなかったところを、25%に引き上げたために、新たな買い余力ができたからだ。

しかし、2017年に表から消える。これも株価の上昇により、保有比率25%を超えてしまい、買えなくなったためだ。もっとも、海外株が上昇を続けているために、出遅れの日本株の比率が下がり、2018年と2019年はまた買えるようになっている。

しかし、2020年にはまた消える。この年の3ー4月には、急落で保有比率が下がり、合わせて1.4兆円買ったのだが、その後の値上がりで売ったために、消えることになった。そして、2021年は11月末までに3.2兆円も売っている。

このことが示しているのは、GPIFは今後も値上がりすれば売り、値下がりすれば買うことだ。この通りにならないとすれば、他の資産(外株25%、外国債25%、国内債25%)価格や円の上下変動により、日本株の保有比率が増減する時だ。あるいは、GPIFの日本株の保有比率そのものが変更になる時だ。

2020年3-4月には、日銀も2.8兆円購入した。このことは、今後も日本株が暴落するようなことがあれば、日銀と年金が大量に買いに来ることを示している。


回答3:成長していない日本経済

日本経済の規模(名目GDP)の最初のピークは、1997年度の533.4兆円だ。2016年度には計算方法の見直しにより30兆円を上乗せして、536.9兆円と過去最大を更新した。

この見直しは5年に1回行われている定期的なものなのだが、2013年以降、政府省庁の数値の改ざんが多発しているので、政府に有利な方向への見直しだった可能性が否定できなくなった。こうした公的な数値の信頼性を危うくする行為は、政府の信頼性を損なうことになると言える。自国民に対してだけでなく、対外的にも。

参照図03:名目GDPの推移(出所:内閣府の資料から作成)


次の図04だとよりはっきりと分かるのだが、日本の経済成長率は、消費税導入後の1990年度から減速し始め、税率を5%に引き上げた後の1998年度からはマイナス成長となる。

2013年度からは、大量の資金供給もあって、はっきりと成長するのだが、税率を8%に引き上げた後は減速し、10%に上げた後は、マイナス成長となる。

また、図03に見られるのは、経済成長が止まっても、個人消費は緩やかながら伸びていることだ。これを見ると、個人の消費マインドがネガティブだから、経済成長が止まったとは言えない。

さらに分かることは、個人消費が伸びても、消費税率分が天引きされることで、実質的な売上額が減り、企業経営を圧迫してきたことだ。


回答4:税収増が見込めない税制

日本の税収が60兆円を超えたのは、1990年度の60.1兆円、2018年度の60.4兆円、2020年度の60.8兆円の3回だけだ。

このうち、2018年度は図01で見たマイナス金利政策と、図02の大量の資金供給を要して達成した。2020年度は170兆円の財政支出だ。

こうした税収以上の支出を続けているために、統計がある1975年度以降から2020年度までの歳出と税収の差額は総額1417.5兆円の赤字となった。

ここでの大問題は、日本の現在の税制では、税収増が見込めないことだ。今後、2018年度の60.4兆円に至ったような未曾有の緩和の継続は期待できず(日銀は既にテイパリングを始めている)、2020年度の60.8兆円を達成したような超大型予算が望めないとすれば、今後は税収が60兆円を超えない中で、25兆円近い国債費を払い、40兆円を超える社会保障費を払いと、この2つだけで、もう税収を超えてしまった。

参照図04が強く示唆しているのは、税収増が見込めない税制が日本を弱くしたことだ。

参照図04:一般会計税収の推移とGDP成長率(前年度比)(出所:財務省と内閣府の資料から作成)


政府は1989年度に消費税を導入した。その年に法人税収がピークをつけた。翌年には総税収がピークをつけた。その翌年には所得税収がピークをつけた。そして、今では消費税収が日本の最大財源となった。これが大問題なのだ。

図01、図03で見てきたのは、消費税が強いデフレ圧力を持つことだ。そして、経済が減速し、マイナス成長にまで至っても、税収は着実に増え続けている。

これを政府は安定財源と呼ぶが、これは苦境の家計や企業から絞りとったものだ。

その結果、アベノミクス(黒田日銀)による未曾有の金融緩和まで、日本経済は停滞することになる。

しかし、政府はそうした再現不可能で、副作用が甚大で、次の世代にリスクを先送りした量的緩和やマイナス金利政策の果実をすら、8%へ、次いで10%への増税で、元の黙阿弥とし、経済規模を、1997年度を下回るレベルにまで破壊するのだ。

経済や企業業績、家計の状態が波打つように浮き沈みするなかで、高い水準で安定したコストほど恐いものはない。そしてその安定とは、同時に、経済や企業業績、家計の状態が良い時にでも、大きな税収増が見込めないことも意味する。

これでは、巨額の政府債務を返せるはずがない。

そこで、日本政府は過去に政府債務をどのようにして返済したかを見てみる。


回答5:MMTはこうして終わる?

財務省が提供する参照図05では、「ハイパーインフレーション発生、預金封鎖、新円切替、財産税、戦時特別補償税等による債務調整」とある。何のことはない。政府は国民の預金まで没収した上に、ハイパーインフレーションで現金の価値をなくしたのだ。

参照図05:日本政府の債務残高(対GDP比)(出所:財務省)


当時の日本は、世界を相手に戦争したために、外貨債務がなかった。また、戦争中は価格統制が敷かれていたため、物価の上昇もなかった。

「昭和17(1942)年の日本銀行法制定により、日本銀行は兌換義務がなくなり、日本銀行券から兌換の文字が消えました。これによって日本は金本位制から管理通貨制度へ移行しました。管理通貨制度とは、正貨(金等)を準備して紙幣の額面価値を保証しなくても、最適と思われる通貨量をきめて、通貨量を管理・調整できる制度で、今日も政府・日銀によっておこなわれています。

戦時体制下の昭和13(1938)年には、通貨需要の増大に対処するため『臨時通貨法』が制定され、金・銀・銅以外の新しい素材の金属によって補助貨幣が発行できるようになりました。
昭和21(1946)年、わが国は戦後激しいインフレに見舞われたため、『新円切り替え』がおこなわれ、新しい紙幣が出回るまでの間、応急処置として旧札に『証紙』を貼って通用させました。」
参照:戦時中、戦後の通貨


このことは、物価上昇がなく、外貨債務のない国は、兌換義務がない通貨をどんなに印刷してもかまわないという新(珍)通貨理論MMTは、こうして終わることの示唆ではないか?

また、図05で注目して頂きたいのは、債務が急増!とハイライトした辺りだ。

前図04のように、税収の伸びが止まっても、歳出が止まる訳ではない。ODAなどの対外援助も、昔の豊かだった頃と、基本的には変わらない。収入が減った家計でも、今まで通りの生活が止められないのと同じだ。

つまり、こうした政府債務の急増は、税収が1990年度にピークをつけたことで、決定づけられたと言っていい。


・自助の限界:日本が幸せになるには?

こうして政府が巨額の累積赤字を抱えたことで、様々なところで、「国民の自助」を促すようなコメントや政策が見られるようになってきた。

とはいえ、社会保険料や税金を納めているのは国民で、それは本来、自助を意味するのではないか? そうした国民の資産を運用していながら、返済の見通しが立たない巨額の債務を次の世代に背負わせて、「自助が原則」というのは、何をか言わんや、ではないのか?

日本は1988年度までの税制で十分にやれていた。経済は成長し、課税所得も税収も増えていた。「ジャパン・アズ・ナンバー1」などと言われ、どこに行っても一目置かれ、いい気分を味わっていた。生産人口の減少だけで、こうした没落がすぐに始まるはずがない。すべては税制なのだ。

私は、次世代へのこうしたリスクの先送りは、子孫はもとより、先祖に対しても申し訳が立たないと思っている。とはいえ、私自身ができることなどなきに等しい。

私ができることは、より多くの人々に日本経済が抱える問題点を知って頂くことだ。それで、「日本が幸せになれるシステム」を、2021年春にデジタル出版した。

しかし、デジタルのキンドル版ではなく、紙の書籍をという要望があったので、今回はペーパーバック版も出版した。内容は同じだ。

上記のうち、図02内に挿入した株価チャート以外は、すべて本書に納められている。もっとも、ペーパーバック版の図表はカラーではなく、白黒なのをご容赦頂きたい。

三択で答える問題集も用意している。





・Book Guide:What has made Japan’s economy stagnant for more than 30 years?/ How to protect the pension and medical care systems (Arata Yaguchi: Kindle Edition)

 

・Quiz Book:What has made Japan’s economy stagnant for more than 30 years?: 57 questions to reveal the problems of the Japanese economy (Arata Yaguchi: Kindle Edition)

 

・著書案内:日本が幸せになれるシステム: グラフで学ぶ、年金・医療制度の守り方(著者:矢口 新、ペーパーバック版)

 

・著書案内:日本が幸せになれるシステム・65のグラフデータで学ぶ、年金・医療制度の守り方(著者:矢口 新、Kindle Edition)
 

・著書案内:日本が幸せになれるシステム問題集・日本経済の病巣を明らかにするための57問(著者:矢口 新、Kindle Edition)




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