・米連銀は、火に油を注ぎ続けるのか? | 矢口新の生き残りのディーリング

・米連銀は、火に油を注ぎ続けるのか?

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☆米連銀は、火に油を注ぎ続けるのか?

米6月の消費者物価指数は前月比+0.9%、前年比+5.4%だった。コア指数は前月比+0.9%、前年比+4.5%だった。パンデミックからの需要の急回復に供給不足が重なり、前年比ではそれぞれ約13年ぶり、約30年ぶりの伸び率だった。半導体不足で自動車生産が滞り、中古車価格が19年比で+41%となるなど、国民に身近な品目も値上がりが続いている。

また、米4月のS&Pケース・シラー20都市住宅価格指数は前月比+1.6%、前年比+14.9%だった。前年比では1987年の統計開始以来の最高の伸び率を記録した。米5月の中古住宅販売価格中央値は前年比23.6%の35万0300ドルで、全米不動産協会が記録を取り始めた1999年以降で最大の上昇率となった。

そのためレントも上がり、米国のどの州でも、どの郡でも、どの都市でも、フルタイムで週に40時間働く最低賃金労働者では2ベッドルームの賃貸住宅の家賃が払えないことが、全米低所得者住宅連合の報告書で分かった。1ベッドルームの賃貸住宅でも、フルタイムの最低賃金労働者家賃を払える郡は全米で3000以上ある郡の7%(218郡)だけとなった。
参照:Minimum wage workers can't afford rent anywhere in America 


一方、米連銀のパウエル議長は「米経済は資産購入の縮小を開始できるだけの進展をまだ見せていない」と強調。「インフレは一時的なもの」で、警戒感を持ちながらも緩和的な金融政策を続けるとした。

パウエル議長が言及する経済回復の進展とは、労働市場の回復だ。ピーク時には2500万人を超えていた失業保険の継続受給者が、先週発表の数値では324万1000人にまで減少したが、まだ多いと言えば多い。

一方で、米5月のJOLTS求人件数は920万9000件で、6月の雇用統計による5月の失業者数931万6000人とほぼ一致していた。求職しながら求人に応じない理由としては、対人職の求人が多くコロナ感染が恐いため、失業手当を受け取っているため、子育て対策が不十分なためなどが挙げられている。

このことは、金融緩和により労働市場の回復がこれ以上進展するとしても、パウエル議長が望む水準にまで達成するには、相当期間を要することが見込まれることだ。つまり、それまでは失業保険の継続受給者が2500万人を超えていた時期と、同規模の金融緩和を継続する「懸念」があることを暗示している。

インフレの炎が、パウエル議長が見なしているように仮に「くすぶっている」だけだとしても、コロナ禍の最悪期に始めた、ほぼゼロ金利と大量の資金供給いう前代未聞の規模の「燃料」を注ぎ続けると言うのだ。


ところが、米国にはインフレの鎮静化を相当期間も待てない人々がいる。

6月の住宅保護期限切れで、何百万人もの米国人が立ち退きに直面か。1100万人以上の米国人たちが家賃を滞納している。そして、全国的な立ち退き強制禁止期間が期限切れとなる6月に、多くが自宅から追い出されるかも知れない。
CDCの立ち退き猶予は9月から実施されていたが、6月30日に失効する。
立ち退き率は州によってバラツキが出る見込みだ。
例えば、予算と政策優先センターによれば、フロリダ州やサウスカロライナ州では賃貸者の4人に1人が家賃を滞納しているのに対し、メーン州やケンタッキー州では6%にとどまっている。
参照:Millions of Americans could face eviction as housing protection expires in June 


フルタイムで週に40時間働いてもホームレスになるとすれば、条件の合わない求人に応じることはできない。米連銀の金融緩和でますます住宅価格が上がるとすれば、これ以上の労働市場の改善はむしろ望み薄になってくる可能性がある。

資産運用会社のブラックロックはインフレ率の上昇を受け、9月からすべての従業員のベースサラリーを8%引き上げると報道された。状況次第では2022年初めにも追加で賃上げを行うという。

一方で、一般の米大企業の従業員たちはそこまで恵まれてはいない。

昨年のCEO報酬、平均労働者の299倍以上。S&P500企業のCEOの平均報酬は昨年、平均的な労働者の給与の299倍だったと、アメリカ労働総同盟・産業別組合会議が年次「役員報酬監視」報告書で発表した。
CEOたちは平均報酬総額1550万ドルを受け取った。過去10年間で毎年26万ドル以上の報酬増だった。その一方で、2020年の生産部門と非管理職の労働者の平均所得は4万3512ドルで、過去10年間で毎年ほんの957ドルの上昇だった。
参照:CEOs made 299 times more than their average workers last year


バイデン政権は大規模な財政出動の財源を賄うため、大企業や富裕層に増税を課すことはあっても、低中所得層に負担を強いることはないと公言してきた。

しかし、賃金の上昇が物価の上昇に追いつかず、明日の住居、明日の生活に脅える人々が急増していることは、大規模な政府の財政出動や中央銀行の金融緩和を事実上負担しているのは低中所得層であることを強く示唆している。



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