・金融緩和の袋小路に迷い込んだEU 3/4 | 矢口新の生き残りのディーリング

・金融緩和の袋小路に迷い込んだEU 3/4

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☆金融緩和の袋小路に迷い込んだEU 3/4

 

今回分が長くなり過ぎたので、1回追加し、4回に分けて配信する。

 


・英6月以降の経済指標

 

ブレグジット決定が英国経済に与えた影響はどうだったのか? 私が毎日「生き残りディーリング塾」で提供している情報の中から、英国経済に関する指標で6月以降(第2四半期を含む)の数値を扱ったものを、以下に発表順に提供する。7、8月に発表されたものでも、5月以前のものは取り上げない。

 

経済指標には、成長率やインフレ率など実際の経済活動の数値を扱ったものと、信頼感指数のように消費者や企業のセンチメントやマインドを扱ったものと、大きく分けて2種類ある。そこで、前者をF、後者をSと表示した。

 

私は日々目につく限り、できるだけ多くの国々のこうした数値や、金融、商品市場に関するデータ、他の興味深い話題などを提供している。自立した投資家を育てたいとする「塾」で、必ずしも収益には直結しないこうした細かな数値を提供しているのは、的外れではない小さなことの積み重ねが、大きな勝利に繋がると信じているからだ。

 

もともとは投資運用に役立てるために追いかけていた情報だが、30年以上も続けているので、このブログでもご紹介している「消費増税と日本経済縮小の相関関係」、「サブプライムショックとリーマンショック」、「ユーロの構造的欠陥について」などの見方にもつながっている。

 


以下が英6月以降の経済指標だ。なお、前月比、前年比とあるものは、前月比をざっと12倍し、前年比と比較して、加速か減速かの参考にして頂きたい。

 

F:英6月のライトムーブ住宅価格は前月比+0.8%、前年比+5.5%だった。

 

S:英6月のCBI企業動向調査は-2だった。5月の-8から改善した。

 

*:ブレグジット決定

 

S:S&Pは英国の長期ソブリン格付けをAAAからAAに2段階引き下げた。見通しは「ネガティブ」。

 

S:フィッチは英国の長期ソブリン格付けをAA+からAAに1段階引き下げた。見通しは「ネガティブ」。

 

S:ムーディーズは英国の長期ソブリン格付けAa1を維持、見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げた。

 

F:英6月のネーションワイド住宅価格は前月比+0.2%、前年比+5.1%だった。

 

S:英6月のGFK消費者信頼感調査は-1だった。5月と同水準だった。

 

S:英6月の製造業PMIは52.1だった。5月の修正値50.4から上昇した。

 

S:英6月の建設業PMIは46.0だった。5月の51.2から急低下、7年ぶりの低水準となった。

 

S:英6月の非製造業PMIは52.3だった。5月の53.5から低下した。

 

F:英6月のBRC店頭価格指数は前年比-2.0%だった。5月の-1.8%からマイナス幅が拡大した。

 

F:英6月のハリファックス住宅価格指数は前月比+1.3%、前年比+8.4%だった。

 

F:英7月7日実施の10年債入札は、応札倍率が2.33倍と2013年1月以来の高倍率となった。5月の入札は1.79倍だった。平均落札利回りは0.912%と、2カ月前の入札時の1.656%から大幅に低下した。発行額は22億5000万ポンド、表面利率は1.5%。

 

F:英6月のBRC小売既存店売上高は前年比0.5%減だった。5月の0.5%増から悪化した。

 

S:英6月のRICS住宅価格は+16だった。5月の+19から低下した。

 

F:英6月の消費者物価指数は前月比+0.2%、前年比+0.5%だった。コア指数は前年比+1.4%と、5月の+1.2%から加速した。

 

F:英6月の小売物価指数は前月比+0.4%、前年比+1.6%だった。生産者物価指数は前月比+0.2%、前年比-0.4%だった。コア指数は前月比+0.1%、前年比+0.7%だった。

 

F:英7月のライトムーブ住宅価格は前月比-0.9%、前年比+4.5%だった。

 

F:英6月の小売売上高指数は前月比0.9%減、前年比4.3%増だった。除自動車燃料では前月比0.9%減、前年比3.9%増だった。

 

S:英7月の製造業PMI速報値は49.1だった。6月の52.1から低下した。非製造業PMIは47.4と、52.3から大幅に低下した。

 

S:英5-7月期のCBI製造業楽観度指数はマイナス47と、前期のマイナス5から大幅に悪化、2009年1月以来の低水準となった。総受注はプラス9と、前期のマイナス4から上昇、1年ぶりの水準に回復し、歴史的平均のマイナス1を上回った。7月単月の製造業受注指数は、6月のマイナス2からマイナス4に低下した。今後3カ月の生産高の見通しは6月のプラス23からプラス6に落ち込み、昨年12月以来の低水準だった。

 

F:英7月のCBI流通取引調査報告済売上高は-14だった。6月の+4から大幅に悪化した。

 

F:英7月のネーションワイド住宅価格は前月比+0.5%、前年比+5.2%だった。

 

S:英7月のGFK消費者信頼感調査は-12だった。6月の-8から大幅に悪化した。

 

F:英6月のマネーサプライM4は前月比+1.1%、前年比+3.5%だった。消費者信用残高は18億ポンド増と、5月の修正値16億ポンド増から加速した。住宅証券融資高は33億ポンド増と、5月の修正値29億ポンド増から加速した。住宅ローン承認件数は6万4800件で、5月の修正値6万6700件から減少した。

 

S:英国7月の製造業PMI確報値は48.2だった。6月の52.4から低下、2013年2月以来の低水準となった。速報値の49.1からも大幅下方修正された。

 

S:英7月の建設業PMIは45.9だった。6月の46.0からやや低下した。

 

S:英7月の非製造業PMI確報値は47.4だった。速報値と変わらずだった。

 

F:英7月のBRC店頭価格指数は前年比-1.6%だった。6月の-2.0%からマイナス幅を縮小した。

 

F:英7月のハリファックス住宅価格は前月比-1.0%、前年比+8.4%だった。

 

F:西欧17カ国7月の乗用車販売台数は前年比2%減の107万0600台だった。前年割れは35カ月ぶり。営業日が前年より少なかったのが主因。ドイツ3.9%減、フランス9.6%減、英国は0.1%増だった。

 

F:英は政策金利を0.25%ポイント引き下げ、0.25%とした。利下げは2009年3月以来。資産買い入れ枠も3750億ポンドから4350億ポンドへ拡大した。

 

F:英7月のBRC小売既存店売上高は前年比1.1%増だった。6月の0.5%減から大幅に改善した。

 

F:英6月の貿易収支は124億ポンドの赤字だった。5月の修正値115億ポンドの赤字から拡大した。

 

F:英6月の鉱工業生産は前月比0.1%増、前年比1.6%増だった。製造業生産高は前月比0.3%減、前年比0.9%増だった。

 

F:イングランド銀行が8月9日に行った英長期国債買い入れは目標額に届かなかった。英中銀は償還期限15年超の国債買い入れ目標額を11億7000万ポンドと設定していたが、実際の応札額は11億1800万ポンドにとどまり、投資家が資産の手放しに消極的になっていることが示された。10年債と30年債利回りは一時過去最低をつけた。

 

S:英7月のRICS住宅価格は+5だった。6月の修正値+15から低下した。

 

F:英8月のライトムーブ住宅価格は前月比-1.2%、前年比+4.1%だった。

 

F:英7月の消費者物価指数は前月比-0.1%、前年比+0.6%だった。コア指数は前年比+1.3%と、6月の+1.4%から減速した。

 

F:英7月の小売物価指数は前月比+0.1%、前年比+1.9%だった。コア指数は前年比+1.9%と、6月の+1.7%から加速した。生産者物価指数は前月比+0.3%、前年比+0.3%だった。コア指数は前月比+0.4%、前年比+1.0%だった。

 

F:英6月のONS住宅価格は前年比+8.7%だった。5月の修正値+8.5%から加速した。

 

F:英4-6月のILO失業率は4.9%だった。3-5月と同水準だった。7月の失業保険受給者ベース失業率は2.2%だった。6月と同水準だった。失業者数は8600人減だった。

 

F:英7月の小売売上高指数は前月比1.4%増、前年比5.9%増だった。除自動車燃料では前月比1.5%増、前年比5.4%増だった。

 

F:英7月のBBA住宅ローン承認件数は3万7662件だった。6月の修正値3万9763件から減速した。

 

F:英8月のCBI報告済売上高は+9だった。7月の-14から大幅に改善した。

 

F:英第2四半期のGDP改訂値は前期比0.6%増、前年比2.2%増と、速報値と同じだった。家計消費は0.9%増と約2年ぶりの高い伸び。設備投資は0.5%増だった。

 

F:英4-6月のサービス業指数(UK index of services)は前期比0.5%増だった。3-5月の0.3%増から加速した。

 

F:英第2四半期の総合事業投資速報値は前期比0.5%増、前年比0.8%減だった。


どうだろう? Fで示したファクト、実際の数値に比べて、Sで示したセンチメントが弱く出ているのが見て取れるようだ。もっとも、ブレグジットは決定しただけで実務は来年以降なので、今後の展開は不明だ。

 


・割安となった英国資産

 

ブレグジットに関しては、英国民は「常軌を逸した」とされ、経済面を中心にそのデメリットが大きく報じられてきた。物事には、何事にもメリットとデメリットがある。ブレグジットのデメリットだけを取り上げれば、確かに大きなダメージだ。特に目立ったのが不動産ファンドで、投票直後は多くのファンドが解約凍結に追い込まれた。またポンドの急落を受けて、米ドル建ての経済規模でフランスが英国を抜き世界第5位に浮上した

 

一方のメリットとして、英国は今後、米加への観光ビザ、移民政策、その他の外交、貿易政策などをEU政府に気兼ねすることなく、自由に行える。また、もともとユーロ圏諸国にはないが、英国にはある独自の通貨・金融政策や財政政策が、より自由に行える。

 

ノルウェーのソルベルグ首相は、英国がノルウェーなど4カ国で構成する欧州自由貿易連合(EFTA)に加盟すれば恩恵が得られる可能性があるとの考えを示した。EFTAはノルウェー、スイス、アイスランド、リヒテンシュタインの4カ国で構成。英国も設立に関与したが、EUとの関連でEFTAには加わらなかった。EFTAはカナダ、チリ、シンガポールを含む約30カ国と自由貿易協定を締結している。

 

また、英国で生産し、EUに輸出している日本の自動車メーカーは、ブレグジットによりEUへの輸出に関税がかけられることは痛手だと、離脱に反対していた。それに対し、英国のオズボーン財務相は、現在20%の法人税率を15%以下と先進国で最低水準に引き下げる考えを明らかにした。このように、独自の経済政策を機動的に運用できることは、大きなメリットだ。

 

ここで、私が疑問に思ったのは、日本の自動車メーカーはそもそもなぜ英国に工場を建てたのかということだ。英国よりも安く労働力を得られる国々は、南欧、東欧圏を中心にいくらでもある。その国がユーロ圏ならば、為替リスクもない。時には関税率など比較にならない位動く為替リスクを承知で英国に工場を建てたのは、それなりに有利な条件があったはずだ。でなければ、株主への説明責任が果たせない。

 

私が勝手に推測する英国進出のメリットは以下の通りだ。

 

1、英語圏である:これは欧州では英国だけだ。ブレグジットを受けて、EU政府並びにECBでの公式言語から英語を外すべきだと発言したEU高官がいた。では、英語に代わる言語は何か? ドイツ語か? フランス語か? イタリア語? スペイン語? オランダ語? しかしながら、どの言語を選んでも、EU統一の理念からは逸脱する。

 

英国ならば、英語というすでに確立した国際共通語で仕事や生活ができる。それ故に、世界中から優秀な人材を集めることもできるのだ。

 

2、金融市場が発達している:外為市場、金属取引所(LME)、海運市場(バルチック海運指数)の規模は世界一だ。また、ロイズの再保険がなければ、世界の損害保険ビジネスが成り立たない。そして、それらを支える法律事務所、会計事務所などが充実している。

 

3、金融制度が整備されている:国際取引契約は英語で作られ、英国法かニューヨーク州法が準拠法となっている。そのため、裁判管轄はロンドンかニューヨークだ。これをフランス語やドイツ語で契約書を作り直し、今後はパリやフランクフルトでの裁判を前提にすることは、EU統一の理念から逸脱し、コストも膨大なものとなる。そしてそれは、EUが世界から孤立することも意味する。また英国の法制度は、他の主要国と比べても歴史があり、安定していて、リスクが少ない。

 

4、規制の質が違う:EUの規制は、EU統一を前提にした規制で、域外に対しては、しばしば排他的だ。一方、英国はEFTAとの関係でも見られたように、EUメンバーであることと、より国際的であることのジレンマを抱えてきた。今後もEUが統一に向けて進むことが前提なのに対し、今後の英国はますます国際的にならざるを得ない。これは、EU構成国以外の諸国にとっては、大きなメリットだ。

 

5、地の利がある:最後に挙げたが、日米独にはない大きな利点だ。英国は欧州大陸と米大陸の間に位置している。外為市場ならば、午前中はアジア市場、欧州市場とオーバーラップし、午後から夜にかけて欧州市場、米市場とオーバーラップする。また、英語と歴史的な事情から、グローバル企業の中近東やアフリカ相手のビジネスは、通常ロンドンがカバーしている。その意味では、日本企業にとっても、ロンドンに拠点を置く重要性は、今後も変わらない。

 


ブレグジットで、ポンドは対ユーロで2015年11月から2割以上下落した。これは同時に、2割の関税に耐えられることを意味する。また仮に、ブレグジットが英国没落の始まりなのなら、今後もポンド安のメリットが享受できることになる。そして、そうなれば英国政府からは、法人税率の他に、さらに有利な条件を引き出すことも可能かもしれない。

 

また、残留派が言い続けてきたように、英国の不動産や株価が下落し、雇用が失われて、大きなダメージとなるとすれば、これまで不動産価格が高くて進出できなかったところに、大きなチャンスが巡ってきたことになる。株価は逆に上昇したが、今後、安くなれば買えるようになる。中国資本はブレグジットを千載一遇の好機として、英国資産を安値買いしたという。また、雇用市場が買い手市場になるのなら、進出するところにはメリットがあり、感謝もされる。

 

英不動産会社サビルズが7月に行った調査では、企業が負担する駐在員1人当たりの事務所と住宅費の年間賃貸料の合計順位で、ロンドンが首位から3位に転落した。ロンドンは2015年末から11%下落、10万0141ドルだった。新たな首位はニューヨークで、2位には香港がなった。ニューヨークは2%、香港は1%それぞれ上昇した。東京は22%と大きく上昇し、8万5331ドルで4位となった。この上下幅を見ていると、ほとんどが為替レートの影響だと分かる。

 

ソフトバンクは、7月18日に英半導体設計会社のARMホールディングスの全株式を現金で取得することで合意したと発表した。総額は約240億ポンド。発表時の為替で約3兆3600億円と巨額買収だが、これが1年前ならば約4兆6800億円と更に巨額なものだった。基本的には同じものが、為替の変動だけでこれだけ安くなった。この買収について、メイ英首相は孫社長に感謝の意を表明したという。

 

 

次回のトピック、「規制強化で、殺されつつある世界の市場主義経済」、「金融緩和の袋小路に迷い込んだEU」に続く。

 


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