GS 日本:ポートフォリオ戦略 | Market Cafe Revival (Since 1998)

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四つの単語でできた言葉の中で、最も高くつくものは「今度ばかりは違う」である(This time is different.)。

GS 日本:ポートフォリオ戦略 (2008 年12 月10 日)

2009 年相場展望:不安定ながら後半には反発の可能性も

1)脆弱なファンダメンタルズ
日本では欧米と同様2009 年も景気後退が続く見通しで、企業収益は2008-2009 年度累計で38%減となろう。当社のバリュエーション分析では、市場は既に企業収益の当社基本シナリオを織り込み済みと見られるが、世界的なデフレ突入というハードランディング・シナリオでは更に20%以上の株価下落リスクもありうる。

2)ベアマーケット・ラリーが生じる公算大
しかし、日本の「失われた10 年」の経験から、デフレ下でも大幅なベアマーケット・ラリーは生じうること、景気モメンタムの回復と政策対応がその起爆剤となることがわかっている。年初のラリーの可能性も排除できないが、より持続的な上昇が見られるのは、政策の効果により景気悪化に歯止めがかかり、市場が2010 年の景気回復を織り込み始める2009 年後半となろう。外国人の売りは引き続きリスクとなるが、当社は国内投資家の買いが拡大する可能性があると見ている。2009 年のTOPIX の予想レンジを600-1,100 とし、値動きの荒い相場展開の継続を見込む。

3)相場反発に備える
目先は安定成長セクターを引き続き選好するが、年後半の反発に備え、ラリーでアウトパフォームしそうな景気敏感銘柄、中国関連銘柄、2009 年注目銘柄の選別も行った。下値リスクのヘッジには2009 年3 月限のノックイン・プット・スプレッドの買いを推奨する。

サマリー:回復を待つ

2008 年は、世界の株式市場における31 兆ドルの時価総額消滅、大手金融機関の破綻、信用逼迫の拡大、デフレ懸念の高まりといった困難に見舞われ、金融市場と投資家にとって極めて厳しい年となった。日本は企業のバランスシートが相対的に強固なことから、当初は世界的な信用収縮と金融不安を乗り切れる可能性があるとの見方が大勢を占めていた。しかし、高い輸出依存度ゆえに、日本もまた世界的な景気失速の影響を免れず、欧米と同様景気後退に陥った。円高を背景に、日本株は米ドル・ベースでは年初来で世界株(日本を除く)をアウトパフォームしているが、TOPIX は円ベースで年初からほぼ50%下落している。

信用危機が続いているが、2009 年(丑年)は、「辛抱強く精進を重ねて繁栄を築く」とされる丑にあやかり、市場の回復を期待したいところである。以下に、当社の2009 年の相場見通しをまとめた。

• 世界経済の見通しは依然として厳しく、日本では、高い輸出依存度と内需低迷から2009 年も景気後退局面が続くと予想される。企業収益は、売上成長の鈍化により、2008~2009 年度累計で38%の減益となろう。ただし、世界的なデフレ突入や、更なる円高といったハードランディング・シナリオでは累計減益率は50%に達する可能性がある。
• 当社のバリュエーション分析から、市場は既に企業収益に関する当社の基本シナリオを織り込み済みと考えられる。このため年明けのラリーの可能性も排除できないが、マクロ経済と企業に関するニュースの好転が見込めないことから、上昇する場面があったとしてもその度合いは小さく、下振れリスクが残るだろう。市場が企業収益のハードランディング・シナリオを織り込み始めた場合、TOPIX は現在の水準から更に20%以上下落する(600 もしくはそれ以下)可能性がある。
• ただ、日本の「失われた10 年」の経験から、デフレ環境下でも大幅なベアマーケット・ラリーは生じうること、またその重要な起爆剤となるのは景気モメンタムの好転と政策対応であることがわかっている。現在のマクロ見通しと来年早々に実施が見込まれる景気対策を前提とすると、景気悪化に歯止めがかかり、市場が2010 年度の回復を織り込み始める2009 年後半にラリーが生じる可能性があろう。企業収益、バリュエーション、資金フローの分析結果に基づき、2009 年のTOPIX の当社目標レンジを600~1,100 とする。残念ながら、2008 年よりも安定した相場を期待する向きは失望を味わうことになろう。
• 外国人の売りが続いていることは2009 年もリスクとなる。しかし、国内投資家は再び株式市場に戻ってきている。中でも、魅力的な代替商品が見当たらないことから18 年ぶりに買い越しに転じた個人投資家の動向に注目したい。
• 目先は引き続き株価下振れリスクがあるため、当面は景気敏感株や輸出株よりも内需関連の安定成長株を選好するスタンスを継続する。しかし、それと同時に、株価反発の可能性を見込み、アウトパフォームする可能性がある高ベータの景気敏感株の物色も開始したい。本リポートでは、相場の反発局面でアウトパフォームしそうな銘柄を、当社アナリストの定性的評価と計量的スクリーニングの2 通りの手法により抽出した。また、当社の中国関連日本株バスケットと当社アナリストの2009 年選好銘柄にも注目したい。
• 市場の下値リスクをヘッジするため、現在の日経平均の高スキューに着目し、日経平均の2009 年3 月限95%/85%/65%ノックイン・プット・スプレッドを4.5%のコストで買う戦略を推奨する。高いインプライド・ボラティリティを利用した個別銘柄のカバード・コールの売りも提案したい。

「失われた10 年」の教訓

マクロ、企業収益、バリュエーション分析だけから結論を導くなら、2009 年の日本市場は弱気相場から抜け出せないということになるかもしれないが、1990 年以降の日本の経験から得られる教訓を思い出してほしい。デフレと債務圧縮の最中にあっても株価は景気と企業収益のサイクルに連動して変動し、長引く弱気相場においても大幅なラリーは生じうるのである。

当社は株式市場で2009 年中にリリーフ・ラリーが生じる可能性があると見ている。そこで、過去のベアマーケット・ラリーの分析により、その具体的な起爆剤となった要因を探ってみたい。

過去のベアマーケット・ラリーを分析する図表13 に示したように、1990 年の資産バブル崩壊以後、TOPIX は大幅なラリーを4 回経験している。ベアマーケット・ラリーはどれも同じというわけではないが、共通点を見出すため、それぞれについて詳細に分析してみた(図表13 参照)。当社の分析から、日本の1990 年以降のベアマーケット・ラリーについて、次のような結論が得られる。

1. 上場幅が大きい。TOPIX は平均44%調整して底を打ち、その後3 ヵ月、6 ヵ月、12 ヵ月に平均14%、29%、48%上昇している。急激な調整の後には急激な反発が訪れることが多い。
2. 持続期間がかなり長い(例外は2003~2006 年のラリーで、平均持続期間は約13 ヵ月)。
3. 景気と企業収益の底入れと連動して生じる。

見通しとテーマ:ディフェンシブに重点を置きつつ、ラリーに備える

2009 年の見通し
企業収益、バリュエーション、資金フロー、さらに過去のベアマーケット・ラリーの分析を統合し、以下の結論に至った。

1. 当社のバリュエーション分析は、市場が既に当社の現在の収益予想を織り込んだことを示している。しかし、世界的にデフレに突入となるようなハードランディング・シナリオでは、市場に20%以上の下振れリスクが残る。
2. 日本の「失われた10 年」の経験から、デフレ下でも大幅なベアマーケット・ラリーが生じうること、景気モメンタムの回復や政策対応の変化がその起爆剤となることがわかっている。年初のラリーの可能性も否定的ないが、大幅な株価上昇が見られるのは、景気対策が実施され、景気悪化に歯止めがかかり、市場が2010 年の景気回復を織り込み始める2009 年後半となるだろう。外国人投資家の売りというリスクは残るが、国内投資家の買いが予想以上に拡大する可能性もある。
3. 当社推定による2009 年のTOPIX 取引レンジは600~1,100 で、引き続き値動きの荒い展開が予想される。

目先は慎重なスタンスを継続

1 月20 日のオバマ新大統領就任などもあり、年初のラリーの期待が高まるが、マクロ・データの悪化、企業収益予想の一段の下方修正、現在も進行中の信用収縮ならびに金融危機、デフレ懸念の高まりなどファンダメンタルズの逆風から、目先、株価には下振れ余地が残る。このため、輸出関連や景気敏感は避け、当面は内需関連や安定成長が見込めるセクターならびに株式を投資対象とするスタンスを持続すべきであろう。当社が現在オーバーウエートとしているセクターも、以下のように、内需関連や安定成長が期待される業種に集中している。

• 通信
• 生活必需品
• 小売
• サービス
• 鉄道(運輸セクター内で)

ラリーへの備え

この一方で、最近の世界の投資家との意見交換から、多くの投資家が同じようにディフェンシブに重点を置いたポートフォリオを構築していることがわかる。過去のベアマーケット・ラリーでは高ベータの景気敏感セクターが先行してアウトパフォーム(図表26 参照)しており、「逆張り」のシクリカル・ラリーが多くの投資家の悪夢となることは明らかである。