元気になると介護量が増えて要介護度が高くなる。
介護の現場を知らない人は疑問を感じる表現だろう。
もしかしたら介護職を長く経験している人も、「この人は何を言ってるの?利用者さんが元気になるのは良いことじゃない」と思う人も多いだろう。
今日はそんな話。
もともとは歩行や食事、排せつなどのADLも概ね自立、物忘れ程度の軽度の認知症があったWさん。
しかし昨年秋に脳出血を発症、後遺症として重度の右半身麻痺、入院中の身体拘束により認知症は進行し強いせん妄が出現していた。
1か月半の入院を経て退院、施設に戻ってきた、いや、正確には戻られた。
当然だが施設では身体拘束は原則禁止である。
夜間を中心としたせん妄、ベッド上での多動により転落することも多かった。
低床ベッド、センサー、日中の活動や離床、排便を疑い下剤などの管理や調整、睡眠入導剤や安定剤の検討、「本人が何をしたいのか?」の聞き取りや、様々な側面からアセスメントをした。
幸い怪我をすることはなかったが、それでもWさんの行動は変わらなかった。
ある日、Wさんから「腹が減った。」という訴えが続くようになった。
普段のつじつまの合わない発言ではなく、明確な要求、担当として私は嬉しかった。
入院中に体重が7kgも減り、退院直後は食欲も殆どなかった。
栄養士や看護師に相談をして食事を大盛に変更、主食もミキサーから粥に変更、捕食としてエンシュアも医師から処方してもらった。
食事の変更をして1か月が経過したころ、体重こそ変化はないがWさんの表情や言葉の明瞭さは格段に良くなった。
会話も成り立つことが増えてきた。
Wさんは『元気』になったのだ。
当然体力や筋力も高齢者なりに増えてきたのだろう。
ベッド上での活動量も増え、転落や転落未遂の回数も増加してきた。
「なんか元気になったのは良いけど、手がかかるようになってきたねえ。」
職員たちの言葉だ。
私もそう感じていた。
そんなある日、Wさんが車いすから前のめりに転落した。
車いす上でも立ち上がろうとするようになり始めていたので、離床中は職員がそばに付くようにしていた。
しかし他の利用者様の対応で場を離れたほんの数10秒の出来事だった。
「いってぇ、起こしてくれー!。」
Wさんの声がユニット中に響いた。
救急車で緊急搬送、診断の結果は右大腿骨頸部骨折だった。
骨折をしたのは右足なので左半身に支障はない。
人工骨置換術を行ったので数週間の入院となる。
おそらく、再び拘束をされるのだろう。
Wさんは元気になったのに、『手がかかるようになった』のだ。
Wさんは元気になったのに、また入院をすることになったのだ。
私はどこで選択を間違えたのだろう。
Wさんは元気にならないほうが良かったのだろうか?