細木 それや、どういふ意味ですか?
大里 知らん。ただ、その後で、僕に謝罪しなけれやならんことがあるといふんだ。僕に対してだよ。いつたいなんだつて訊くと。……まあ、そんなことはここで言はんでもいいが、結局、つまらんことさ。なに、言つてしまつてもかまはんがね、つまり、彼は、自分の仕事、行動を絶えず僕がにらんでゐる。つまり、批判の眼を光らしてゐる。それがつらかつた、といふんだ。そこまではいいんだが、それからが、どうもをかしい。彼の曰くだ、さういふ僕の存在を煙たく思ふあまり、彼の意識のどこかで、絶えず僕の死をねがつてゐた、と、まあ、かういふわけなんだがね。そんなバカなことがあらう筈はないし、僕は断じてそれを信じませんが、さういふ妄想のやうなことを口走るのは、一種の錯乱状態、少くとも、興奮状態ではないかと思ふんだ。
細木 さうですか。さう言はれれば思ひ当るふしもないぢやありません。僕には、しかし、すべてを至極、淡々と、微笑さへふくんで話されたもんですから、異常な告白に類することもありはしましたが、僕は却つてそれを、冷静すぎるといふ風にみたのです。
大里 ははあ、君にも、なにか告白めいたことをしたか?
細木 内容はちよつとお話できませんが、たしかに、告白といつてもいいものです。むろん、それは単なる先生の内心の問題です。
