ひめが私の実家に顔を出さなくなってずいぶんたちます
父は要介護5、身障者1級で、死亡フラグが立っています
私とこぞうは週一ペースで通っています
もうすぐ死ぬ人と、それを介護している人にできることをしているだけです
理由はあります
「行っても話すことがないから」
そもそもの躓きは今年の初めでした
年末には杖を突いて歩いていたじいちゃんが、介添えなしでは起き上がることもできなくなりました
表情が無くなり、聞き取れる言葉は「死にたい」だけになりました
その頃、我が家ではこぞうのハワイ留学の準備が着々と進んでいました
日本の小学校を1ヶ月ぶっちぎって、最後の砦だった外貨預金を取り崩して、さすがにそれはやりすぎだろう、さすがにどこかであきらめてくれるだろうと思っていました
それでも私には相談されることの回答を日延べしたり、繭を潜めたりするくらいのことしかできません
自分に不利益な言葉はすべてシャットアウトしてしまうひとなので、まだしも相談している状況を維持しなければ暴走を止められないからです
私の母は堅実な常識人ですから、日ごろからひめの金銭感覚には繭を潜めていました
母は常識人なので、今までのところ正面激突のような事態は母のほうで避けてくれていました
どんな嫁でも逃げられるよりマシという悟りを開いているのです
「黙っていよう」
これが私の決断でした
ひめは不満だったようですが、敢えて自分からことを荒立てることもしませんでした
幸い、じいちゃんの容態は持ち直し、体の自由はともかくコミュニケーションは取れるようになりました
なんとかなったかな、と思っていた5月、私のリストラがありました
母は、気が強いひとですが、芯の強いひとではありません
10歳年上の父の掌の上できゃんきゃん吼えていた人です
父が死に向かっている今、立場が逆転して、気丈にがんばっていますが傍目にも破綻寸前です
そしてその母は、長男の私を盲目的に信用しています
その私が失業しました、と言ったらどうなるか…
これも黙っていることにしました
幸い会社都合なので、当座の生活には困っていません
次の仕事が決まったら、実はね…と言って笑い話にすればいいと思っていました
嘘なんてばれるものです
ハワイ行きは最悪の形でばらさざるを得なくなりました
7月、まさにハワイ留学中、じいちゃんの容態が再度悪化しました
私はなんとか帰国まで持たせようとあれこれ事情を捏造しましたが、ついに電話越しに号泣されてギブアップしました
帰国して、こぞうは実家に通うようになりましたが、ひめはまだ寄り付きませんでした
リストラのことがオフレコになっている限りやっぱり「話ができない」そうです
「きょうびリストラなんて普通、隠す意味わかんない」というのがひめの主張です
大筋で間違っているとは思いません、ただ介護中の老いた母に”きょうび”を要求するのはどうなのかと
正確に言うと、一回だけ、こぞうをつれてきたことがありました
私とこぞうがじいちゃんを散歩に連れ出したほんの30分の間、母とひめがどんな会話をしたのか、詳細は知りません
ひめ「介護が辛いからってあんな毒吐かれても困るわ。もう怖くて近寄れない。ハワイ行きを遊びって言われたマジムカツク」
母「○○さんって、死に際にいる家族になんであんな自分勝手なこと一方的に言えるのかしら。信じられない」
両方聞いてる私はどうしたらいいのかわからないので、どっちにも黙っています
8月、母の誕生日に弟嫁が実家でパーティを企画してくれた時、ひめは来ませんでした
母はひさしぶりにほろ良いで、弟嫁を絶賛して幸せそうでした
8月末、香港旅行の後位には決まってるかなーなんていう甘い期待は、ご存知の通りもろくも崩れ去りました
10月に父の誕生日があります
妹嫁はまたパーティをすると言っています
ひめはまた行きません
母がメールしてきました
「○○さん、さすがにちょっとおかしくない?」
追い詰められました
ひめともまた話をしました
結局平行線です
ひめは嫌われ耐性ができているので、人に悪く思われるのを苦にしません
正確には、嫌われるのがイヤだからという妥協の仕方をしません
気にならないはずはないんです
なんで私の言っていることを理解してくれないんだろう
私はそんなに難しいことを言っているのかな
ただ、世間一般当たり前の嫁っぽく、ほんの数時間にこにこ笑って台所を手伝ってあげてくれれば、それですべて丸く収まるのに、どうして敢えて難しいことをしてくれるんだろう
AB型の母は、表面が整っていればそれで満足してくれる人なんです
年に一回でも、仲のいい家族のふりができれば、それ以上こっちの痛い腹をつつくような無作法はしない人なんです
「だって、あなたがやっていることは尊敬できないから」
ああ、やっと混乱の根っこが理解できました
ひめの主張も腑に落ちました
確かに、ひめの角度から見たらかっこ悪いことしてました
弟嫁、ふみちゃんに電話して相談しました
彼女は弟と同じ歳でひめより年上、表面上強い妹属性を持っているのですが、某組合の幹部クラスでデキる社会人女性です
ちなみに弟はオタクでガキなので相談に値しません
「おねえさんは社会性が未熟なんで仕方ないと思います」
ふみちゃん、一刀両断するなー
「難しいですけど、いいタイミングで話して、お母さんに大人になってもらうしかないですね」
あと
「おねえさんはまだ守ってもらいたいひとだから、おにいさんがカバーしてあげなきゃだめですよ」
理屈はわかりますよ、理屈は
でもね、私も46歳のこどもなんですよ