だが物質はどこでも消滅などしてはいない。電子や原子核――それは物質自身である――が無くなったということを吾々は何処にも聞かない。では物質自身は無くならないまでも、物質の概念が無くなったのであるか。併し現にそう云っている物理学者自身が、物質という概念を捨てていないではないか。物質自身でもなければ物質の概念でもないとしたら、一体何が消滅したのであるか。――消滅したものは、従来の物質の概念[#「従来の物質の概念」に傍点]に過ぎない、ただ夫だけである。従来の物質の概念が消滅して、新しいもはや物質という概念ではない概念――例えばエーテルとか場とかエネルギー・波動・確率等々――が之に代ったように見えるまでである。処が之等の諸概念も新しく把握され替えなければ、従来の物質の概念の代用物にはならぬ。即ち夫は物質の概念にまで把握され替えられねばならぬのである。だから、物質という概念が他の概念に還元されて了うのではなくて、却って他の諸概念が物質概念として、造り替えられたのである。――物理学的な物質概念は新物理学に於ても亦決して消滅していない*。