でも、彼女に出会って僕は変わった。
心から愛しいと思える彼女。
そう、本当の愛を、彼女から教えてもらった。
彼女を愛し、彼女から愛されることを。
途端に君との生活は苦しくなった。
例えば、君が電話で「夕飯を作って待っているから」と言うから、空腹を我慢して家路を急いだ。
コンビニで弁当を買わずにね。
家に着いたら、君は嘘をついたことがわかった。
食事の支度をしていなかった。
具合が悪いと言い訳をした。
君は嘘をついた。
具合が悪いなら、電話でそう言ってくれれば、あの時コンビニで弁当を買ってきた。
それだけのことなのに・・・
僕は君が許せなくて、罵倒した。
横になっている君に。
彼女と約束した日、君は熱を出した。
僕は君に優しくした。
「寝ていなよ、僕は用事があるから、出掛けるよ」
そして、待ち合わせ場所で彼女を助手席に乗せ、遊園地へ向かった。
僕は初めて感動した。
今まで僕はジェットコースターに乗れなかったのだ。
でも、彼女と一緒なら、生まれて初めて、乗れたんだ。
彼女となら、空さえ飛べそうだった。
幸せって、こういうことなんだな。
君は仕事熱心だった。
具合が悪いのに、出張を休めないからと、横須賀に出掛けていった。
君と僕のアパートには、今は誰もいない。
彼女を招いたが、「ここは居心地が悪いわ」と言って、出ていこうとする。
僕たちは、彼女のアパートに向かった。
そこで一週間、彼女との二人きりの時間を過ごした。
全てがいとおしい時間だった。
僕は君といる時間が窮屈になった。
恐ろしくなった。
苦痛以外の何者でもない。
彼女となら、幸せを見出だせるのに。
何でこうも違うのだろう?
僕は、彼女と話し合った。
真剣に何度も話し合った。
そして、彼女と生きることを決めた。
彼女は、僕と付き合い始める前、僕の親友と付き合っていた。
正確には、フリーの彼女に、フリーの親友を紹介したのだ。
しかし、彼女は親友のことは好きにはなれなかった。
なのに、親友は彼女に一目惚れした。
しつこくアパートにつきまとう親友を、彼女は自分のアパートに入れ、関係を持ってしまった。
彼女は、好きでもない男と寝る女だった。
もし今、彼女を手放したら、彼女はまた何処かへ行き、好きでもない男と寝るだろう。
彼女が何処かへ行ってしまう。
僕の目の前からいなくなる。
見張っていないと、ダメなんだ。
それがいちばん怖かった。
彼女を手に入れるために、代償は、君を捨てることだった。
さよなら、君。
好きな人が出来たと告げた。
真冬の空の下、僕たちのアパートから君を追い出して、家具や家電を、また別の友達カップルに見せて、買い取ってもらうことにした。
君は家具家電に30万円を提示した。
僕から家具家電代を回収するつもりだったのだ。
友達カップルとは、まだ新しいそれらを、40万円で買い取ることで商談成立した。
「安くしてくれてありがとう」と感謝された。
君には30万円を渡した。
僕の手元には10万円残った。
君から僕たちのアパートの鍵を奪い取り、不動産会社には、転勤が決まったと嘘をついてアパートを解約した。
僕の携帯。
君とお揃いの携帯。
それに彼女が、カエルのぬいぐるみのストラップをつけてくれた。
何といとおしいのだろう。
君とのお揃いのうっとうしい機種が、急に彼女とのお揃いに見えた。
もし、君と別れずにいたとしたら。
僕の精神は破壊されていただろう。
彼女との愛が、君との縁を根絶してくれた。
別れる勇気を与えてくれた。
しかし僕は、彼女から、君という親友を奪ってしまった。
高校時代からの付き合いだと聞く。
彼女に、申し訳無いと謝った。
彼女は言った。
例え親友の一人を失っても、あなたを失う方がもっとずっと苦痛だわ。
僕は、本物の愛を、回り道をしたけれど、やっと、手にいれた。
君に出会わなかったら、君の親友の彼女にも出会えなかった。
ありがとう、君。
彼女と出会わせてくれて、本当に感謝しているよ。
これからは、彼女だけを守って生きていきたい。
二度と彼女の手を離さないように。
君と別れて、20年が過ぎた。
子供たちは成長した。
幸せに満ち足りた、僕の人生。
側には、彼女が微笑んでいる。
人生、何かを得るためには、何かを捨てること。
人生相談のラジオが、そう語った。
風の噂に、君のことを聞いた。
あの頃も太っていたけれど、君は、もっと太ったそうだね。
結婚もまだだと。
自己管理も出来ないのかい?
よく、振られると女の子は、元カレを見返すために、美しくなると言うけれど。
「やっぱり、君を選んで正解だったよ」
僕は彼女に微笑んだ。