このように、競馬界の時代の流れはネーハイシーザーやその周囲の人々にとっては厳しいものとなっているが、そんな中でネーハイ
シーザーは、誰もが想像しなかったほどのしぶとさをもって、自らの生きる道を切り拓こうとしている。2000年にデビューしたネーハイシーザー産駒は、予
想を上回る成績をあげたのである。
初年度に現れたネーハイシーザー産駒の出世頭となったヒマラヤンブルーは、2歳10月のセリでようやく買い手が決まって競走馬になったような馬だった
が、名門伊藤雄二厩舎からデビューした彼は早々に2勝をあげ、東京スポーツ杯(Glll)では2着に入る活躍を見せた。また、ヒマラヤンブルー以外の産駒
も、大物は出なくとも、確実に勝ちあがる堅実さを見せている。そんな初年度産駒の活躍を見た馬産家たちは、ようやく種牡馬ネーハイシーザーに本当の意味で
注目し始めたようで、一時は3頭まで減ったネーハイシーザーの種付け頭数は、2001年には50頭前後まで回復したという。ネーハイシーザーの初年度産駒
の母馬は、ほとんどが種付け料無料に集まる程度、つまり良質とは言い難い血統や戦績だったり、また高齢の繁殖牝馬だったりしたのだから、ネーハイシーザー
がそんな不利を乗り越えて頑張っていることは、称賛されてしかるべきだろう。
日本競馬にとっての時代の変わり目に生まれ、移りゆく直前の時期に輝いたネーハイシーザーは、自らに厳しくなっていく悲運の中でも、強く生き抜こうとし
ている。それ自体は素晴らしいことである。騎手としては、天皇賞・秋の後は決して恵まれていたとはいいがたかった塩村騎手も、調教助手としてはぜひネーハ
イシーザーに負けずに再起してもらいたい。
しかし、古馬の中距離王決定戦である天皇賞・秋を勝ったほどの実力馬であり、しかも重賞5勝、3度のレコードなどの実績で卓越したスピード能力を実証し
てもいるネーハイシーザーが、ここまで頑張らなければたちまち見放されてしまう馬産界というのも、なんとも末恐ろしい気がする。日本におけるGlの数は増
え続けているのに、内国産種牡馬の行く末は暗くなる一方だというのでは、これから生まれるであろう名馬たちの将来はいったいどうなるのだろうか。
今の日本の馬産界の現状を見ると、かつて一世を風靡した大種牡馬マルゼンスキーさえも、牝系としてはともかく、直系は絶えてしまいかねない危険にさらさ
れている。そんな中で、マルゼンスキーの直系の血を継ぐネーハイシーザーが最初から「時代の狭間」でしか生きられない状況は改善を望みたい。こうした状況
が続く限り、今は日本の在来血統を脅かす地位にいるサンデーサイレンスも、20年後には逆にさらなる外来血統によって滅亡の危機に瀕することになるかもし
れない。そんな繰り返しは、競馬を単なるギャンブルではなく壮大な物語たらしめている血のロマンをファンから奪い、結果的には競馬の先行き自体を暗くする
からである。また、ネーハイシーザーのような日本自身の在来血統を育てていかない限り、たとえ日本馬が欧米のGlをいくつ勝ったとしても、本当の意味で日
本が欧米のホースマンたちから競馬先進国として認められることはないだろう。
競走馬は、人と違って自らの行く末を自らの意思で決めることはできない。ただ勝ち続けることによって自分の価値をアピールし、優れた産駒を送り出し続け
ることでのみ生き残っていくしかない。だからこそネーハイシーザーのように、軽視されがちな純和風の血統の中から生まれながら、自分自身の実力で競走馬と
して、そして種牡馬としての未来を切り拓こうとする馬は、応援したくなる。ネーハイシーザーには、いつの日か彼や彼の子孫が、今度こそ日本競馬の王道を歩
む者として蘇り、そしてその地位にふさわしい扱いを受けることができる日まで、彼自身のため、そして日本競馬全体のために、強く、長く、そしてしぶとく生
き抜き続けてほしい。