勝ったネーハイシーザーと2着セキテイリュウオーとの差は、1馬身半だった。いったん先頭に立ってからの競馬は、形だけを見ると
セーフティリードを保ったままの完勝にも見える。しかし、この日ネーハイシーザーは、確かにサラブレッドの極限に挑んでいた。不得手なスローペースでの瞬
発力勝負に引きずり込まれながら、そして直線に入ってからは自ら積極的に動き、他のすべての馬から目標とされる厳しい競馬を強いられながら、ネーハイシー
ザーは自らの限界に挑み、そしてその力を出し切ったのである。この日の競馬の難しさ、厳しさを物語るように、勝ちタイムは1分58秒6を示していた。これ
は、前半がスローペースで流れたにもかかわらず、天皇賞・秋史上3番目に早いタイムでの決着である。
自らの勝利を確信した直後、塩村騎手は思わずその右手を突き出した。落馬、騎乗依頼の減少、同期へのコンプレックス・・・。多くの挫折に見舞われ、一度
はやる気まで失いかけながら、彼はまったく幸運にも与えられたチャンスを自らのために生かしただけでなく、その恩を最高の形で返すことができた。おそらく
彼のガッツポーズの中には、自らの栄光への誇りとともに、73歳の老伯楽に勝利を捧げたことへの安堵の思いが含まれていたことだろう。レースの後には、
「調教師は馬だけでなく人も育てなければならない」という信条のもとで才能を埋もれさせかけていた若手騎手を救っただけでなく、ついには自らの宿願まで果
たした老伯楽が彼のもとへと駆け寄る光景があった。